青森ドロップキッカーズ

 先日の「Sweep!!」1巻に続き、カーリングを描いた作品を。今度は小説です。

・先日の記事:Sweep!! 1


青森ドロップキッカーズ
森沢明夫/小学館/2010

 秋、青森県青森市。司書をしている柚香(ゆうか)は妹の陽香(はるか)と共に、アマチュア選手としてカーリングに打ち込み、かなりの実力をつけている。2人は年上の女性2人とチームを組んでいたが、日本一強いチームにしようという協会の意向で、長野からやってくる日本トップレベルの選手2人とチームを組むことで悩んでいた。
 一方、中学3年の男子・宏海(ひろみ)はクラスでいじめられ続ける日々を送っていた。幼馴染の雄大はいじめグループにいて、宏海は雄大とまた仲良くなりたいが、いじめグループに抵抗できず自身のことを情けないと感じていた。ある日、学校で初心者向けカーリング講座開催のチラシが配られる。スポーツは苦手な宏海だったが、何かを変えたいと思い、カーリング講座に参加してみた…。


 カーリングといえばオリンピック代表である「チーム青森」。そのホームである青森市が舞台です。各章ごとに語られる視点が変わり、様々な視点でカーリングを楽しむことができます。「Sweep!!」は漫画なので絵で表現できますが、この作品は小説なので勿論文章のみ。それでも、五輪などで観たカーリングの試合風景から、ショットやスウィープ、ストーンの状態まで思い描くことができる。カーリング場の冷たい、ピンとした空気も。言葉の可能性ってすごいと思う。

 トップレベルを目指して日々練習を続ける柚香・陽香姉妹。姉妹がチームを組むことになった長野からのトップレベルの選手との練習の部分を読んでいると、カーリングは決して運動量の少ないスポーツだとは思えない。精度の高いショットをし続けるため、氷と戦況を読み続ける集中力を保ち続けるためには、相当の体力が必要。しかも、持久力や筋力、柔軟性やバランス感覚といった、全身の基本的な体力が。動いていないように見えて、実はかなりの運動をしている。カーリングは誰でも出来そうで、実際出来るのだけれども、ハマると相当の体力を使うスポーツでもあることが伝わってきて、ますますカーリングに興味津々。カーリングのリンクの氷の作り方も描写されています。ただのつるんとした氷なのかと思ったら、そうではない。「ペブル」という0.3mmの氷の凸があって、スケート用リンクとは全く異なる。カーリング独特の氷が、ストーンの滑りに影響を与えていたのです。知らなかった!

 主人公の一人である、クラスでいじめられ続ける男子中学生・宏海。その宏海はカーリング講座でカーリングの面白さに目覚め、さらに学校では作れなかった仲間を得て変わっていくのですが、その宏海がカーリング講座で知った「カーリング精神」というのがある。それがこれ。
カーラーは、不当に勝つなら、むしろ負けを選ぶ。
カーラーは、ルール違反をしたとき、自ら申告する。
カーラーは、思いやりを持ち、常に高潔である
(116ページより)

カーリングの試合もそうだが、物語もこの「カーリング精神」をもとに、登場人物たちが「カーリング精神」を持って生きていく上での壁・試練を乗り越えてゆく姿が実に清々しい。まさに「高潔」。勿論、一筋縄ではいかない。新しいチームで奮闘するも、なかなか結果も出せず、さらに前のチームメイトとギクシャクしてしまう柚香・陽香姉妹。カーリングに出会い、生きる楽しみを得たもののいじめられ続ける宏海。いじめグループにいるが、何かを思いつめている雄大。右往左往しつつも、4人がひとつの点に向かってゆく姿に胸が熱くなります。

 そして最大のポイントとなるのが、信頼関係。普段のコミュニケーションであっても、チームプレーであるカーリングでも、この物語では信頼関係に重要なポイントが置かれています。何があっても最後まで、誰かを信じ続けることができるか。そう問われたら、私はYes.と即答できない。裏を読んでしまったり、よくない状況になると自分ひとりで逃げてしまったり…。「自分ひとり」の被害を最小限に抑えるならそれでいいのかもしれない。でも、その後、苦い想いをするのも「自分ひとり」だ…。そんな立場にいたのが、柚香を中心に描いているけれども、実は雄大なのかもしれない。(これ以上はネタバレになるので自粛)

 カーリングの魅力にどっぷり浸れる作品です。勿論、初心者向けにルールや用語の説明も丁寧にしてあります。さらに、青森の美味しそうな食べ物も続々と出てきます。読んでいてお腹がすきました。


 ちなみに、先日、この小説の舞台ともなっている青森市スポーツ会館でカーリング講座があったそうです。しかも、講師は「チーム青森」の目黒選手と近江谷選手。行くだけ行きたかった…(手術してなければ…涙)。そんな青森市スポーツ会館ですが、実は手術前に一度行ってきました。

駐車場から。建物の裏にあたります。
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正面玄関前にあった、カーリングねぶた石碑。ブラシを持ってストーンをショットしているねぶた。違和感がない…。
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冬場はカーリング場となる多目的運動場入り口。
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カーリング場内部。
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リンクではこの日、子供チームの試合がありました。ストーンがゴロゴロ…と滑り、ゴン!と他のストーンにぶつかる音。「イエス!イエス!」「ウォー、ウォー」などの指示の声。テレビで観たそのままの光景でした。しかし、ショットは想像以上に難しいらしく、真っ直ぐショットできず斜めに滑っていってしまったり、ハウスのかなり前で止まったり、通り過ぎていってしまったり(「ガード」といって、相手のショットを邪魔するためにハウスの前に置かれるストーンもありますが、ハウスよりもかなり前にある「ホッグライン」前で止まってしまうとそのストーンは無効となり、排除されてしまいます)。デリバリーする際の姿勢を保つのも、ストーンの動きに合わせてスウィープしていくのも難しそうでした。予想以上に奥が深いぞ、カーリング。


森沢明夫さんの青森3部作、今作が2作目です。
・1作目:津軽百年食堂
・3作目:ライアの祈り
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by halca-kaukana057 | 2010-04-21 16:33 | 本・読書


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