オンリーワン ずっと宇宙に行きたかった

 現在国際宇宙ステーションに長期滞在中の野口聡一宇宙飛行士。この滞在中のタイミングで、過去の著書が文庫化されました。まだ読んでいなかったので、いいタイミングなので読む。


オンリーワン―ずっと宇宙に行きたかった
野口 聡一/新潮社・新潮文庫/2010(単行本は2006年)

 書かれているのは野口さんの子ども時代から、IHI(石川島播磨重工)でジェットエンジンの開発担当を経て宇宙飛行士になり、2005年の初飛行(STS-114:ディスカバリー号)の部分まで。文庫版ではISS長期滞在に向けての訓練に関する章が追加されています。

 テレビやISSからの映像、twitterのツイートから、陽気でお茶目、ほのぼのとした野口さんのお人柄が伝わってきますが、このエッセイの文章でも同じことを感じました。とても温かい文章で、ほっとします。宇宙開発専門用語もわかりやすく解説してあるので、宇宙飛行士のお仕事ってどんなお仕事なんだろう?という疑問にもやさしく答えてくれます。野口さんの文章が気に入りました。

 そんな温かい文章のこの本ですが、面白く楽しい宇宙飛行士ライフの話だけではない。2003年2月1日、スペースシャトル・コロンビア号(STS-107)の空中分解事故が起きる。そのコロンビア号の次のフライトが、野口さんらSTS-114のフライトだった。大切な宇宙飛行士仲間を失ったこと、スペースシャトルの事故でいつフライトが再開するかわからないこと、そして、本当に自分は宇宙へ行けるのかという不安…。

 コロンビア事故の時、私も相当のダメージを受けました。宇宙に関わる仕事を目指していたわけではない。ただ単に宇宙が好きで、次は野口さんが飛ぶんだな、楽しみだなと思っていた。STS-107が帰還する日も頭に入っていたから、いつも通り帰還して、次の野口さんのシャトルも飛ぶのだろうなと当たり前のように思っていた。その"当たり前"が当たり前でなくなってしまった。シャトルはどうなってしまうのだろう。ISSは建設途中なのに、シャトルが止まったらISSはどうなるのだろう?「きぼう」は?野口さんのミッションは?有人宇宙飛行そのものへの展望が一気に真っ暗になってしまった喪失感を感じていました。

 しかし、野口さんの喪失感、不安感はそれ以上、計り知れないものだ。ようやく宇宙へ行けると思ったら、シャトル計画そのものがストップ。さらに、アメリカ人ではない、日本人…外国人である自分が、シャトル再開という重要なフライトのクルー、さらに船外活動のチーフをやらせてもらえるのだろうか。メンバー変更の可能性がある。そんな心配を抱えつつも、アイリーン・コリンズ船長はメンバーは変えないと言ってくれた。文章は温かいままですが、その行間にあるものを思うと苦しみの重さやその重さを乗り越えた強さ、クルーの存在の大きさに、辛い、こみあげるものを感じます。

 そしてシャトル再開、ディスカバリーの打ち上げ。宇宙での日々の部分は、本当に面白いです。船外活動を担当し、初めてシャトル(ISS)の外に出た瞬間のこと、ヘルメット越しに見えた地球の描写は迫るものがあります。宇宙へ行って地球を見ても、シャトルなどの窓越しに見える地球と、船外活動で外に出てヘルメット越しに見る地球は違うと聞きます。宇宙飛行士の中でも、船外活動を経験した宇宙飛行士はそれほど多くない。日本人は野口さんと、97年に日本人初の船外活動を担当した土井隆雄さんの2人だけ。そんな貴重な経験が、この本で語られていることをありがたく感じます。「青」という言葉の不自由さ、その強烈な存在感。さらに、生命は地球にあるはずのものなのに、今地球の外に自分がいてその地球を見ている。世阿弥の「離見の見」の話になるほどと感じました。船外活動のミッションそのものに関する話も、当時NASA TVにかじりついて観ていたので、当時のことを思い出しながら読みました。シャトルの断熱材補修の実験や、シャトルの耐熱タイルからはみ出した詰め物(ギャップ・フィラー)を取り除く緊急ミッションのことなど。今でもはっきりと思い出せます。

 「宇宙へ行く」というと、ものすごいことのように感じられます。まだ限られた人しか行くことが出来ないし、宇宙船も現在はシャトルかロシアのソユーズかの2種類しかない(シャトルは今年退役予定)。一歩間違えば死の世界。そんな日常とかけ離れたことを自分の経験として、日常の延長線上にあるものとして、やわらかく親しみやすく書かれてある。この"野口さんご自身としての経験"というのがこの本のポイントだと思います。一般的な"宇宙飛行士(日本人宇宙飛行士)"としての視点・経験ではなく、"野口聡一"という一人の人間としての視点・経験。記者会見の言葉でも、「"宇宙飛行士"は○○だ」ではなく、「私はこう思った」という言葉がもっと増えればいいと思う。宇宙をもっと身近に、日常生活の延長線上にあるんだよと教えてくれるような。日本人飛行士も候補生3人が訓練中。来月には山崎直子さんの初フライト。宇宙ってどんなところだろう?そこでどんな仕事をしているのだろう?宇宙で何を考えるのだろう?そんな疑問に答えてくれるような、勿論予想外の言葉も、また増えることを楽しみにしています。

 解説は漫画「宇宙兄弟」の小山宙哉先生。「宇宙兄弟」の取材のため、野口さんに会った時のこと、漫画家と宇宙飛行士の意外な共通点、「宇宙兄弟」でどんなことを描きたいかについて書かれています。文中で野口さんが「ラッキーだ」とよく書かれていましたが、そんな部分も「宇宙兄弟」に反映されているなと感じました。ちなみに、「宇宙兄弟」最新巻9巻は今月下旬発売です。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2010-03-12 23:05 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る






日々のログ:今、ここ、想うこと
または:Twilog

はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ目指して順調に飛行中!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測準備中!

最新の記事

惨敗。 ペルセウス座流星群2..
at 2017-08-14 21:43
BBC Proms(プロムス..
at 2017-07-31 22:32
BBC Proms(プロムス..
at 2017-07-14 23:08
青い海の宇宙港 春夏篇 秋冬篇
at 2017-07-10 22:58
夏のペンギン切手&特印
at 2017-07-05 21:07
四人の交差点
at 2017-07-01 22:43
マッティは今日も憂鬱 フィン..
at 2017-06-23 22:49
イリジウムフレアを見たくて
at 2017-06-20 22:21
6月はばらの季節
at 2017-06-12 22:49
Im ~イム~ 6・7
at 2017-06-12 22:43

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
more...

検索