「ザ・ムーン」とアメリカ宇宙開発のこれから

 昨年公開されたアポロ計画のドキュメンタリー映画「ザ・ムーン」(原題:In the Shadow of the Moon)をようやくDVDで観ました。

映画「ザ・ムーン」公式サイト

ザ・ムーン スペシャル・エディション [DVD]
監督:デヴィッド・シントン/提供:ロン・ハワード/角川エンタテインメント

 昨年はアポロ11号の月面着陸から40年。その記念に作られた映画でもあるのだが、アポロの宇宙飛行士たち…バズ・オルドリンやマイク・コリンズ、アラン・ビーンにジーン・サーナン、ジム・ラヴェルにジョン・ヤング…がアポロ計画の裏話や思い出、月でのこと、宇宙船の中でのことなどをNASAの映像とともに語ります。これまで、アポロの飛行士たちのインタビューをじっくりと聞いたことがなかった。ポルノグラフティの「アポロ」の歌詞「僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもう アポロ11号は月に…」の通り、私はアポロ計画当時、まだ生まれていなかった。当時のことは、映像や写真、飛行士たちのインタビューでしか知ることが出来ない、残念なことに。しかし、この映画を観て飛行士たちやNASAのスタッフたち、アポロに注目する世界中の人々の様子が強く伝わってきた。サターンV型ロケットの迫力満点の打ち上げ、地球周回軌道から月へ向かう軌道へ乗る際のロケットエンジン噴射、アポロ11号の月面着陸の際の緊張した様子、そして月での第一歩。レゴリスが舞う月面でのミッションの様子、ローバーの運転のこと、そしてミッションを終えて月上空を飛ぶ司令船へ戻る月着陸船。この月着陸船が打ち上がる際、ロケットエンジンの噴射でレゴリスや紙片らしきものが飛ばされる様が印象に残った。月の重力は地球の6分の1.なので、地球でのロケット打ち上げのように大迫力でなくてもいい(載せている燃料などでさらに重くなってしまうので、地球からロケットを打ち上げる際には大きなパワーが要る)。それでも、迫力がある。そして、誰もいなかった月が、また無人になる。月がいかに過酷な環境で、荒涼とした世界なのかが伝わってきた。

 そんな月に立ったのは、たったの12人。アポロ計画以後、月に立つ者は誰一人いない。アポロ計画がどれだけ大きな予算と国力をつぎ込んだ計画なのかが伺い知れた。アポロと競い合うように無人探査を続けた旧ソ連の「ルナ」シリーズや、アポロ計画・ルナ計画の後に続く月探査ラッシュの先陣を切った日本の月周回衛星「かぐや」など無人探査機が活躍。「かぐや」はアポロの頃と変わらない、荒涼としているがダイナミックな月の表情を伝えてくれた。無人探査機からの映像でも月の様子がリアルに伝わってくるのに、実際に月に行った飛行士たちの言葉が加わると更にリアルに伝わってくる。途中で飛行士たちの顔や眼がアップで映されるのだが、その眼で飛行士たちは何を見て来たのだろうか。その眼で見てきたこと、見て感じたことを伝えてくれる、いい映画だった。

 各々の飛行士個人の個性が伺えるのも面白かったところ。ジョークを交えつつしっかりと語るオルドリン。アームストロングとオルドリンが月に立っている時、ひとりで指令船に残っていた時のことを落ち着いて話すコリンズ。茶目っ気たっぷりのビーン。冷静沈着、クールなヤング。アラン・ビーンとジョン・ヤングを対比しつつ観ると面白い。


*****

 一昨日発表されたアメリカ政府の2011年度予算教書で、月有人探査計画である「コンステレーション計画」が中止されることになった。今年スペースシャトルが引退し、その後は「アレスI」ロケットと、「オリオン」宇宙船が引き継ぐことになっていた。しかし、「アレス」や「オリオン」の開発は難航。アポロ計画の頃は冷戦の最中で国力を挙げて予算をつぎ込むことも出来たが、現在は予算難。「コンステレーション計画」だけがNASAの計画ではない。ハッブル宇宙望遠鏡や後継機のジェイムズ・ウェッブ望遠鏡、月・惑星無人探査機、国際宇宙ステーション(ISS)もある。さすがのNASAもあれもこれも…と手が回らない時代になったのかと切実に感じた。

 今後、「コンステレーション計画」を中止し、今後5年間でさらに60億ドル(約5400億円)の予算を追加して将来の有人探査を見据えた月や火星など太陽系の無人探査や、地球観測や気象観測などを行う。有人宇宙開発については、ISSは2020年までミッション延長、NASAと民間企業で協力して有人ロケットを開発・運用する。

 「コンステレーション計画」を思い切って打ち切り、予算を追加して太陽系無人探査や人工衛星などに回す方向に進もうとしているアメリカ宇宙開発。ただ「コンステレーション計画」を打ち切るだけでない、予算をちゃんと追加して、やるべきことはやろうとしているところに注目しています。これまでのアポロ計画やシャトル計画とは違う意味で、NASAの力が発揮されそうです。NASAが本気出したらどうなるか…。アポロ計画でサターンV型ロケットなどの技術を作り出したのにその後その技術を受け継いでいかなかったため、もう一度月へ、と掲げても開発は難航した。これからはその反省も含めて、長期的な視点で技術を開発し、いつかは火星有人探査を…としっかりとした目標を持っているように見えます。

 さて、日本はどうするのか。ISSの延長は、日本にとって有利。ISS最大の実験施設である「きぼう」を使い、さらにISSへの最大の補給船であるHTVも使って有人宇宙技術を確立していくチャンス。いいモジュールといい補給船があるのだから、バシバシ使わないと。そして、有人宇宙開発に関わる技術や運用のノウハウ・経験をしっかりと積んでいきたい。その一方で、日本も「コンストレーション計画」に参加する予定だった。月探査を今後どうするのか。「かぐや」はすばらしい成果を残してくれた。その「かぐや」に次ぐ探査をどうするのか。日本独自の探査を続けるチャンスになるかもしれないし、答えを出せずにアポロ計画の技術のように受け継がれない…かもしれない。それは嫌だ。「かぐや」だけじゃない。無人探査機といえば、小惑星探査機「はやぶさ」の技術・運用も受け継いでいって欲しいもののひとつ。「かぐや」や「はやぶさ」の後継機の予定は、まだ確定していない。日本はどこへ向かうのだろう。

 NASAの今後に期待しつつ、日本の今後を心配しつつ…複雑です。

【参考・関連サイト】
asahi.com:米国、月有人探査計画を正式中止 オバマ大統領が発表
sorae.jp:オバマ政権、NASAの有人月探査を全て打ち切る
アストロアーツ:NASAが5か年予算案を発表、歴史的な方針転換
sorae.jp:ムーンな想い vol.9 「星座(コンステレーション)の先にみえるもの」
松浦晋也のL/D:アメリカの宇宙開発政策が大方針転換、有人月探査中止よりも堅実な技術開発に注目せよ
時事ドットコム:「きぼうを使い尽くせる」=宇宙基地運用延長に日本側-月探査断念「影響少ない」
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by halca-kaukana057 | 2010-02-03 23:37 | 宇宙・天文


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