2009年 10月 27日
ふたつのスピカ 16(最終巻)
ようやく心の整理もついたので、「ふたつのスピカ」16巻、最終巻感想を書きます。
◇「ふたつのスピカ」最終巻に寄せて
ふたつのスピカ 16
柳沼 行/メディアファクトリー・MFコミックス フラッパーシリーズ/2009
宇宙学校宇宙飛行士コース4年次に進級したアスミ。2010年の「獅子号」の打ち上げ、そして事故から17年。アスミが搭乗する日本の有人ロケットの打ち上げが迫っていた。アスミの父・友朗はこれまでの生活から、新たな一歩を踏み出そうとしていた。宇宙学校を卒業し、それぞれ別の道へ進んだケイは、別の道で宇宙への想いを温め続けていた。医学コースに編入したマリカは授業で忙しい日々を送る。そして、アスミの乗る新「獅子号」が打ち上げられた…。
ライオンさんと出会い、父の背中を見て、宇宙への夢を育み続けてきたアスミ。その夢がついに叶えられる。しかし、この16巻前半ではアスミ本人の言葉や宇宙への想いは少ない。むしろ、アスミ自身のシーンが少ない。打ち上げまで描かれるのは、ケイやマリカ、府中野、友朗たちの現在や、子どもの頃の回想シーン。でも、そのシーンがアスミの宇宙へ向かう心境を間接的に、ささやかだけれども強くあらわしていると感じた。アスミが宇宙に行くことは、アスミだけの夢ではない。秋も含めた、皆の夢。この「皆」には、読者も含まれると私は思う。アスミ視点ではなく、周りの視点から、夢へのカウントダウンをドキドキしながら待ち、そのドキドキを共有しているような感じになった。一緒にアスミを見守り、応援しているような。そしてその数少ないアスミの出発前の言葉が、胸に響く。特に友朗へ電話するシーン。まずここで泣いた。
そして打ち上げ、宇宙へ。アスミが見た地球の青さ…。私もきっと、友人や家族に会って伝えたいと思うだろう。でも、うまく言葉に出来るか、自信がない。
後半は帰還後。唯ヶ浜花火大会で皆と再会の予定が…。アスミにとって、宇宙飛行士へ導いてくれた存在であり、どんな時もそばにいて励ましてくれた大きな存在であったライオンさん。そのライオンさんが…。アスミが宇宙へ行くことは、ライオンさんの夢でもあった。ライオンさん自身、「獅子号」事故で死に宇宙への夢を断たれてしまう。そんなライオンさんにとっても、アスミは希望であり夢を叶えて欲しい存在。アスミが夢を叶えて、ライオンさんも気持ちの整理が付いたのだろう。
アスミが宇宙への夢を持ち始めた頃、アスミはひとりだった。ライオンさんはアスミにしか見えないから、アスミが宇宙への夢を素直に語り、それを聞いてくれるのはライオンさんだけ(府中野も微妙に巻き込まれていたが)。でも、今はケイやマリカ、府中野がいる。アスミはもうひとりではない。2巻あたりで、アスミがマリカに「ひとりじゃ宇宙へは行けないよ」と言ったことがあった。その時は、マリカへの言葉だと思ったが、今考えてみるとアスミ自身への言葉だったのかもしれない。
この漫画を読んでいると、大切な家族や友人たちのことを想います。時々ひとりになると、その孤独に押しつぶされそうになることがある。でも、ちゃんと心でつながっている人がいるんだ。そんな人々の存在を想い、絆を大切にしたい。心からそう思います。
最終話、アスミたちのその後と、アスミの新しい夢。宇宙に行くこと、それがゴールではない。また新しい夢の始まり。皆それぞれの道を進むが、宇宙への夢という共通項でつながっている。そんなラストシーン…余韻たっぷりの、「スピカ」らしいエンディングでした。
