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シューマン「楽しき農夫」を読む

 シューマン作曲「こどものためのアルバム」op.68の中で最も有名なのが第10曲「楽しき農夫(Fröhlicher Landmann)」である。この曲を解読し、演奏を試みる。

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 ヘ長調のこの曲は、もともと「von der Arbeit zurückkehrend/仕事からの帰り道」というタイトルだった。つまり、一日の仕事を終え楽しそうに帰途に着く農夫を表した曲であることがわかる。曲想も「Frisch und munter/さわやかに元気よく」。調性や旋律から考えても明るく柔らかい曲と読み取れる。しかし、「こどものためのアルバム」全体を見通してみると、この曲は中音部が出てくる最初の曲である。それまで右手はメロディー、左手は伴奏と役割が決まっていたものが両手に混ざり合う複雑なものとなる。その複雑さに小さなピアニストたちが抵抗を持たないように、このような愛らしい楽しげな曲にしたのだろうか。シューマンの子どもたちへの愛情が読み取れる作品である。


 この曲は主にふたつの部分に分けられる。まず冒頭部分。4度の上昇で始まる。この4度の上昇は第7曲「狩の歌」でも使われており、シューマンが好んで用いていたものである。メロディーが低音部、伴奏が高音部となっている。農夫の低く太い歌声を表現したのだろうか。

「楽しき農夫」冒頭部分楽譜
シューマン「楽しき農夫」を読む_f0079085_17113837.gif



 続く第2主題では左手と同じメロディーを高音部でも演奏し、中音部に伴奏が入ってくる。伴奏以外は同じメロディーなので、初めて登場する中音部の複雑さが取り除かれている。高音部でも同じメロディーが歌われているのは、農夫以外の別の人間…農夫仲間か、それとも家で待っている家族の声なのだろうか。

「楽しき農夫」第2部分楽譜
シューマン「楽しき農夫」を読む_f0079085_17113837.gif



 第一部分と同じメロディーを両手で歌い、繰り返して楽しそうに終わる。

【参考文献】
  * 門馬直美「シューマン」春秋社、2003
  * 音楽の友社編「作曲家別名曲解説ライブラリー23・シューマン」音楽の友社
  * シューマン作曲「こどものためのアルバム」原典版(校訂:パウル・バドゥーラ=スコダ)音楽の友社
by halca-kaukana057 | 2006-10-03 17:10 | 奏でること・うたうこと

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by 遼 (はるか)
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