「新世界より」 「はやぶさ」帰還とこれからの宇宙開発に寄せて

 小惑星探査機「はやぶさ」関連の記事を連日書き続けています(昨日は疲れてお休みしました)…。あとはカプセルが日本に到着して、その解析が始まり、朗報を待つばかりです。カプセルをどうやって解析するのか。その方法について以下詳しいサイトを貼っておきます。

日本惑星協会:YMコラム(NO.518)その後の「はやぶさ」カプセル
 日本惑星協会のメルマガの「YMコラム」、的川泰宣先生執筆です。YMコラムをまとめた本の第3弾、そろそろ出ないかな?

JAXA's:32号(PDFファイルです)
 JAXAの広報誌「JAXA's」。この7・8ページ目です。山崎直子宇宙飛行士のSTS-131ミッションや、地震などの災害時にすばやく宇宙からの被害状況画像を撮影し送ってくれている陸域観測衛星「だいち」の後継機についてなど、他にも読みどころが沢山です。

*****

 というわけで、そろそろ「はやぶさ」帰還とミッション全体(まだカプセルの解析が終わっていないので、完全に終了とは言えませんが、「運用」は終了したので)、そしてこれからの宇宙開発について、クラシック音楽作品を交えつつ私の考えを書いてみる。

 取り上げる作品はこちら。
・ドヴォルザーク作曲:交響曲第9番ホ短調op.95「新世界より」

 チェコの作曲家・ドヴォルザークの作品といえば、これがまず出て来るでしょう。第2楽章は「遠き山に日は落ちて」と歌詞が付けられ、「家路」としても親しまれているあの交響曲です。ドヴォルザークが音楽界で活躍し、その功績からアメリカ・ニューヨークのナショナル音楽院の院長として招聘され、ドヴォルザークはアメリカへ渡ります。音楽院院長就任後に、この交響曲第9番を作曲。故郷チェコ・ボヘミアの音楽にアメリカで触れたアフリカ系アメリカ人やネイティヴ・アメリカンの音楽も見事に融合させて、「新世界」アメリカから故郷ボヘミアへ向けた音楽だと言われています。

 「はやぶさ」の帰還=「はやぶさ」の「家路」という意味でこの作品を選んだのですが、それ以上に、この作品の全体に渡る魅力的なメロディー、そしてドラマティックな展開が「はやぶさ」を思わせます。「家路」ののんびりとした第2楽章を除いた他の楽章は、劇的にメロディーが変化し、ぐいぐいと作品の世界へ引き込まれます。しかも第2楽章は変ニ長調に対して、後はホ短調。ホ短調の代表曲と言えば、同じくチェコ・ボヘミア出身の作曲家・スメタナの連作交響詩「わが祖国」第2曲「モルダウ(ヴルダヴァ)」。内に秘めた熱い情熱を感じさせる調性です。そう、運用チームの粘り強さと情熱を。

 ドヴォルザークがアメリカで、それまで故郷チェコ・ボヘミアやヨーロッパでは触れたのことの無い音楽や、ニューヨークというヨーロッパの街とは異なる雰囲気の街の文化等に触れ、刺激を受け、この魅力的な、交響曲でも非常に人気のある作品が生まれたのだと思います。この後、ドヴォルザークは「チェロ協奏曲」や弦楽四重奏曲「アメリカ」等、さらに名作を生み出します。

 さて、「はやぶさ」に話を戻して、「はやぶさ」で私たちも「新世界」を見ることができた。少ない燃料でで大きな推進力を得られるこれまでのものとは異なるイオンエンジン。打ち上げられた後一度地球の近くの公転軌道をぐるりと一周し地球のそばまで戻ってきて、その地球の引力を使って「はやぶさ」の軌道変更と速度を速めることができる「スイングバイ」の技術を磨き上げること。小惑星「イトカワ」に到着して、着陸する際自律制御でイトカワとの距離などを計算しタッチダウン、その後離陸した技術。そして小惑星からそのサンプルを持って帰るという世界初の挑戦。イトカワの画像は、とても鮮明で、太陽系誕生当時の太陽系の記憶を残しているという小惑星がどんな姿をしているのか私たちに知らしめてくれた。これで、サンプル採取に成功していたら…さらに太陽系のこと、惑星のことを詳しく研究することができる。私たちの地球も含まれる太陽系の更なる「新世界」に出会えるかもしれない。太陽系は、宇宙全体から見れば大きくは無い。でも、まだまだよくわかっていないことが多い。比較的身近なところでも、探査によって新しいものが得られる。探査機自身と技術者たちの挑戦、そして探査結果にワクワクする。ドヴォルザーク作品にあふれる、数え切れないほどの魅力的なメロディーのように。

 「はやぶさ」の旅路は終わったが、「新世界」への探求と挑戦はまだまだ終わらない。今日はソーラーセイル実証機「IKAROS(イカロス)」の、分離カメラ(DCAM2)で撮影したイカロス自身の画像が発表された。CGどおり、ピカピカの四角い帆を広げている。全長14mの大きな帆で、太陽光を受け、その圧力で進んでゆく。ソーラーセイルの技術がさらに進めば、木星など遠い惑星へ探査機を送り込んだり、往復させたりできる。もっともっと謎だらけの太陽系を、「新世界」を見ることができる。研究も進む。太陽系がどうやって生まれて、地球がどのようにして生まれ、何故地球には生命が存在するのか。他の惑星・衛星にも(可能性も含めて)存在するのか。そんなことも調べられる。勿論、今金星へ向かっている金星探査機「あかつき」も。金星にも謎は多い。地球と似た惑星なのに、何故温暖化して、雲は硫酸…という過酷な環境になってしまったのか。「あかつき」も「新世界」を見せてくれるだろう。

