数学ガール ゲーデルの不完全性定理

 数学青春小説「数学ガール」シリーズ第3弾です。1・2作を読んでハマり、その間にこの3作目が出て続きを読むのを楽しみにしていました。


数学ガール ゲーデルの不完全性定理
結城 浩/ソフトバンククリエイティブ/2009

 副題になっている「ゲーデルの不完全性定理」。昨年読んだ「フェルマーの最終定理」(S.シン著)に少し出てきていたので、名前だけは知っていました。



・ゲーデルの第一不完全性定理
 ある条件を満たす形式的体系には、以下の両方が成り立つ文Aが存在する
  ・その形式的体系には、Aの形式的証明は存在しない。
  ・その形式的体系には、¬A(ノットA:Aではない)の形式的証明は存在しない。

・ゲーデルの第二不完全性定理
 ある条件を満たす形式的体系には、
自己の無矛盾性を表現する文の形式的証明は存在しない。
(309ページより。第一不完全性定理の括弧内は私による付け足しです)


 この2つの定理に出てくる言葉、例えば「形式的体系」や「文」、「不完全」は数学的な意味での使われ方をしています。数学が進み、様々な証明、公理(証明がなくても成り立つとみなす命題のこと)、命題(真偽が定まる数学的主張のこと)が生まれた。しかし、あまりにもたくさんありすぎて、矛盾が起きることがある。その矛盾をなくすため、数学を「形式的体系」で表現し、その完全性と矛盾がないことを証明しようとした「ヒルベルト計画」という研究が始まった。それに対してゲーデルは、この不完全性定理を発表した。「不完全性定理」という名前から、不完全な数学というのがあるのかな?と思ったのですが、その考えは間違い。「不完全」というのはあくまで数学上での用語であって、一般的な言葉ではない。読んでいて、あまりの用語の多さに頭がパンクしてしまったのですが、数学上の用語で「数学を数学する」ことも出来る面白さを感じました。

 私が数学が苦手だったことは、何度もこのブログで書いてきた。その理由はなんだろうと、この本を読みながら考えた。第一に、上記のような数学上の用語で考え、答えを出すことが苦手だった。数や記号を"言葉"とみなして、一般的な言葉に"翻訳"せず、そのまま読み解く。私は一般的な言葉に置き換えてしまって、一般的な意味を考えるけれどもわからず、数や記号・数式を"読むこと"が出来ず数学が苦手になってしまったのだと思う。
 そしてもうひとつ。私は数学に取り組む時、ある雰囲気を感じていた。ある問題があったとして、それを解けることを試されているような気がしていたのだ。黙って、何かに見られているような。第一の理由で書いたとおり、私は数学上の用語で読み、考え、数学上の用語で表現することが苦手だったので、問題が解けないことが多かった。だが、解けず間違った答えを出しても、どうしたら正しい答えを出せるのか何も教えてもらえなかった。問題そのものがわからない場合は、そのまま。置いてけぼり。
 私自身がわからないこと、間違った理由を突き詰めなかった姿勢が悪かったと思っている。しかし、数学上の用語になじめなかったこと、さらに問題を解けるか解けないか、黙って見られ試されているような雰囲気が息苦しくて、数学が苦手になってしまった(と、ようやく気づいた)。

 この本を読んでいて、その雰囲気を少しは感じるが、学生時代ほどではない。テストでもないし、受験のためでもない、読みたい・知りたいと思って読んでいるから辛くは感じない。ミルカさんの言うことは難しく厳しいけれど、解けなければ置いてけぼり…のような冷たい雰囲気ではない。"僕"が大事なことを見落としたり、テトラちゃんやユーリがわからないと言っても、ちゃんと待っていてくれる。考えるヒントを出してくれて、考える時間を与えてくれる。穏やかだ。この本を学生時代に読んでいたら、数学へのイメージや姿勢は少し違っていたかもしれない。学生時代を過ぎてしまってから読んだことが、悔まれる。いや、今からでも遅くはない。


 この第3作では、"僕"は私か!?、この本は私のために書かれたのか!?と思う場面がいくつもあった。ミルカさんに次ぐ数学マニアだと思っていた"僕"の挫折と苦悩。数学は得意だけど、自分の取り柄は何なのだろうと悩む。そんな"僕"への、テトラちゃんの励ましと、ミルカさんの憤り。ミルカさんが感情をあらわにするシーンの迫力とその言葉に、私もぶたれたようだった。
「きみが落ち込んでも、世界は何も変わらない」
「落ち込む自分に酔うな」
(295ページより)
自分にも、こういうことがよくある。例えば、テトラちゃんが数式になると理解できなくなると話しているのに対して、鍵盤ガール・エィエィがこう言う。
「音でしか表現できない世界がある――」
「ときどき、《音楽がわからない》という人がいる。うまく言葉にできひんことをすべて《わからない》と片付ける人やな。音楽を、そのまま味わおうとしぃひん。言葉にできなくてもいいんや。言葉にならんから、音にしてるんだから。言葉にしたがる人は、音を聞いてへん。言葉を探してばかりで、演奏者が生み出した、かんじんの音を聞いてへん。音が響く時間を、音が広がる空間を、味わってへん。言葉探すな、耳すませ!」
(104ページ)
この言葉に対して、私は考え込んでしまった。私も音楽は好きだし、下手だけど趣味でピアノも演奏する。いい音楽を聴いた時、自分のしたい演奏について考える時、言葉が出てこなくて困ることがある。音楽なのだから無理に言葉にしなくてもいい、と思いつつも、言葉にしようとする。そして自分は何をしているのだろうと、落ち込む。…一方、テトラちゃんはエィエィにバシッと言われても、落ち込むことなくエィエィの主張を受け取り、理解し、自分の言葉で表現した。これ以上音楽について語ると話がそれてしまうのでまたの機会にするが、テトラちゃん・ミルカさん・エィエィたちの鋭い言葉と、悩む"僕"に深く共感しながら読みました。悩みぬいた結果、ひとつの道を見つけた"僕"。ミルカさんの進路。これから物語はどこへ向かうのだろう。更なる数学の話とあわせて、続きが読みたい!

 今作は、これまでの2作よりもサクサクと読んでしまいました。でも、すっ飛ばして読んだわけではなく、内容が面白くて、考えながらでも次々と読み進めてしまった。これまではわからないことだらけで、読むのにとても時間がかかったのに。数学の雰囲気、表現に慣れてきたのだろうか。数学に親しめるようになってきたのだろうか。だとしたら嬉しい。あんなに苦手だった数学に、自分から向かっているなんて信じられない。

 ゲーデルの不完全性定理について、わかりやすく解説している文があったので、リンクを貼っておきます。
Yahoo!知恵袋:ゲーデルの不完全性定理をお教えください
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by halca-kaukana057 | 2010-01-11 23:07 | 本・読書


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