ひまわりの海

 以前、ピアニストの舘野泉さんの本を読んで、他の著作も読んでみたいと思っていた。しかし、図書館にはない。少し前に他の本を探しに本屋へ行ったら、この本があった。お目当ての本がなかったので、思い切って買ってきた。


ひまわりの海
舘野 泉/求龍堂/2004

 この本が書かれたのは、脳溢血で倒れ、「左手のピアニスト」として復帰してから少し後。なので倒れる前のことも、倒れてから復帰するまでのことも詳しく書かれています。

 前半は演奏旅行のこと、舘野さんの好きな・親しい作曲家たちのこと。舘野さんは世界中あちらこちらで演奏会を開いたり、招かれたりしていた。その演奏会でのこと、また、旅先での食事や町の様子のことも。舘野さんのことは復帰した後に知り、演奏も聴くようになった(クラシックを本格的に聴くようになったのがその頃だったので)。倒れる前の舘野さんのことは知らなかったのだが、本当にアクティブな方なのだなぁと実感した。アルゼンチンでは、風邪気味なのに、タンゴの本場に来たのにタンゴを聴かずに帰れるか、と、毎日劇場に通う。凄い体力と気力。勿論舘野さんご自身の演奏も気を抜かない。仕事をしつつ、各地での旅を堪能する舘野さん…あらためて凄い方だと感じました。
 また、世界各地だけでなく、日本での演奏会も大切にする。北海道厚沢部町の廃校での演奏会はこぢんまりとしているが、地元の人との交流を大事にしている。演奏旅行は、演奏をしに行くだけじゃない。訪れた町を、地元の文化や音楽、芸術や自然、食を、人との交流を楽しむことでもある。それが演奏する音楽に繋がっていくのかな、と感じました。

 後半は、脳溢血で倒れて、入院、リハビリの日々と、復帰までの道のり。これまで舘野さんの倒れてから復帰までのドキュメンタリーなどは、ほとんど観ていない。なので、詳細な内容は初めて読んだ。身体が思うように動かない・動かせない辛さ。入院生活での不自由さ。これまで思ってきた以上に壮絶、苦しいものだと感じた。私の家族も脳梗塞で倒れ、半身に麻痺が残り不自由な生活を送ることになってしまったが、その入院からリハビリ、症状が安定してからも麻痺の残る身体での生活は辛そうだった。舘野さんはピアニストとしての仕事がある。倒れてすぐの頃は、復帰もすぐできるだろうと楽観的だったものの、ピアノに向かう度に連打など「出来ないこと」を実感する。そして、周りの反応…。右手が使えないなら、ラヴェルの「左手のための協奏曲」を演奏すればいいとの言葉に、反感を覚える。その一方で、温かく励ましてくれる友人・音楽家たちもいた。特に、マリア夫人や長男のヤンネさん他ご家族も、温かく見守ってくれた。そして、雪が融けてゆくように、復帰への道も見え始めた…。両手、左手だけなんて関係ない。音楽ができること、音楽そのものをしている充実感が溢れていて、何も不足を感じない。私が舘野さんの演奏からいつも感じることを、舘野さんご自身も感じている。舘野さんが復帰できて、本当に良かったなぁと思う。復帰がなければ、私が舘野さんの演奏を聴くことは無かったかもしれない。シベリウスに興味を持っているから、シベリウスやグリーグのピアノ演奏にはありつけたかと思うが、その後が続かないだろう。舘野泉という音楽家・人間に出会えて、本当に良かった。本当に嬉しいと感じる本でした。

 今、腕の故障~回復中で、ピアノと付かず離れずの関係にいる私にとっても、舘野さんの言葉は励みになりました。今の私にとって、何を演奏するかが問題なのではない。少しでも音楽に接していること、ピアノに触れて、その音を楽しんでいること、それが大事なんだ、と。
(私のピアノに関することは、別記事で書きます。)

 この本の冒頭では、舘野さんがこよなく愛する南フランスの作曲家・セヴラックについて詳しく書かれています。それで興味を持って、舘野さんのセヴラック作品集を買いました。

ひまわりの海~セヴラック:ピアノ作品集

舘野泉 / ワーナーミュージック・ジャパン


 まだ届いたばかりなので少ししか聴いていませんが、同じフランスでもドビュッシーやラヴェルなどとは異なる。じっくり聴いて、また感想を書けたら。

 あと、フィンランドの作曲家に関しても、これまでシベリウス以外はそんなに多く聴いていなかったのですが、オスカル・メリカントとパルムグレンが気になっている。個々にアルバムがでているので、それもそのうち(すぐには買えないけど)聴きたいな。O.メリカントに関しては、全音から、「子どもの世界から」op.31という舘野さんが解説をつけた楽譜が出ていたのだが、残念なことに絶版。息子のアーッレのために書かれた作品集で、アーッレも作曲家になりました。輸入楽譜でならあるのですが…残念だなぁ。

 ひとりのピアニストから、知らない作曲家のことを知り、興味を持ち、演奏を聴いて…これも音楽の楽しみです。思い切って買ってよかった。舘野さんが撮影したフィンランドや世界各地での写真もあり、どれも美しいです。
 ちなみに、この本、音楽書ではなく、闘病本コーナーにありました。確かに、その通りではある。



・関連記事:左手のコンチェルト 新たな音楽のはじまり
 この「ひまわりの海」に続く、舘野さんのエッセイ。読む順番が逆ですね。

舘野泉:タピオラ幻景
舘野泉:アイノラ抒情曲集
ピアノの可能性 舘野泉コンサートに行ってきた
ヴァイオリンの発見 ヤンネ・舘野コンサートに行ってきた
 舘野さんのCD,コンサートの記事。またコンサートで生演奏を聴けたらいいな。
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by halca-kaukana057 | 2010-09-05 23:19 | 本・読書


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