小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡/小惑星探査機 はやぶさ物語

 先週の「はやぶさ」カプセル内の微粒子がイトカワのものだったという大朗報から1週間。カプセルの公開や講演会など、全国各地でさらに盛り上がっています。ということで、ようやく読み終えた「はやぶさ」本2冊。どちらも著者はJAXA(統合前はISAS)の広報役・マトちゃんこと的川泰宣先生です!


小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡 挑戦と復活の2592日
的川 泰宣/PHP研究所/2010








小惑星探査機 はやぶさ物語
的川 泰宣/日本放送出版協会(NHK出版)・生活人新書/2010









 ソフトカバーの「奇跡」が9月、新書の「物語」が10月に出版。どちらも大体同じ内容ですが、少し違います。「奇跡」は帰還後すぐに書かれ、小惑星サンプルリターン計画を立ち上げ、「はやぶさ」の開発、開発を追いながら「はやぶさ」のミッション内容や特徴、機器についての解説、さらに「はやぶさ」に先立ち、”先輩”ミッションであった「ひてん(MUSES-A)」,「のぞみ(PLANET-B)」のこと、そして打ち上げ、7年の旅路を当時のメルマガなどと合わせて書かれています。一方、「物語」はお手ごろな新書ということもあって、「奇跡」よりもわかりやすく、内容も整理されているように感じました。図解も多く、難しいイオンエンジンの仕組みやスイングバイの仕組みもばっちり。まさに「物語」に仕上がっています。でも、「奇跡」の方で詳しく書かれていることもあります。1冊では収めきれなかったことは、「はやぶさ」プロジェクトチームを一番近くで見守り、支え、応援してきた的川先生の想いがつまっていると言えます。

 これまでに出た山根一眞さんの「はやぶさの大冒険」や、ニュートンムックなどを読んでいても感じたのですが、小惑星イトカワは、地球から大体の大きさはわかっていたものの、約500mしかない小さな小さな天体。望遠鏡でもある程度の形はわかるけれども、詳しいことは、行ってみないとわからない。大体の環境を予測して「はやぶさ」を設計したものの、到着してカメラでその姿を撮影してみたらびっくり。これまでアメリカなどが探査した小惑星とは全く異なり、クレーターがほとんど無く、岩の塊に覆われ全体的にゴツゴツしている。予想以上にいびつで、くびれもある。「はやぶさ」は工学実証機ではあるけれども、イトカワの観測もする理学的なミッションもある。小惑星の観測結果から研究をする理学側の研究者たちも、この形を観て驚いたのだそう。これまで誰も行った事のない天体へ行くこと。そして、そこで離着陸をしてサンプルを採取するというミッションは本当に難しく、挑戦的なミッションであったことをあらためて実感しました。

 冒頭でも書いたとおり、的川先生はロケット工学の専門家でもありますが、ISAS時代から広報役でもありました。取材に来る記者さんたちや、私たち一般市民に対して、ミッションについてわかりやすく解説し、丁寧に質問に答えてくださいます。一方、プロジェクトチームの技術者・研究者たちがミッションに集中できるように、現在の状況をどの程度記者や一般に公開するか、記者会見はどうするか、ということにも気を配っています。いわば、プロジェクトチームとメディア、私たち一般市民のパイプ役、架け橋役。プロジェクトチームの若手研究者・技術者たちが、日々の運用で経験を積み、将来後継となるミッションを引っ張っていけるように温かく見守っている。現在、ソーラーセイル実証機「IKAROS(イカロス)」の運用チームの一員であり、「イカロス」の帆の展開という重要な役目を担った津田雄一さんも、「はやぶさ」ミッションに関わり、その経験を今「イカロス」で発揮されている、というエピソードも。また、記者さんたちとのやりとり、届いたお手紙やメール、ネット上での一般市民の反応にも敏感に、温かく反応を返している。「はやぶさくん」のことが大好きで、将来宇宙飛行士になって「はやぶさくん」と遊びたい…とお手紙をくれた小学生の女の子。ネット上にアップされた「おつかいできた」のイラスト。ガン闘病中で「はやぶさ」に生きる希望をもらった、「はやぶさ」が帰って来るまで俺も生きる!との掲示板への書き込み(私もこの書き込みを見たのですが、事実はどうあれ書き込んだ本人は、今どこにいるのだろう。元気になっただろうかと、気になってはいます)。

 運用チームのメンバーにも、記者・一般市民にも一番近いところにいて、”「はやぶさ」と人のつながり”を、的川先生はひしひしと感じていらっしゃったのだと思う。「はやぶさ」は運用チームにとっても素晴らしい、その成果(反省点を含めて)を後輩たちにしっかりと引き継いでいきたいミッションになったと思う。また、私たち一般市民にとっては、挑戦的なミッションにワクワクし、ドラマティックでけなげな「はやぶさくん」の頑張りにドキドキし、応援し、また自分自身を重ね合わせて勇気や希望をもらったり…とこれまでの宇宙機とはちょっと違う反応が出てきた。的川先生も、「はやぶさ」の人気や、これまで宇宙に全く関心の無かった人が「はやぶさ」がきっかけで宇宙関連のニュースに目を向けるようになったということに対して、「奇跡」のあとがきでこう書かれている。
「はやぶさ効果」の核心に迫っていきたい。この沸騰を一過性のものにしてはならない。宇宙活動を盛り上げるために活用するというレベルで終わらせてはならない。
(150ページ)

