見ているだけではなく、その手を伸ばして 「獣の奏者エリン」感想

 1年間にわたって放送されたNHK教育アニメ「獣の奏者 エリン」が最終回を迎えました。原作をギリギリで読み終わって、アニメではどんなエンディングになるのだろうか…と思って観ていたのですが、原作小説の魅力を映像で存分に引き出してくれたエンディングでした。原作を読み終わった後はその壮大なストーリーに圧倒されて放心状態だったのですが、アニメではひとつひとつのシーンをかみしめながら観て、そしてこれまでの物語を思い出してボロボロと涙が止まりませんでした。

 最初は(この時は原作未読)、この物語はエリンという少女の成長物語なんだろうと思った。闘蛇衆の村・アケ村で、闘蛇専門の獣ノ医術師である母・ソヨンと暮らし、闘蛇の生態に興味を持つ。いつかはソヨンのような獣ノ医術師になりたい。しかし、ソヨンとの別れで物語が一変。蜂飼いのジョウンと暮らすようになり、王獣に出会う。ジョウンとのんびりと自然と生き物たちに囲まれた暮らしをしている一方で、リョザ神王国の各地では様々な変化が起きていた。国の長である"真王"の周囲、国を護る"大公"の周囲、さらに、ソヨンが出た一族である"霧の民"の周囲。その周囲の変化が、エリンに徐々に近づいてくる。ひとりの少女の成長物語だったはずなのに、国の政治や歴史の解釈と真相、それに関わる多くの人々がエリンに大きな影響を及ぼし始める。この時、この物語はエリンというひとりの少女の視点から見た"国家"というものの姿・鳥瞰図なのかなと感じた。

 このアニメで印象に残っているのが、「何もしないで見ているだけ?」というエリンの問いだ。ソヨンが死罪になる時、"霧の民"であるナソンはその様子を見ていた。エリンはソヨンを助けようと、闘蛇のいる沼に飛びこみ母のもとへ泳いでゆく。カザルムでリランに出会ったエリンは、傷つき餌も食べないリランをどうしたら助けられるか、野生の王獣を観察した経験から独自のやり方を編み出し、リランを助け、リランと心を通わせる。王獣に関しては、"王獣規範"という王獣の育て方、世話の仕方に関する細かい決まりがある。さらに、"霧の民"も"戒律"を守って暮らしている。しかし、エリンはそれらの存在を知らないままソヨンと別れ、リランと出会った。エリンがのちにそれらの存在を知っても、それに従おうとはしなかった。"王獣規範"や"戒律"の通りに生きることで、王獣や人を決まりで縛り思考を止め、「見ているだけ」の生き方になってしまうから。ソヨンが教えてくれたことや村で育てている闘蛇に対して抱いていた想いを受け継ぎ、自分の意思で決まりに従わず、手を伸ばし行動した。エリンがリランに手を伸ばした結果、保護場にいる他の王獣とは違う成長を遂げた。それは国家を揺るがし、エリンが様々な人々の思惑に巻き込まれていくきっかけとなる。その結果、エリンとリランの間には亀裂が生じてしまう。それでもエリンはリランを、王獣や闘蛇たちを守ろうとする。勿論それはたやすいことではない。大きな責任や重圧がのしかかり、命にもかかわる。強い意志がないと行動は出来ない。でも、「見ているだけ」で後悔するよりも、自分に出来ることがあるなら手を伸ばして行動するほうがいい。最終回、エリンが選んだ行動。そして、リランがとった行動。