この漫画と出会って9年。当時大学生だった私は、社会人になった。大学生の頃持っていた夢は叶えられなかったけど、そのために勉強したこと、努力したことはいい経験になったと思っている。夢とは呼べないかもしれないけど小さな願望や、夢の卵らしきものは今持っている。そして、この漫画を読んで人とのつながりを強く意識するようになった。前にも書いたとおり、昔は人と関わることをあまり好まない、マリカみたいな人間だった。でも、色々な人と出会って、人それぞれ考え方が異なること、それでもわかりあえる可能性はあることを徐々に経験していって、今に至る。この作品を読んで、アスミやマリカ、ライオンさんの言葉に何度共感したことか。今もコミュニケーションは得意とは言えない。気になる人に話しかけたくても勇気がなくてなかなか話しかけられないし、なかなか仲良くなれない。人と仲良くなるのにとても時間がかかる。不器用だと思う。それでも、今ある人間関係は大事にしたいな、と思う。
最後まで温かい、味わい深い作品でした。この作品に出会えて、本当に嬉しかった。柳沼先生、本当にお疲れ様でした。そして、素晴らしい物語をありがとうございました。
巻末のいつもの「もうひとつのスピカ」も読みごたえアリです。裏話、柳沼先生の心境が詰まってます。
あと、最後に、「イラストブック」2巻を出来れば出してほしいなぁ。単行本派なので、カラーページをまとめた「イラストブック」が出たのは嬉しかった。なので、その続きを是非。メディアファクトリーさん、お願いします。
長くなりましたが、以下これまでのスピカ感想まとめ。
・8巻
・10巻
・11巻
・12巻
・13巻
・14巻
・15巻
このブログは8巻が出た後で始めたので、7巻以前の感想はありません。9巻の感想を書くのを忘れていた。
・イラストブック
・ドラマ版1話
・ドラマ版5話あたりまで
アニメ化、ドラマ化と映像化されることの多い作品でもありました(しかもどちらもNHKで)。アニメはアニメで、ドラマはドラマで好きです。
◇「ふたつのスピカ」最終巻に寄せて
ふたつのスピカ 16
柳沼 行/メディアファクトリー・MFコミックス フラッパーシリーズ/2009
宇宙学校宇宙飛行士コース4年次に進級したアスミ。2010年の「獅子号」の打ち上げ、そして事故から17年。アスミが搭乗する日本の有人ロケットの打ち上げが迫っていた。アスミの父・友朗はこれまでの生活から、新たな一歩を踏み出そうとしていた。宇宙学校を卒業し、それぞれ別の道へ進んだケイは、別の道で宇宙への想いを温め続けていた。医学コースに編入したマリカは授業で忙しい日々を送る。そして、アスミの乗る新「獅子号」が打ち上げられた…。
ライオンさんと出会い、父の背中を見て、宇宙への夢を育み続けてきたアスミ。その夢がついに叶えられる。しかし、この16巻前半ではアスミ本人の言葉や宇宙への想いは少ない。むしろ、アスミ自身のシーンが少ない。打ち上げまで描かれるのは、ケイやマリカ、府中野、友朗たちの現在や、子どもの頃の回想シーン。でも、そのシーンがアスミの宇宙へ向かう心境を間接的に、ささやかだけれども強くあらわしていると感じた。アスミが宇宙に行くことは、アスミだけの夢ではない。秋も含めた、皆の夢。この「皆」には、読者も含まれると私は思う。アスミ視点ではなく、周りの視点から、夢へのカウントダウンをドキドキしながら待ち、そのドキドキを共有しているような感じになった。一緒にアスミを見守り、応援しているような。そしてその数少ないアスミの出発前の言葉が、胸に響く。特に友朗へ電話するシーン。まずここで泣いた。
そして打ち上げ、宇宙へ。アスミが見た地球の青さ…。私もきっと、友人や家族に会って伝えたいと思うだろう。でも、うまく言葉に出来るか、自信がない。
