はやぶさ、そうまでして君は 生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話

 今年、2010年、私が一番大きかったと思うニュースは勿論小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」の帰還と、小惑星イトカワのサンプル採取成功。本当に今年は「はやぶさ」一色でした。その「はやぶさ」関連本をこれまでも何冊も読んで感想を書いてきましたが、ついにプロジェクトマネージャーの川口淳一郎先生も執筆されました。これを読み終えないで、今年は終われません。


はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
川口淳一郎/宝島社/2010

 内容に関しては、これまでの「はやぶさ」関連本や、川口先生の講演会での内容と同じように、小惑星サンプルリターン小研究会の立ち上げから、NASAに負けじとサンプルリターン計画を「MUSES-C」プロジェクトとして発進。機体の開発、打ち上げ。そして、苦難の旅路…。これらは、これまで何度も聞いてきた話なのに、何度も読みたくなるのは何故だろう。「はやぶさ」プロジェクトそのものの挑戦的なミッションに魅力を感じる。でも、それだけじゃない。書き手の立場もある。山根一眞さんの本はプロジェクトをずっと追ってきた記者として。的川泰宣先生の本は、プロジェクトチームを一番近くで見守り、また、プロジェクトを応援する一般市民や記者さんたちとも一番近い存在として。そして、この川口先生の本は、「はやぶさ」プロマネとして、「はやぶさ」の一番近くにいた技術者としての視点で語られます。更に、この本を購入して初めにさらりと読んでみたのですが、その文章に温かみを感じました。「はやぶさ」への想いが詰まっている。「はやぶさ」に対してだけでなく、プロジェクトチームのメンバー、プロジェクトに欠かせない存在であったメーカーさん、メーカーのエンジニアさんたち、プロジェクトを支えそこで学んでいた若い学生さんたち。「はやぶさ(MUSES-C)」プロジェクト全体に対して、時に熱く、時にプロマネとして感情を表に出さないように冷静に、でも温かく率いて、見守り、育ててきた。「はやぶさ」の旅路は危機の連続で、プロマネとしては冷静に判断し、チームを率いなければならなかった。それでも、心の奥底には温かく、そして「はやぶさ」の地球帰還を絶対に諦めない意志があった。それがこの本の文章から感じられ、川口先生は様々な想いでプロジェクトを率いてきたのだなぁ…とあらためて胸が熱くなりました。

 もうひとつ、あらためて感じたのが、「はやぶさ」の目標は、何があっても地球に帰還させること。それをチーム全体でずっと持ち続けていたのも、危機を乗り越えられたということ。「はやぶさ」がイトカワへのタッチダウン後、3つあるリアクションホイール(姿勢制御装置)のうち2個が故障、プラス燃料漏れで姿勢制御が出来なくなり、通信が取れなくなってしまった。「はやぶさ」との通信がない=「はやぶさ」がいない・失われたことを意味する。そのため、運用室でする仕事がなくなり、運用室にいる人もまばらになってしまった。それでも、目標の地球帰還を諦めたくない。火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」での失敗という大きな悔い。また失敗したら、若い世代に「日本のレベルじゃ無理なんだ」とネガティヴの思い込みが残り、高い目標に挑戦しようとしなくなる可能性がある。「はやぶさ」はイオンエンジンやスウィングバイ、サンプルリターンなどの技術実証の目的もあるが、宇宙工学・宇宙科学を今後引っ張っていく若い研究者を育てる場でもある。次の世代に、更なる挑戦をして欲しい。だから、絶対に諦めたくない。そのために、運用室のポットのお湯が常に沸いていつ誰が来てもお茶を飲めるように、川口先生自らお湯を交換。「運用は続いているんだよ」という想いをを込めて。会議を頻繁に開いてどうすべきかを検討。可能性のあることを役割分担して実行に移し、士気が低下しないようにした。そして、可能性のあることを全てやりつくしたら、後は運を天に任せる。神頼みも、できることは全部やったのかという自己点検の意味もあった。プロマネとして地球帰還の目標・チームの士気を保ち、どうしたらそれが出来るか具体的な行動に移す。仕事でも何でも、何かのリーダーになった時に学べる内容も多いです。