 「見ているだけ」ではなく手を伸ばすことは、エリンとリランという人と王獣の間だけに限ったことではない。セィミヤとシュナンも、これまで相反する生き方をしてきた。その2人が手を伸ばし、その手を結んだ。真王の護衛士"堅き楯(セ・ザン)"であるイアルも、セ・ザンの使命を果たすために心を閉ざしていたが、手を伸ばしてきたエリンに対して、手を伸ばし返した。アニメオリジナルのキャラクタであるキリク先生も。NHKのアニメ公式サイトブログで、原作者の上橋菜穂子先生がアニメへの想いを語っていますが、最終回のところにこうありました。
ちっぽけな人間の、短い人生ではありますが、わたしたちは、その道を歩きながら多くの音を奏で、多くの他者が奏でている音と、ときには共鳴し、ときには不協和音を生みながら、複雑な調べを生みだしていきます。
この世は、私たちが奏でている音が響きあって生まれている、壮大な調べなのだと、いえるかもしれません。
NHKアニメワールド+BLOG:『エリン こぼれ話――原作者のアニメ監修日誌――』(14) 第14回 エリンの香りより


 そして、最終回でも語られた、原作のこの部分。
(――知りたくて、知りたくて……)
 エリンは、心の中で、リランに言った。
 おまえの思いを知りたくて、人と獣のはざまにある深い淵の縁に立ち、竪琴の弦を一本一本はじいて音を確かめるように、おまえに語りかけてきた。
 おまえもまた、竪琴の弦を一本一本はじくようにして、わたしに語りかけていた。
 深い淵をはさみ、わからぬ互いの心を探りながら。
 ときにはくいちがう木霊のように、不協和音を奏でながら。
 それでも、ずっと奏で合ってきた音は、こんなふうに、思いがけぬときに、思いがけぬ調べを聞かせてくれる……。

 おまえにもらった命が続くかぎり、わたしは深い淵の岸辺に立って、竪琴を奏でつづけよう。天と地に満ちる獣に向かって、一本一本弦をはじき、語りかけていこう。
 未知の調べを、耳にするために。
(「2・王獣編」454~455ページより)


 手を伸ばすことで、傷つくこともあるだろう。分かり合えず、苦しい想いもするだろう。うまくいくはずがない。違う人間、違う生き物なのだから、考えが違うのは当然だ。分かり合えないことの方が多いのではないかと思う。でも、手を伸ばす。言葉・声という"音"を奏で、様々な異なる"音"が重なって"調べ"となる。私が出している"音"も、どこかで"調べ"となっているのだろうか。「見ているだけ」で、伸ばそうとした手を引っ込めていないだろうか。伸ばそうとした手を引っ込めたことは、何度もある。手を叩き返されないだろうかと恐れたり、迷惑ではないだろうかと思ったり、面倒くさくなったり。これからもそんなことはあるだろう。無くなるとは思えない。でも、手を伸ばす勇気はいつでも持っていたい。下手でも語りかけるように"音"を奏でよう。

 そんな気持ちになるアニメでした。アニメオリジナルキャラクタのヌック&モックもいい味出してた。最初はただの泥棒だったのに、とてもいい人。張りつめた空気がこの2人で緩む。また、アニメはちょっとした部分の描写が半端なかった。小さな花々や、動物たち。しかもそれらの動きが、本編に関係がある。本当にちょっとした部分なのに、手を抜かない。…参りました。キャラクターデザイン、絵に関しては、最近のアニメとはちょっと違うと感じた。でも、それがよかったと思う。異世界の不思議な雰囲気が出ていて。さらに、このアニメではソヨンの死罪のシーンや、王獣が闘蛇を襲うシーンなど、土曜夕方のNHK教育にしてはかなり悲惨なシーンも多い。そのシーンの描写も、よく考えたなと思った。子どもたちを必要以上に怖がらせず、でも恐怖や悲惨さは伝える。挑戦的なアニメだと思いました。

 アニメの最後の最後で、今年出た「3・探求編」「4・完結編」へのエピソードも。何というラストを…。続編も…読む!

 年明けからは総集編が始まります。見逃した方も1年間見続けた方も。私も記憶があいまいな部分があるので、また観ます。
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by halca-kaukana057 | 2009-12-28 22:33 | Eテレ・NHK教育テレビ


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