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シューマンの言葉に学ぶ 「音楽の座右銘」より

 シューマンの「こどものためのアルバム(ユーゲントアルバム)op.68」には、「音楽の座右銘 Musikalschen Haus-und Lebensregeln」という音楽を学ぶ若い人が大切にしておきたいことがまとめられている。美しい演奏をするために必要なことは何か、音楽とは何か。その言葉を読んで私なりの解釈をしてみようと思う。

 この「音楽の座右銘」は短い文が約70個並べられている。分類してみるとこうなる。


1.演奏に関すること
 演奏する際に注意しておかなければならないことを説いている。すぐに実践できるように具体的な言葉で書かれているものが多い。基礎練習、拍子、丁寧に生き生きと演奏すること、過剰な表現はしないこと等。また、和声やフーガの勉強も必要であると述べている。さらに、楽器で演奏するだけでなくその曲を歌うこと、つまりソルフェージュの勉強をすることも薦めている。これによって、音楽を総合的なものとして捉えることが出来るようになるだろうと配慮したと考えられる。
「やさしい曲を、上手に、美しくひくように努力しなさい。難しい曲をいい加減にひくよりはずっとましです。」

これはこの「こどものためのアルバム」のモットーではないかと思う。


2.曲に関すること
 流行を追い求め、悪い曲を演奏することの愚かさを説いている。
「悪い作品を演奏してはいけません。またしかたのないとき以外は、それを聞くこともいけません。」

 「しかたのないとき」と断っているのは、音楽評論の先駆けとなったシューマンらしい言葉と受け止められる。


3.人前で演奏することに関して
 人前で演奏することは良いが、「社交の場で演奏することは、利益になるよりも害になります」と述べている。「社交の場」は今ではあまり想像出来ないが、そのような場では流行の曲がもてはやされる。それに意味があるのかと問うているのだろう。


4.音楽仲間とかかわる事について
「でも、どうすれば音楽的になれるのでしょう?
 (中略)
一日じゅう隠者のように閉じこもって、機械的な勉強ばかりしていないで、はつらつとした多方面にわたる音楽的交際を獲得し、特に合唱団やオーケストラの人びとと、終始つき合ってこそ、音楽的になれるのです。」

 この項から分かるように、音楽仲間と関わりその人々から学ぶことによって、自己の音楽性を高めることが出来ると説いている。また他の人と演奏すること大切だと述べているが、仲間になるのはなにも人間だけではない。
「だんだんに、あらゆる重要な大家のあらゆる重要な作品と知り合いにならなければなりません。」
「あなたがもっとおとなになったら、名演奏家とよりもスコアと交際しなさい。」

 作品に触れ、より深く理解することも一つの音楽とのかかわりである。


5.楽器に関して
 この「こどものためのアルバム」はピアノのための曲集であるが、ピアノ以外の楽器に関してもアドバイスがある。
「もしみんなが第1ヴァイオリンをひきたがったら、オーケストラはまとまらなくなってしまうでしょう。ですから、それぞれの持場にいる音楽家を尊敬なさい。」

 この「音楽の座右銘」にはオルガンや合唱、オーケストラで学ぶことが大切だと述べている項が多い。音楽の形態は一つではない。出来る限り多くの形態に触れ、小さな頃からそれぞれの良さを肌で感じることが大切だと述べている。特に、シューマンが生きた19世紀は現代のようにCDもレコードもなく、コンサートに行くことができたのは限られた人々だったと考えられる。だからこそ様々な種の音楽に触れることは貴重であり、その機会を大切にして欲しいと思ったのだろう。


6.音楽を聴くことに関して
 ピアノだけではなく、オーケストラや合唱、教会のオルガン、民謡などありとあらゆる楽器の音を聞き、その特徴を理解すること。また、聞いた音楽・作品を評価、批判することに関しても注意を促している。
「はじめて聞いただけで、作品に判断をくだしてはいけません。ひと目で気に入ったものが、かならずしも最良のものとは限りません。大家はつねに、わたくしたちの研究心をかきたてるものです。ひじょうに年を取ってみてはじめてわかることだって沢山あるでしょう。」
「作品を批判する場合には、それが芸術そのものに属するものか、それともたんに、愛好家の娯楽を目的としているのかを区別しなければなりません。第1の種類には味方すること、そして第2の種類にたいしては腹をたてないこと!」



7.作曲に関して
 作曲する際の留意点について述べている。作曲の手順についても説明してあり、作曲をしたことのない若い世代に向けてのアドバイスとなっている。


8.音楽を学ぶ心構えに関して
 うぬぼれることなく熱心に、根気強く。その心構えがより素晴らしい音楽家になるために必要である。

9.音楽以外の生活に関して
 心身を健康に保ち、音楽だけでなく文学やそのほかの学問からも学ぶことがあると説いている。
「1日の音楽の日課を終えて疲れを感じたら、もうそれ以上は無理をしないように。喜びも生気もなしに働くよりは、休息するほうがましです。」

「せっせと詩人の本を読んで、音楽の勉強の疲れをいやしなさい。またときどき戸外を散歩するように!」

 精神病に悩み苦しんだ経験ゆえの言葉だろうか。また、シューマンは自然の中を散歩することが好きだったようで、それがこの「音楽の座右銘」にも反映されている。



 そして最後はこうまとめられている。

「学ぶことに終りはありません。」


 今では生涯学習の考えも普及しているが、それを19世紀にシューマンは既に大切なものとしていた。シューマンは職業として音楽と関わることを想定していたと考えられる。しかし、この言葉は音楽だけと限定したものではないと私は考える。

「他の芸術や学問においてもそうですが、生活の中でも自分の身辺をよく見回しておきなさい。」

 また、シューマンは「音楽家にならなかったら作家になっていた」と言うほど文学を愛していた。「音楽の座右銘」というタイトルだが、これらの心構えは音楽に限ったものではないと自覚していたのではないのだろうか。
by halca-kaukana057 | 2006-10-02 17:29 | 奏でること・うたうこと

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