 これには私も全く同感です。「はやぶさ」がきっかけで、宇宙(宇宙開発から天文学まで。”宇宙”という学問の分野はとても広いけれども、天文観測のために、観測衛星を打ち上げるなどどこかで関連し合っています)に興味を持つ人が増えたのは嬉しい。でも、増えただけで終わり?宇宙に興味を持って何になるのか。イトカワのサンプルの分析で、太陽系の歴史の謎が解けても、私たちの生活には関係ないじゃないか…そうじゃない。まず、宇宙は、私たちが住んでいる場であって、自分の住む場について知ることは大切なことだと思う。また、宇宙開発の分野で考えると、宇宙開発の技術は私たちの生活に欠かせないものになっている。気象衛星による気象情報。通信衛星や放送衛星がないと困ることは数多い。宇宙技術を私たちの日常生活に活かす「スピンオフ」も数多く、私たちの暮らしを支えている。

 それだけではない。「物語」の第7章では「はやぶさがくれたもの」と題して、日本から何を発信して、世界のためにどう役立てるか。高い技術に取り組んでもっと力をつけていこうというチャレンジ精神。日本や地球が置かれている現実は厳しいけれども、この世の中には、生きているこの地球・宇宙には素晴らしいものがたくさんあるという、特に子ども達に夢や憧れを広げて見せる・持つことのできる教育を―。宇宙という厳しい環境、自分達も住んでいるのに謎だらけの場。その宇宙の謎を解きたい、宇宙の姿を知りたい、宇宙で何が出来るか挑戦したい、とこれまで人類は宇宙活動(宇宙開発から天文学まで含む宇宙全般に関わる活動)を進めてきた。簡単にはいかない。だから、様々な創意工夫をして、トラブルにも臨機応変に対処し、まさかの時もちょっとしたアイディアが助けとなった。また、チームをまとめるリーダーも目標を確固として持ち続け、何かあった時はいいと思った意見はすぐに取り入れた。「はやぶさ」から、宇宙から学ぶことは沢山ある。宇宙そのものの科学的なこと、好奇心、新しい視点、私達の仕事や暮らしにつながること…。ウーメラ砂漠の夜空に光り輝きながら消えていった小さな探査機は、私達を映す鏡のように見えると感じました。


 ところで、以前にも的川先生の本を読んで書いたのだが、的川先生が禁煙の記念として40歳の誕生日に40本のたばこをまとめてくわえ、一気に吸ったという武勇伝。それに川口淳一郎先生も関わっていたことは知っていたのですが…、なんと、その40歳の誕生日に40本のたばこを一気に吸うというアイディアを出した張本人が、川口先生だったのでした…。13歳年上の先輩に対して、よくそんなことを言ったなぁとも思えますが、先輩後輩関係なく、和気藹々と、でも切磋琢磨して宇宙を目指していたISASの雰囲気が伝わってくるエピソードでした。そういえば、現在の「イカロス」運用チームも、ブログやtwitter,テレビの取材などからそんな雰囲気が伝わってきます。いいことだなぁ。


 さて、的川先生の「はやぶさ」本、もう1冊12月に出ます。こちらにはサンプルのことも入るのかな?(間に合うかな?)
小惑星探査機「はやぶさ」の秘密
 今度は「秘密」。12月発売予定だったのが、来年2月に。ということは、イトカワサンプルのことも書かれますね…!

いのちの絆を宇宙に求めて -喜・怒・哀・楽の宇宙日記3-

的川 泰宣 / 共立出版


 日本惑星協会メルマガ「TPS/Jメール」の「YMコラム」をまとめた本第3弾。もう3冊目なんだね…(しみじみ)

そして、ついに…!

はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話

川口 淳一郎 / 宝島社


 プロジェクトマネージャー・川口先生も本を出します!タイトルからして、もうね…。これは読む。あと、今月末に中公新書でも川口先生の本が出ると聞いたのですが、詳細が来ない。延期とか?詳細待ちです。

 「はやぶさ」他宇宙関連の本は他にも沢山!
オンライン書店ビーケーワン:【宇宙に思いを馳せる】 はやぶさ、おかえり!
 専門書やジュニア向けまで、宇宙関連書揃ってます。ちょっと面白いのが「人工衛星と宇宙探査機」。宇宙工学を学ぶ大学生向けの本です。川口先生も軌道工学の章で執筆。以前、本屋で見つけて、とりあえず川口先生の担当した章を読んでみたのですが…さっぱりわかりませんでしたw(当然だ)


【過去関連記事】
祝・500点満点達成! 「はやぶさ」カプセルの微粒子はイトカワ由来:先週のニュース、何度読んでも嬉しいですねぇ。
小惑星探査機 はやぶさの大冒険:山根一眞さんの「はやぶさ」本感想
轟きは夢をのせて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記:「YMコラム」本第1弾。40本たばこ事件の顛末はこの本にも。
人類の星の時間を見つめて 喜・恕・哀・楽の宇宙日記2:「YMコラム」本第2弾。
宇宙教育とはやぶさ JAXAタウンミーティングに行ってきた:的川先生と川口先生という超豪華コンビの「JAXAタウンミーティング」レポ。的川先生のお話は、生で聞いても丁寧で温かく、情熱のこもった内容でした。
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by halca-kaukana057 | 2010-11-23 23:00 | 本・読書


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