経度への挑戦

 天文にも関わりのあるノンフィクションです。twitter経由で教えていただきました。



経度への挑戦
デーヴァ・ソベル/藤井留美:訳/角川書店・角川文庫/2010
(単行本は翔泳社・1997)


 地球儀や地図に欠かせない緯度・緯線と経度・経線。この2つの存在は古代より存在していた。緯度は北極星の等の仰角(上向きの角度)を測ることでわかる。赤道が基準の0度で、北と南に向かう。ところが、経度は絶対的な基準がない。現在はイギリスのグリニッジ天文台が0度だが、それまでは世界各地に移動していた。さらに、天文学を用いても、緯度よりも計測しにくい。太陽の南中時間を測定し、標準時の12時0分0秒から何分ずれているかを計算し、その差で何度離れているかがわかる(4分で1度、1時間で15度)。しかし、天候に左右されるし、また南中する時刻も正確に計らないと誤差が生じてしまうので、正確な時計が必要である。しかし、誤差の少ない正確な時計の開発は困難を極めた。

 大航海時代、船舶の航行のために経度を正確に測ることが求められたが、当時使われていたのは振り子時計。揺れる船の中では振り子時計は正確な時間を刻むことが出来ず、そのため経度を読み間違え、海難事故が相次いだ。事故は、多くの人命も失い、さらに船舶で運んできた貴重な食料や資源も失うこととなり、経済的に大打撃を受けることとなる。そのため、各国は正確な経度の測定方法を探した。多くの天文学者や数学者がこの問題に挑んだが、刻々と変わる天候に左右され、精度の高い天体観測技術もまだ確立していなかったため、誰も経度を測定する方法を見つけることは出来なかった。

 ところが、その経度の測定法に全く違う方向から挑戦し、大きな業績を挙げたのが、イギリス人時計職人のジョン・ハリソンだった。ハリソンは元々大工職人だったが、子どもの頃時計に興味を持ち、後に独学で物理学や機械工学など時計に関わる技術について学ぶ。後に自力で時計を作り、その精度が評判となった。
 1714年、イギリスは高精度に経度を測定できる方法を発見した者に賞金を贈る「経度法」を制定。自分の作った時計が経度の測定に使えるのではないかと考えたハリソンはロンドンへ赴き、「ハレー彗星」の発見者であり当時のグリニッジ天文台長だったエドモンド・ハレーにその考えを伝え、時計職人のジョージ・グラハムを紹介してもらい、経度を測るための時計…クロノメーターの製作にとりかかった。


 長い前置きになりましたが、そのジョン・ハリソンと、彼が作ったクロノメーターの数々、天文学者との対立などを描いたのがこの作品です。これまで、経度をどうやって測るのか、意識したことはなかった。緯度なら北極星の仰角を測ればいいとすぐに思いつくのですが、経度となると、すぐには思いつかなかった。時刻・時計も使う。天体だけを見ていてもわからない。この本で、時計は宇宙を小さな機械の中に閉じ込めたものだと表現してあったのですが、まさにそうだと感じました。地球は1時間に15度自転している。約365日で太陽の周りを1周…公転する。時間と角度、そして天体の動きには深い関係がある。天文学の知識はハリソンにはなかったが、それを見抜いて、しかもほぼ正確な時計・クロノメーターを作り、改良し続けたハリソンの情熱が伝わってきて、ワクワクしました。

 しかも、そのハリソンの作るクロノメーターの複雑な作りには驚くばかり。当時としては画期的なアイディアも取り入れられ、それまでの時計よりもずっと誤差の少ない時計を作ることが出来た。独学で時計に関する技術を学んだというのに。この本の中ごろには、ハリソンの肖像画と彼の作ったクロノメーター(H1,H2,H3,H4)の写真がカラーで掲載されているのですが、そのクロノメーターの変遷にも驚く。どんどん小型化、軽量化していっている。ハリソン自身、船長が船長室で懐中時計ぐらい小さなクロノメーターを見て、すぐに経度がわかることを目指していたのだそうだ。情熱も勿論、自己の作るものをよりよくしようという気持ちとそれを実現してしまう力にも惹かれました。

 一方で、何とか天文学を用いて経度を測定しようとした天文学者たち。特に5代目のグリニッジ天文台長となったネヴィル・マスケリンはハリソンを目の敵にし、ハリソンの作った精巧で複雑なクロノメーターを分解させてみたり、乱雑に扱ったりもした。マスケリンはマスケリンで、月の運好評や「航海暦と天文暦」という航海術には欠かせない暦を書き続けた。しかし、経度の測定では、ハリソンのクロノメーターはかなり高精度で、クロノメーター開発の先駆者となった。

 ハリソンのクロノメーターは、世界各地を航海し続けたジェームズ・クック船長による航海でも使われた。そしてハリソンのクロノメーターを基に、更に小型化、大量生産できるクロノメーターが作られてゆく。ハリソンは息子のウィリアムと共に、天文学者には理解されなかったが…その技術で、経度測定の方法を求めていた人たちに認められた。私自身天文学に興味は持っているが、天文学の知識だけ…天文学に限らず、何か一つの方法だけで物事を解決しよう・一つの方法だけにとらわれることで、見失うものが沢山あるのだと実感しました。

 物語となっているので、読みやすいです。2度読みましたが、1度目は経度について疑問を持ちながら読み、2度目はクロノメーターの進歩やハリソンを取り巻く人々にワクワクしながら読みました。読めば読むほど、面白いと思う本でした。

 現代は、人工衛星などで簡単に緯度経度がわかる時代。クロノメーターも腕時計にその機能がついたものも多く、精度も非常によくなった。その礎を築いたジョン・ハリソン。毎日している腕時計(私のは普通のアナログ時計)を見ると、その時計の中にある小さな宇宙と、ハリソンの偉業を想います。

・クロノメーターについて詳しく:wikipedia:クロノメーター
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by halca-kaukana057 | 2011-02-05 23:47 | 本・読書


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