ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験

 読んで感想を書きたいけど書いていなかった本について、どんどん語るよ!まずは日本初、宇宙飛行士候補者選抜試験を密着取材したNHKスペシャルの新書版を。

宇宙を目指す今とこれから
↑ NHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた ~密着・最終選抜試験~」感想記事。


ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
大鐘 良一・小原健右/光文社・光文社新書/2010

 小原健右さんといえば、NHKの宇宙関係ニュースでよくテレビに出てくる記者さん。ヒューストンや種子島など、NHKの宇宙関係ニュースを見ていると小原さんの名前が頻繁に出てきて、眼鏡がポイントのお顔も覚えてしまいました。その小原さんもこの取材に関わっていたのか。

 内容は、Nスペで放送されたもの以上に濃いです。Nスペは50分番組でどうしても時間制限があるし、50分で10人の宇宙飛行士候補者ファイナリストの2週間全てに密着するのは無理がある。この新書では、番組ではカットされたであろう部分や、ファイナリスト10人のさらに詳しいバックグラウンドや何故宇宙飛行士を目指したのか、試験中のこと、自分自身のことについて、細かく取材し、記述されています。

 そして、番組で観たよりも、宇宙飛行士候補者選抜試験は過酷であるということ。1週間の閉鎖環境試験も、スケジュールが分刻み。これはISSでの実際のミッションを想定してのこと。「きぼう」の開発・運用や、シャトル・ISS計画に日本人飛行士を参加させるためNASAと交渉してきたJAXAトップの職員たちが、受験者たちに様々なストレスを与え、それでも平常心で作業できるか、何かアクシデントがあってもチームで対処できるようにチームをまとめたり、冷静に意見を出し合えるかを細かくチェックしている。勿論、受験者たちはそれを知っている。監視カメラがあるので、何を見られているのかわかっていて作業している。でも、評価結果は勿論わからない。でも、随所に出てきて印象的だったのが、与えられた課題について失敗したか・成功したかではなく、どのようにして困難な状況を解決・克服しようとしたか、何を求められているのか的確に状況を読んで行動できたか、だった。いい成績を修めたように見えても、それは宇宙空間という極限の環境で仕事をするのに評価されるか。まっすぐには繋がらない。ただ優秀な人が宇宙飛行士になれる、とは限らない。

 最初の閉鎖環境試験の後、NASAでの実技・面接試験も番組以上に詳細に記載されていました。NASAでも、宇宙飛行士を何人も採用するが、その全てが宇宙飛行できるわけではない。宇宙飛行をしないまま、辞めてしまう人もいる。日本人飛行士とは、ちょっと違う。日本人飛行士の方が(日本国内では)注目もされるし、採用されたからには確実に宇宙で仕事をすることを求められる。さらに、宇宙飛行士になった本人も、生活環境が激変する。そのストレス、さらに、宇宙で殉職してしまう可能性もある。なので、試験を通して、本当に宇宙で仕事をする覚悟があるのか見極めてほしい。NASAの面接官を務める宇宙飛行士室のトップたちも、宇宙飛行士の"本当の仕事"とは何か、試験で見極めてほしいと思っている。そして、面接(プラス面接試験後のパーティー)で、この人と宇宙で一緒に働きたいかを。もし、一緒に仕事をしていて事故に遭遇しても、この人なら信頼して危機を乗り越えようという気持ちになれるか。以前、野口聡一宇宙飛行士が、宇宙飛行士に選ばれるというのは、その時のJAXAやNASAの人との相性がよかったかもあるという内容のことを仰っていた記憶があるのですが、そうなのかもな、やっぱり信頼できる人と仕事したいものな、と感じました。

 取材した2人の「はじめに」「おわりに」にこんな一文があります。
 どんなに苦しい局面でも決してあきらめず、他人を思いやり、その言葉と行動で人を動かす力があるか
 その"人間力"を徹底的に調べ上げる試験だったのである。
 (5ページ「はじめに」より)

 昨今、書店には就職指南本が数多く並ぶ。面接の傾向や対策など、業種ごとに、攻略法が縷々として述べられている。しかし、こうしたノウハウやテクニックを駆使して"憧れ"の仕事に就くことが、果たして本当に幸せなのだろうか。
 今回の試験は、まさにそれを問いかけるものだった。10人の候補者は、試験を受ける中でありのままの自分で勝負しなければならないことに気づいていく。自らを飾ったり、背伸びしたりしても意味がない。たとえそれで選ばれても、自分を永遠に偽り続けなければならなくなるからだ。そして試験では、宇宙飛行士という仕事が"憧れ"だけではこなせない仕事であることが、徐々に明らかになっていくのである。
(257ページ「おわりに」より)

 宇宙飛行士も特殊だけれども、ひとつの仕事。その選抜試験も、同じく。しかし、やはり極限の環境で、さらにISSの船長になれるような人材を発掘するには、この本に書かれているような過酷な試験が待っている。宇宙で生活することは、私たちの少しずつ近づいてきていると感じていた。私たちの生活の延長線上に、宇宙での生活があると、このブログでも何度も述べてきた。でも、仕事の面では、まだまだ遠い。まだ、限られた人しか行くことができない。25年前、1985年8月に日本人宇宙飛行士1期生の3人(毛利・向井・土井の3氏)が誕生した。その時は、スペースシャトルで科学実験を行うことを想定して選ばれた。その後、ISS建設のために、ロボットアームや船外活動でISSを組み立てる「ミッションスペシャリスト」になることを想定して、2・3期生の若田・野口両飛行士が選ばれた。4期生の古川・星出・山崎3飛行士はISSに長期滞在し、実験などをこなすことを想定して選ばれた。今回は、ISSの船長(コマンダー)になれる人材を求めた。その時によって、どんな宇宙飛行士が求められるのかも変わる。この宇宙飛行士像も、地上の仕事の延長線上にあり、徐々にその延長線が短くなればいいなと思う。

 この試験で選ばれた、油井・大西・金井3候補者は現在アメリカで訓練中だ。訓練でも、選抜試験と同じようにストレスに満ちた環境で、宇宙飛行士としての訓練を受け、資質を見極められていく。選抜試験に合格しても、「候補者」。正式な「宇宙飛行士」になれるのはまだ先。3人が過酷な訓練を乗り越えて、宇宙へ旅立つ日が近いことを祈りたい。閉鎖環境で10人で折った、千羽鶴と共に…。

 最後に、ニコニコ動画に3人がケネディ宇宙センターオリエンテーションに参加している動画があったので、どうぞ。英語です。
【ニコニコ動画】NASA 宇宙飛行士候補のケネディ宇宙センターオリエンテーションツアー



【追記】
 よくよく考えてみたら、宇宙で生活することに繋がる地上での生活の延長線が短くなるのはいいことだけれども、仕事の面で宇宙と地上の差が少なくなっていくのは、よくないことかもしれない。ISSでは地上では出来ない、無重量だからこそ出来る内容の実験をしている。この実験がもし地上でも出来たら意味がない(地上でも出来なくはない内容もありますが、長い時間無重量状態を作る必要性を考えると宇宙のほうがいい)。宇宙の実験施設は、宇宙の実験施設であることに意味がある。

 仕事の面で宇宙と地上の差を少なくする・地上の仕事の延長上にある宇宙での仕事って何だろう…。宇宙観光が一般化して、その宇宙船のパイロットとか、整備士とか。「プラネテス」(特にアニメ版)が参考になりそう。
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by halca-kaukana057 | 2010-08-10 22:51 | 本・読書


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