ピアノの音を聴くためだけに、音を並べる

 先日の記事「何も奏でられないこの手指と心」以来、ピアノから遠ざかり続けています。以前は私の生活の一部だったピアノ。でも、今はピアノの椅子に座って、鍵盤の前にいることはほとんどない。以前紹介した池田綾子さんの「さよならピアノ」(「みんなのうた」にもなったシングルCD「数え歌」カップリング曲)のように、ピアノとお別れしてしまうのか?そんなことまで考えていました。

 そんな時、一通の郵便が届きました。送り主は、ピアノ関係でお世話になっている方。大きな封筒には、何枚かの楽譜と、お手紙が。楽譜の曲は、全く知らない日本人作曲家による作品。なんだろう?と思いつつ、お手紙にはこんなことが書いてありました。
あまり深いことを考えずとて 音を並べていくだけで
とても気持ちのいい曲って たくさんありますよね!!

私は、ピアノの音が聞いていたい
ただそれだけの理由で 例えばこの曲(同封の楽譜の作品のこと)を何十回も
繰り返し弾いたりしています

 先日の記事を読んで、送ってくださったようです。この手紙を読んで、本当に嬉しくなりました。お気遣いとともに、優しさと温かさを感じました。先日の記事で「独り」だと書いたけれども、「独り」ではなかったんだと。封筒ごと抱きしめたくなりました。

 そして、この手紙の内容。「音を並べていくだけ」、「ピアノの音を聞くためだけ」に弾く。今まで、考えたこともありませんでした。気がつきもしませんでしたし、思いつきもしませんでした。

 ピアノを「弾く」。それは、楽曲を「演奏する」ためのこと。まず、演奏したい楽曲があって、それを練習する。演奏が完成していない、練習途中なのは、楽曲を演奏することへの過程であり、ゴールではない。「練習」だけで終わってはならない。つまり、楽譜を読んで、解釈して、その解釈を伝えられるような演奏にするために練習して、技術と表現を磨いて…それまでは満足してはいけない。また、一度完成させた演奏でも、時間が経てばまた考えや読み、表現も変わり、技術も磨かれて違った演奏になる。だから、ピアノ演奏にゴールなんて無い。そう考えていましたし、手術をしてピアノから離れている間も同じでした。だからこそ、ピアノ・楽曲を「弾けない」「演奏できない」、満足に練習できない今がもどかしくて、かなしくて、辛いと感じる。音を出すことしか出来ない。右手でしか演奏できず、左手は満足に音も出せない。そんな私が今「弾ける」のは、ハノンと右手を練習するのみ。「演奏」には程遠い。また、ピアノで演奏する作品というと、練習曲であっても、西洋のクラシック作品ばかりを考えてしまう。西洋のクラシック音楽の枠で考えると、今の私には「演奏できる」作品が無いと、肩を落としていました。私にとってピアノとは、演奏する楽曲あっての存在だったから。

 ところが、この手紙の内容。これまでの私の考えと全く異なる。楽曲を「演奏する」ためではない。「音を並べていくだけ」、「ピアノの音を聞くためだけ」…。この言葉を反芻しつつ、送られてきた楽譜の作品を、弾いてみました。初見が苦手、聴いたことが無い作品を楽譜だけで弾くのは苦手ですが、やさしい作品で、拍をとりながら、メロディーを口ずさみながら弾いてみました(右手だけ)。不思議な音色・響きの作品でした。その作品のタイトルにぴったりだと感じました。現代の日本の作曲家によるもの、音楽会社によるもの…本当にいろんな作品があって、いろんな音楽があるのだな。

 そして、「あまり深いことを考えずとて 音を並べていくだけで とても気持ちのいい曲」とは自分にとって何だろう?と考え、ふと思いついて、シベリウス「フィンランディア」の「フィンランディア賛歌」の部分をメロディーだけ弾いてみました。重苦しい冒頭、勇ましい主題に挟まれて、感動的な歌が奏でられるあのメロディー。大好きな旋律のひとつです。ピアノだけでなく、小学校の時から使っているリコーダーでも吹いてみました。旋律の冒頭は木管で奏でられるので、そのイメージで。ああ、いい旋律、いい歌、いい響きだなと心から思えました。


 そういえば、ピアノは鍵盤を押せばすぐその音が出る。しかし、弦楽器や管楽器ではそう簡単にはいかない。初心者には音を出すことすら難しい楽器の方が多い。チューニングや、弦やリードなど楽器のメンテナンスも、自分でやらなければならない。ピアノは、ドの鍵盤を押せば(ちゃんと調律されていれば)間違いなくドの音が出る。しかし、弦・管楽器ではそう簡単にはいかない。クラリネットやホルンのように、移調楽器なんて面倒な楽器もある。音を出すのなんて簡単、当たり前。だから音を出すしか出来ないなんて…と思っていたが、ピアノしか演奏したことのない自分には、音を出すことも大変な楽器があることの視点が抜けていた。
(勿論、弦・管楽器でもピアノでも音を出すだけでなく、音色を作ることも大切なのだが、今日はその話はやめておく)

 しばらくの間、ハノンでピアノリハビリとか、何が弾ける・弾けないとか考えず、ピアノの音を出すのを楽しんでみよう。ピアノを演奏するための手段・道具という見方ではなく、「楽器」そのものとして、その音だけを聴いてみよう。気負わずに、「~ができない」とマイナスを探すよりも、今、目の前に何があるのかをよく見て、あるものを楽しんでみる。そんな付き合い方をしてみようかなと感じました。
 まずは、左腕を完治させることが先。無理をして、治療期間延長や、再手術なんてことになったらますます辛くなる(もう手術は勘弁です)。


 音楽・ピアノには、色々な楽しみ方があるんだと実感しました。送ってくださった方にも、感謝しています。


 あと、ピアノのカテゴリ名を「ピアノ独学」から、「ピアノ演奏・ピアノ考」に変えました。「独学」を消した理由は、前の記事にあります。
決して、独学に拘っているわけではありません。ピアノを弾きたいと思って、自然と自分で弾いてみたい曲集や自分なりの課題を設定して…と練習していたら、世間では「独学」と呼ばれる環境にいただけなんです。
 …ああそうか、私は「独学」を選んだのではなくて、いつの間にか「独学」している立場になっていたんだ。それを、自分でも「独学」だと認め、自分から「独学」だと言うようになったんだ…。今、ようやく気がついた。
「何も奏でられないこの手指と心」

 ここ。「独学」だと、自分で呼ぶのはやめます。

・過去関連記事:ピアノと共に過ごす日々 「さよならピアノ」
 池田綾子さんの「さよならピアノ」について。いい歌です。

【追記】
 文章を少し書き直しました。
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by halca-kaukana057 | 2010-07-26 22:48 | 奏でること・うたうこと


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