[増補]スペースシャトルの落日

 いよいよ引退が近づいてきたスペースシャトル。そのスペースシャトルの真実に迫ったノンフィクションを大幅に改定して、文庫化されました。


増補 スペースシャトルの落日
松浦晋也/筑摩書房・ちくま文庫/2010

 重い内容だろうな…と読む前は思っていましたが、読み始めてからはサクサクと読めました。私自身がシャトルの仕組みや運用、そして事故と問題点について前もって情報を持っていたせいかも知れませんが、ロケット・宇宙機の仕組みについてあまり知らない人向けにもわかりやすく解説してあります。シャトルはどんな宇宙船であり、ロケットなのか。どのような経緯で開発され、運用が始まったのか。そして、運用中に出てきた問題点と、問題を更に増幅させてしまった他国の宇宙開発機関との関係やISS(国際宇宙ステーション)計画のこと。「チャレンジャー」「コロンビア」の事故の詳細と、事故後のNASAの対応。NASAだけでなく、アメリカの政治と軍事、宇宙産業との関係。そして、著者の松浦さんが考える、アメリカが、世界がシャトル無き後でどう宇宙開発を進めていったらいいかという提案。読みやすいですが、内容はぎっしりです。

 前にも書いたが、「アポロ世代」という言葉があるなら私は「シャトル世代」だと思う。シャトルの運用が始まったのと同じ時期に生まれ、そのうち「スペースシャトル」という宇宙に行く乗り物があることを知る。幼稚園児だった時「チャレンジャー号」事故が起こったが、その時の爆発映像を観て衝撃を覚え、今でもはっきりと覚えている。小学生になって日本人も宇宙に行ける時代になり、スペースシャトルは宇宙へ連れて行ってくれる宇宙船だと憧れた…。
 そんな子ども時代を送った私も、大人になり、「コロンビア号」事故を経て、シャトルの問題点について考えるようになった。安全性、コストの問題だけじゃなく、他にも沢山の問題を抱えている。そんな沢山の問題を抱えながらも、アメリカは優れた宇宙船として他国の宇宙飛行士も乗せ、ISS計画もスタートさせた。そして、シャトルの抱えている問題のために、ISSの完成はどんどん遅れてしまった…。

 私が知らずにいた問題点も多く書かれていて興味深かった。ISSのモジュールや人工衛星などの貨物(ペイロード)と人を一緒に運べることは、とても便利だと思っていた。実際そうなのだが、モノと人を一緒にしてしまうと、ロケットの安全性は人に重点を置かなければならないので、結局高上がりになってしまう。別々に運べば、モノの時はそんなに安全性を高めなくてもいいので、コストも抑えられる。なるほどと思った。

 沢山の問題を抱えていたことに気づいていたのに、NASAはそれをうやむやにしてシャトルを運用し続けた。それは、80年代なら旧ソ連との冷戦のためでもあるし、国威でもあり、シャトルを軍事目的で利用しようとしていたのもある。90年代以降は、アメリカの宇宙産業を儲けさせるためでもある。日本の公共事業に例えた話があったが、その通りだと思った。作るだけ作って関係企業を設けさせ、完成した後の活用法などは考えない。なんとも残念な話です。

 安全性に対しても、だんだんチェックが甘くなり、事故につながった。運用する組織の維持の問題もある。これはシャトルに限らず、全ての宇宙開発機関へ向けて言えることだ。これに関しては、この本でも言及しているがリチャード・ファインマン「困ります、ファインマンさん」にあるチャレンジャー号事故調査の話に詳しく書いてあるので、そちらもどうぞ。また、ファインマン氏の報告文はウェブ上に原文があちらこちらにあるようですし、「ファインマンさんベストエッセイ」に日本語訳が収録されています。

 今年シャトルは引退というが、ミッション追加という話もある。どちらにしろ、シャトルがなくなった後、アメリカも、シャトルに頼ってきた日本も、そしてISS計画に参加している国々がどう宇宙開発をしていくのか。問題はここまで大きくなってしまった。日本はISSに関しては、「きぼう」もあるのでそれを十二分に活用する必要がある。HTVはシャトルがなくなった後も、大型の荷物を運べる唯一の無人補給機。HTVはもっともっと活用され、技術や運用のノウハウを積み上げていって欲しい。また、これを大気圏で燃やさず地球に帰還できるようにしようとか、最終的には有人化しようという動きもある。その動きがもっと活発になって、シャトルから離れた、「日本の有人宇宙開発」ができればいいと思う。
 一方アメリカは、シャトルの部品を使いまわそうとしたアレスロケットを含む、「コンステレーション計画」も中止。無人探査に重点を置く方針をとる。民間宇宙開発企業は元気があるようだが、アポロ計画以後と同じように、技術や運用のノウハウの継承はされてゆくのだろうか…と心配になります。シャトルの失敗は、アポロ計画で作り上げた技術や運用のノウハウなどを継承せず、無駄にしてしまったのも原因だから。技術や体制の刷新は、必要な時は必要かもしれない。でも、次にどうしたいかのビジョンがうやむやなままで新しい方向に進んでいっても、どこかでボロが出て大きな事故につながってしまう…。

 スペースシャトルは、確かに人々を、宇宙へ近づけてくれた。日本にとっても。でも、同時に、問題点、克服しなければならないことも示してくれた。そのシャトルから離れて、今後私たちはどう宇宙へ向かうのか。シャトルはいい意味でも悪い意味でも、あまりにも大きな影響力を持っていたのだなと、引退前になってようやく実感しています。


【関連過去記事】
ご冗談でしょう・困ります、ファインマンさん
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」「困ります、ファインマンさん」の感想。この本は何度読んでも面白いです。

恐るべき旅路 火星探査機「のぞみ」のたどった12年
 松浦さんの本と言えばこれ。何度読んでも、「のぞみ」に託されたメッセージの部分で泣いてしまいます…。
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by halca-kaukana057 | 2010-05-31 23:48 | 本・読書


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