 また、初めて知った内容も。人工衛星や探査機は地上でも何度もテストして、過酷な宇宙空間での運用に耐えられるか実験しますが、地球上では完全な宇宙空間を作り出すことはできない。様々な状況を想定してテストしても、実際の宇宙空間では何が起こるかわからない。なので、「ここまでできれば大丈夫だろう」というある程度の試験の見極めが必要であること。また、実験には時間がかかるため、全部を実験し試行錯誤していたら打ち上げに間に合わなくなる。そこで、実験の代わりに計算をして、その計算結果で妥協することも。担当の技術者さんも”職人”だから、妥協のない、完璧な、満足できる機器・部品を作りたい。プロマネも同じ。でも、打ち上げに間に合わなかったら、プロジェクトもそこで終わってしまう…。辛いけれども、妥協も必要なことがあるのだと。宇宙機開発の現実の厳しさを実感しました。また、機体の軽量化のために、何か起こっても失った機能を補う「冗長系」というシステムを組み込むことができなかった。これも辛い厳しい現実。
 でも、今あるシステムで何とかできないか。これが、通信回復後の姿勢制御にイオンエンジンの燃料であるキセノンの生ガスを使ったり、太陽光圧を利用したり…創意工夫に繋がった。厳しい状況でも、創意工夫でなんとかする。これも、チームで絶対地球帰還が目標として持ち続けていたからだと感じます。

 イオンエンジン停止の危機も乗り越え、いよいよ帰還。研究室でひとり、ウーメラ砂漠でのネット生中継を観ていた川口先生の心境、想いは何度読んでも心が震えます。通信途絶しても、「はやぶさ」とずっと一緒だった。それが終わる瞬間。でも、終わってはいなかった。カプセルの回収、カプセルが日本に到着し、燃え尽きずにカプセルについていた2つのもの。そして、カプセル内の微粒子がイトカワのものだと判明した。これらを、「はやぶさ2」で運を実力に変えたい、「はやぶさ2」は「はやぶさ」で沢山の事を学んだ若い研究者たちに任せ、人材育成を続けていきたい。「はやぶさ」そのものは川口先生は過去のものと書いていますが、「はやぶさ」で得たものはずっと引き継がれてゆきます。

 「はやぶさ」帰還後、川口先生は全国のあちらこちらで講演会をし(私も行きました)、雑誌などへの寄稿、メディアの取材…とハードスケジュールをこなし、これまでの運用でお疲れのはずなのに大丈夫かなと思っていました。テレビや新聞などで、川口先生を目にする機会もグッと増えました。それには、理由がありました。「はやぶさ」帰還後、プロジェクトの総括をしなければいけないのに、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになっていた。運用室も誰もいない。モニターの電源も落とされ、静寂が漂っている。そんな日々が続いていた。そんな中で、川口先生はこう考えていたそうです。
 私にできることは、いったいなんだろう。何度考えても、結論はいつも同じです。「はやぶさ」が我々に残してくれたメッセージを、一人でも多くの人に伝えること。そのために、講演会や執筆、取材の依頼は可能な限り引き受け、「自分でいいのだろうか」と自問しながら、今日まで至っています。
(213ページより)

 この本も、そんな想いから書かれました。とても読みやすい文章で、「はやぶさ」の難しい技術の仕組みもわかりやすく解説されています。この本も、中学生ぐらいから読めると思います。是非読んでほしいと思っています。「はじめに」には、こう書かれています。
 「はやぶさ」のプロジェクトで目指したものは、もちろん技術実証もありますが、次代を担う人材を育成することです。宇宙や科学技術にはまだまだ夢があるんだと示すことで、若い方に希望を与えたい。子どもにもその親にも、宇宙開発や科学技術に少しでも関心をもってもらいたい。「はやぶさ」で詩劇を受けた子どもたちが、たとえその後、宇宙を目指さなくても、どんなジャンルでもいいので、新しい知的な挑戦を志すようになってくれれば。一技術者として、これほどうれしいことはありません。本書がそのきっかけになれば幸いです。
(11ページより)

 川口先生からの、「はやぶさ」からのメッセージを私も受け取りました。月並みな言葉ですが…、希望を、諦めない意志を持ち続けよう。そう思っています。

 最後に、私も伝えたいです。 本当にありがとう。「はやぶさ」。


 もしお近くで川口先生はじめ、「はやぶさ」プロジェクトチームやJAXAの講演・イベントがあったら、是非足を運んでみてください。


(しかし、長い記事になってしまった…。読みにくくてごめんなさいorz)
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by halca-kaukana057 | 2010-12-31 18:04 | 本・読書


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