 宇宙機が活躍するのは、太陽系だけではない。例えば、冒頭で出てきた陸域観測衛星「だいち」は、地球の様々な姿を撮影し、観測し続けている。以前、「だいち」が撮影した私の住む地域の画像を見たが、私が住んでいる地球、身近な場所なのに、宇宙から見た姿にあらためて驚いてしまう。不思議だなぁと思う。地球温暖化を見張る温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」も、宇宙からの視点で地球の「新世界」…新たな一面を見せてくれている。温暖化が地球規模でどの程度進んでいるのか、観測した衛星は今までに無い。その技術も「新世界」だ。

 勿論、遠くの宇宙を観る衛星もいる。X線で観測する「すざく」赤外線で観測する「あかり」(冒頭のJAXA'sに「あかり」関連の記事もあります)。波長が違えば、見えるものも違う。太陽を観測している「ひので」は、太陽のダイナミックな姿を観測し続けています。太陽も謎が多い。ああ、宇宙は謎だらけ。

 というわけで、遠くへ向かう宇宙機も、地球を回る人工衛星も、新たな技術で新たな視点などを得ようと奮闘しています。「はやぶさ」のようにドラマティックな展開ではなく、淡々とした運用でも。私はそんな宇宙機たちと、科学者・技術者・研究者たちが見せてくれる「新世界」に、これからも興味を持ち続けたいし、応援し続けたいと思っています。搭載されている技術や観測結果、研究内容の細かいところまでは理解できなくても、わかる範囲でいいから勉強し続けたい。「はやぶさ」の帰還で、このブログへのアクセスもかなり増えています。検索ワードの第1位が「イオンエンジン 仕組み」。イオンエンジンのことが知りたくていらしているのだなぁ…(詳しくわかりやすく解説できてなくてごめんなさいね…私も勉強中です)。また、twitterでも、「イトカワ」のサンプルで何がわかるのか、話をすることがあったり。「はやぶさ」で、その技術やイトカワのサンプルで調べたいことに関心が集まり、多くの人が宇宙を知りたいと思っているのはとても嬉しいです。7年間のドラマと感動的なけなげな「はやぶさ君」としての見方だけではなく、「はやぶさ」そのものがきっかけで持った宇宙への興味関心が、小さくでもいいから人々の心に残り続け、ともし続けられればと思います。

 私たちが「新世界」を見つづけられるためにも、研究者たちによって謎が解き明かされるためにも、「はやぶさ」が見せてくれた技術、科学、宇宙の姿を、後世に伝えたいと思います。そして後世にも繋がるように、宇宙開発・宇宙科学・技術開発のともし火を消さないように…切に願っています。

 長くなりました。以上、ドヴォルザークの話なのか、「はやぶさ」の話なのかよくわからなくなってしまいましたがこの辺で。「IKAROS」の帆の画像に関しては、別記事で書きます。まさかの展開のツッコミどころwもあるので。


☆以下、この記事に関係する本・CDガイドです。

 「はやぶさ」が撮影した「イトカワ」の画像やその研究については、この本をどうぞ。小惑星だけでなく、月や火星など太陽系の天体の地質がどうなっているのか、画像満載で解説されています。高校の頃、理科は地学を選択していましたが、その時に勉強した内容も出てきたり。

惑星地質学

宮本英昭,橘省吾,平田成,杉田精司:編/東京大学出版会/2008



 

 第9交響曲「新世界より」CDはこれを聴きました。

ドヴォルザーク:交響曲第9番

ノイマン(ヴァーツラフ) / コロムビアミュージックエンタテインメント


 ドヴォルザークと同じチェコ出身のノイマンと、チェコ・フィルという地元同士の組み合わせ。地元同士の組み合わせで、作品に対する思い入れが出ないはずはありません。第2楽章の穏やかで哀愁のある音色に聞き惚れます。

ドヴォルザーク:交響曲第8番&9番《新世界より》

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 クーベリック(ラファエル) / ユニバーサル ミュージック クラシック


 同じくチェコ出身の指揮者・クーベリックとベルリン・フィルの演奏。クーベリックはチェコの共産化に反対してイギリスに亡命。世界各地で活躍します。ベルリン・フィルの巧みな演奏も魅力ですし、とにかく熱いです。クーベリックの故郷チェコへの想いが込められているのでしょうか…。
 ちなみに、健康上の理由などで指揮者を引退したクーベリックですが、その後1990年、「プラハの春」音楽祭でイギリスから帰国しチェコ・フィルを指揮。スメタナの「我が祖国」を演奏し指揮者として復活。そのライブ録音は歴史的名盤として今も親しまれています。私も愛聴しています。
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by halca-kaukana057 | 2010-06-16 22:28 | 宇宙・天文


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