後半は帰還後。唯ヶ浜花火大会で皆と再会の予定が…。アスミにとって、宇宙飛行士へ導いてくれた存在であり、どんな時もそばにいて励ましてくれた大きな存在であったライオンさん。そのライオンさんが…。アスミが宇宙へ行くことは、ライオンさんの夢でもあった。ライオンさん自身、「獅子号」事故で死に宇宙への夢を断たれてしまう。そんなライオンさんにとっても、アスミは希望であり夢を叶えて欲しい存在。アスミが夢を叶えて、ライオンさんも気持ちの整理が付いたのだろう。
アスミが宇宙への夢を持ち始めた頃、アスミはひとりだった。ライオンさんはアスミにしか見えないから、アスミが宇宙への夢を素直に語り、それを聞いてくれるのはライオンさんだけ(府中野も微妙に巻き込まれていたが)。でも、今はケイやマリカ、府中野がいる。アスミはもうひとりではない。2巻あたりで、アスミがマリカに「ひとりじゃ宇宙へは行けないよ」と言ったことがあった。その時は、マリカへの言葉だと思ったが、今考えてみるとアスミ自身への言葉だったのかもしれない。
この漫画を読んでいると、大切な家族や友人たちのことを想います。時々ひとりになると、その孤独に押しつぶされそうになることがある。でも、ちゃんと心でつながっている人がいるんだ。そんな人々の存在を想い、絆を大切にしたい。心からそう思います。
最終話、アスミたちのその後と、アスミの新しい夢。宇宙に行くこと、それがゴールではない。また新しい夢の始まり。皆それぞれの道を進むが、宇宙への夢という共通項でつながっている。そんなラストシーン…余韻たっぷりの、「スピカ」らしいエンディングでした。
この漫画と出会って9年。当時大学生だった私は、社会人になった。大学生の頃持っていた夢は叶えられなかったけど、そのために勉強したこと、努力したことはいい経験になったと思っている。夢とは呼べないかもしれないけど小さな願望や、夢の卵らしきものは今持っている。そして、この漫画を読んで人とのつながりを強く意識するようになった。前にも書いたとおり、昔は人と関わることをあまり好まない、マリカみたいな人間だった。でも、色々な人と出会って、人それぞれ考え方が異なること、それでもわかりあえる可能性はあることを徐々に経験していって、今に至る。この作品を読んで、アスミやマリカ、ライオンさんの言葉に何度共感したことか。今もコミュニケーションは得意とは言えない。気になる人に話しかけたくても勇気がなくてなかなか話しかけられないし、なかなか仲良くなれない。人と仲良くなるのにとても時間がかかる。不器用だと思う。それでも、今ある人間関係は大事にしたいな、と思う。
最後まで温かい、味わい深い作品でした。この作品に出会えて、本当に嬉しかった。柳沼先生、本当にお疲れ様でした。そして、素晴らしい物語をありがとうございました。
巻末のいつもの「もうひとつのスピカ」も読みごたえアリです。裏話、柳沼先生の心境が詰まってます。
あと、最後に、「イラストブック」2巻を出来れば出してほしいなぁ。単行本派なので、カラーページをまとめた「イラストブック」が出たのは嬉しかった。なので、その続きを是非。メディアファクトリーさん、お願いします。
長くなりましたが、以下これまでのスピカ感想まとめ。
・8巻
・10巻
・11巻
・12巻
・13巻
・14巻
・15巻
このブログは8巻が出た後で始めたので、7巻以前の感想はありません。9巻の感想を書くのを忘れていた。
・イラストブック
・ドラマ版1話
・ドラマ版5話あたりまで
アニメ化、ドラマ化と映像化されることの多い作品でもありました(しかもどちらもNHKで)。アニメはアニメで、ドラマはドラマで好きです。
by halca-kaukana057
| 2009-10-27 23:36
| 本・読書