[小説/映画]西の魔女が死んだ

 梨木香歩の小説「西の魔女が死んだ」。小説を読んだのは、もう8年ぐらい前。"優しく"て"強い"梨木香歩作品の魅力に触れた作品です。昨年6月には映画化されました。まさか梨木作品が映像化されるとは思わなかった。DVDで映画版も観たので、合わせて感じたことを。

西の魔女が死んだ
梨木 香歩/新潮社・新潮文庫

 中学生のまいは、学校での人間関係が原因で学校に行くのを拒否する。そこでまいは、田舎の祖母の家でしばらく過ごすことにした。イギリス人のおばあちゃんと自然の中で暮らすまい。そこでまいはおばあちゃんが"魔女"であることを知る。まいもおばあちゃんから"魔女修行"を受けることになる…。




西の魔女が死んだ[DVD]
出演:サチ・パーカー, 高橋真悠/監督:長崎俊一/角川エンタテインメント/2008






映画「西の魔女が死んだ」オフィシャルサイト


 森の中のおばあちゃんの家の風景がとても美しく、本で読んで想像したとおりの世界観。沢山の草花や、それらに囲まれた暮らしの澄んだ美しさ。おばあちゃんの優しさとしなやかな強さに、優しく背中を押してもらえる気持ちになる。おばあちゃんの「アイ・ノウ(I know.)」の言葉も、イメージそのもの。お話の要所要所でこみ上げてくるものがあり、ラストシーンで涙が止まらなくなった。小説でもそうだった。映像になると、さらにイメージを刺激されて、心の震動が強くなる。小説を初めて読んだ時はまだ学生で、感動はしたものの涙までは出なかった。だが、数年経って私も社会人になり、肉親を亡くし…感じるものが増えたのだろう。まいの学校でのエピソードは私も通ってきた道であり、今も存在するのだろう。自分の経験も思い出してしまうので、ますます胸を強く締め付けられる。


 "魔女"として大切なのは、「意志の力、自分で決める力、自分で決めたことをやり遂げる力」(小説70ページ)。自分のやりたいことも、幸せも、未来も。おばあちゃんと共に、自己の弱さやネガティヴな部分と向き合っていく。まいがおばあちゃんのもとで"魔女修行"として学ぶことは、私たちにも当てはまることだ。ほんのちょっとしたことで人を疑ったり、憎しんだり。それらの気持ちからイライラしたり、動揺したりして冷静な判断を下せなくなる。まいのように、過酷な人間関係から一歩退いて、自分を見つめ直す十分な時間はなかなか持てない。だが、この作品を読んで、観ていると、勇気を持って自分の弱さと向き合おうと思える。自分で決めること、決めたことをやり遂げることはとても難しい。難しいけど、とても大事なことだ。自立したひとりの人間として、意思を持って強く、人には優しく、柔軟に生きていくために。この作品に出てくる、数々の小さな草花のようだ。まいを導くおばあちゃん自身も、その過程にあることが垣間見えるシーンには、人間らしさを感じた。決して、悟りきった仙人ではないのだと。

 まいがこうやって自己と向き合っていけたのは、おばあちゃんや両親の愛情があったからこそ。まいとおばあちゃんの気持ちがすれ違い、距離が離れても、お互いを想う気持ちが少しでもあれば信頼関係、互いの愛情は揺るがない。そう感じた。この作品の温かさは、まさにこういうところから出てくるのだろう。

 雑誌「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)2008年7月号の、梨木香歩さんへのインタビューで、この作品の誕生について語られていた。梨木さんはイギリスに留学し帰国した後、臨床心理学者の河合隼雄氏の下でアルバイトをしていた。その後、中学校でのいじめが社会問題になり、梨木さんは心を痛めこの作品を書いた。誰にも読ませるつもりは無かったが、梨木さんは河合氏に作品を持っていく。作品を読んで感動した河合氏は、「これを出すことは意味があることだから」と梨木さんに断わることなく出版社に持っていってしまったのだそうだ。河合隼雄氏は2007年7月に逝去。天国から映画化を喜んでいるのだろうか。

 映画では、おばあちゃんの家の森の澄んだ美しさ、清々しさ、空気感も再現されていたが、美味しそうな料理が続々出てくるところにも注目。まいがおばあちゃんの家に来た時に食べたサンドウィッチや、ベリーのジャム、ハーブティーなどなど。それらを作る時の音もリアル。「かもめ食堂」に通じるものを感じた。そういえば、「かもめ食堂」でもささやかな日々を大事にして、けなげに柔軟に生きていく人びとの心温まる物語だった。世界観、登場人物の生き方にも共通点があるみたい。この2つの作品の雰囲気は違うと思っていたのに不思議。

 映画のオリジナルキャラ、郵便屋さんがいいキャラしてました。高橋克美さん、いいなぁ。そしてゲンジさん役のキム兄・木村祐一さんの演技にびっくりしました。木村さんの役者としての姿は初めて観たのですが、テレビのバラエティ番組での雰囲気とは全く異なる。巧いなぁ、すごいなぁ。あと、音楽。劇中の音楽も、主題歌「虹」(手嶌 葵)も気に入りました。ピアノの済んだ音が作品の世界観にぴったり。サントラフォレスト・ストーリー~Sound Scape from 映画「西の魔女が死んだ」が欲しくなってしまった。


 とても清々しい、温かい気持ちになれる作品です。原作も映画も。小説にはまいのその後「渡りの一日」も収録。これも好きです。
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by halca-kaukana057 | 2009-01-26 23:07 | 本・読書


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