北欧デザインの背景にあるもの

 北欧デザイン・ライフスタイル専門雑誌「北欧スタイル」の最新号が出ました。特集は「なぜ?なに?北欧デザイン」。北欧デザインプロダクトや北欧諸国のライフスタイルが人気を集め、注目されているが、その理由は何なのだろう。"北欧デザイン"の根っこ・背景にはどんなものがあり、現在の形を支えているのだろうか。今号のまえがきで、創刊から7年間このことを伝えずにきたと書かれてあったが、私も考えたことがなかった。北欧デザインの根っこにあるものを、私も探ってみたい。


北欧スタイル 18
エイ出版社/エイムック1843/2009

 北欧デザインを支えているものは、やはりその厳しい自然環境。冬が長く、寒い。夏も短く、日照時間も短い。また、天然資源にも乏しい。スウェーデンはキルナなどに鉱山があり、ノルウェーは石油が産出し、石油輸出もしているが、それらを除けば北欧諸国には天然資源が少ない。あるのは森林、木材だった。

 また、北欧デザインの源流は、8世紀から世界各地へ進出していったヴァイキングにあるという。ヴァイキングはご存じのとおり、高度な航行術と圧倒的な強さでヨーロッパ全域を制圧、暴力で略奪していった海賊のイメージがある(私も愛読している漫画「ヴィンランド・サガ」でも描かれている通り)。しかし、ヴァイキングは略奪だけが能だったわけではない。航海のための頑丈な船を造るものづくりの技術にも長けていたし、貿易にも長けていた。その後ヴァイキングの勢力は衰え、18世紀半ばにイギリスが産業革命を起こし、ヨーロッパの勢力図は変化する。元々貧しく、厳しい自然環境に置かれた北欧諸国は産業革命に乗り遅れ、近代化にも乗り遅れた。しかし、この近代化に乗り遅れたのが、北欧独自の政治・産業の発展を促すことになった。19世紀に生まれた「国民民主主義」という考え方だ。貧しい暮らしの中でも、出来ること、身近にあるものを活用し、皆で協力していこうという思想だ。さらに第二次世界大戦後、経済復興をしようにも人口が少ないので労働力が足りない。そこで女性の社会進出が促され、家事は男女平等。その家事を支える食器や台所用品などの日用品は、機能的だけれども生活を彩るものであってほしいという視点で作られ、現在の"北欧デザインプロダクト"につながる製品が生み出された。

 また、これまでも書いてきたように、冬が長い=日照時間も短く、家の中で過ごすことが多いため、家の中での暮らしを豊かにしたいという人々の願いがあった。金銭的・物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさを。長い夜を明るく、暖かく過ごすための照明。家族で食卓を囲む時に使う食器類。寒い冬にも耐えられる防寒用品。建物そのものにもそんな願いが求められた。モノの使い勝手や機能性、見た目も考慮して、日々の暮らしを豊かにする温かな様々なデザイン製品・建築が生まれた。

 これまで、北欧デザインプロダクトは、「美術品」ではなく、日常生活ですぐに使えるもの、人々の生活に根付くモノであることを本などで知り、このブログにも書き続けてきた。実際、その機会は少ないけれども自分でイッタラのグラスなど、北欧デザイン製品に触れ、使ってみて、私の生活にもなじむ、使いやすいモノだと実感した。製品の素材も、木材など身近にあるものを使う。そのデザインの背景には、北欧の厳しい自然環境があり、ヴァイキングの時代から続いているものづくりの技術・精神があった。そのものづくりの環境を支えているのは、国家やデザイナー、デザイナーを支える職人たちだけではない。「日用品」として使い続ける北欧諸国の人々は大きな存在だ。現在は勿論だが、戦後、アメリカで北欧デザイン製品がヒットしたそうなのだが、そのヒットを牽引したのが、19世紀にアメリカへ移住した北欧諸国の人々の末裔だったのだそうだ。祖先の祖国のモノを使う。モノがつなぐ歴史と国と縁。デザイン製品は人の心に訴えかける"何か"も持っているのだなと感じた。

 この「北欧スタイル」18号で、北欧デザインの背景にあるものについて知ることが出来ましたが、これはまだ大まかなものに過ぎない。私自身、北欧史をまだ把握・理解しきれていないところがある。スカンディナヴィア諸国(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン)の関係は一筋縄ではいかないし、フィンランドはスウェーデンの属国であった期間が長いけれども、スカンディナヴィア諸国とはちょっと違う歴史を持つ。アイスランドもフィンランドよりはスカンディナヴィア諸国に近いけれども、同じくちょっと違う。"北欧"とひとまとめに括るのは難しいなぁと感じることもある。ただ、わかったことは、私が持っているイッタラのグラスや、お店で見て触ってみたアアルトのスツールなどには、様々な背景があるということ。ひとつひとつのデザイン製品に、長い歴史と北欧という地域の特色、環境、文化が繋がっているということ。北欧デザインはシンプルで使いやすくて可愛い、だけじゃない。もっと背景にあるものを知って、より北欧デザインプロダクトに「親しみたい」と感じました。いい特集でした。

 この特集を監修したのが、武蔵野美術大学名誉教授の島崎信先生。島崎先生はこれまで、北欧デザインに関する本も数多く執筆されているそうだ。北欧史の本と合わせて、島崎先生の本も読んでみよう。

一脚の椅子・その背景―モダンチェアはいかにして生まれたか

島崎 信 / 建築資料研究社



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この記事から、もっと北欧デザインを知りたいと思うようになったんだった。
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by halca-kaukana057 | 2009-12-12 22:11 | フィンランド・Suomi/北欧


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