小惑星探査機はやぶさ 「玉手箱」は開かれた

 年が明けても、小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」関連書籍の出版が相次いでいます。全国各地で行われているカプセル展示も大盛況。4月からの来年度も、きっと盛り上がることでしょう。ということで、「はやぶさ」関連書籍、川口淳一郎プロジェクトマネージャーによる2冊目です(昨年末に出版)。当初はこの本が1冊目になる予定だったようですが、延期になり「そうまでして君は」が1冊目に。

カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた
川口淳一郎/中央公論新社・中公新書/2010

 新書で、的川泰宣先生の単行本「はやぶさの奇跡」と新書「はやぶさ物語」のように、新書の方が読みやすいのかなと思ったら、川口先生の場合はこの新書の方が内容盛りだくさんになっていました。ただ、単行本「そうまでして君は」は川口先生の情感たっぷりの文章とは打って変わって、新書「玉手箱」では冷静な文章になっています。「はやぶさ」のプロジェクトや技術に関しても、「そうまでして君は」よりもかなり詳しくなっています。M-Vロケットの仕組みと特徴から、イオンエンジンについてもA~Dまで4機あるイオンエンジンのそれぞれの状態、どのような運転をしてきたかについてまで。更に、第3章ではスウィングバイについてとても詳しいことが書かれています。ご存知の通り、川口先生の専門は軌道工学。ハレー彗星の観測に向かった「さきがけ」、火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」でもスウィングバイが決めてとなった。特に「のぞみ」では、当初の軌道計画でパワードスウィングバイ(エンジンを点火しながらスウィングバイする)を実施。しかし、エンジンの片方の弁が故障し、予定の推力が出ず軌道から外れてしまった。取り戻すのに燃料を余分に使ってしまい、火星になんとしてでも到達するために…編み出したのがあの芸術的とも呼ばれる複雑な軌道。この軌道について、考案した川口先生自身の言葉が読めるのは興味深かった。そして、「さきがけ」「のぞみ」で為し得なかったことを「はやぶさ」でなんとしてでも成し遂げたい。その強い想いも。

 イトカワに到着し、観測、タッチダウンへの準備・リハーサル、そして本番。この部分に関しても、本当に詳しく書かれています。コンパクトな新書に収まっているのが不思議に思えます。全ページカラーなので、イトカワの画像もカラーできれいに。新書とは思えない盛りだくさんぶりです。タッチダウン、そして数々のトラブルが起きる。燃料バルブとスラスタの故障も、本当なら実際に中を開けて見てみたい。でも、宇宙を飛んでいる宇宙機ではそんなことは出来ない。そして通信途絶。目では見られない場所にあるからこそ、ありとあらゆる可能性を考え、計算して、列挙する。それがチームを結束させるきっかけにもなるし、予算も繋げる。その一方で、
「ここで終わったら何にもならない」
「往復飛行という技術実証をここで果たさないと、この先はない」
「『惑星探査はしょせん冒険でしかないね』と言われるだけで、次に続かない」
(128~129ページ)

という想いも抱えていたそう。振り返ってみて、運用中最も辛かった時期だと。「はやぶさ」は”技術実証機”。今後、小惑星などからサンプルリターンをする探査機の開発のために、必要な技術を実験する探査機。しかし、だからといって妥協しない。「さきがけ」「のぞみ」の悔いもある。「はやぶさ」が人々を惹きつける理由は、ここにもあるのだなと感じました。

 イオンエンジンのクロス運転も乗り越え、帰還へ。帰還の2010年6月13日も、ネットなどで見たところでは順調でしたが、実際はそうではありませんでした。帰還当日になって故障した箇所もあり、カプセル分離に影響を与える。1基だけ残っているリアクションホイールで姿勢を制御しながら、ウーメラ砂漠の当日の天候も考慮してカプセルをどのタイミングで切り離すかの指令も当日に送った。パラシュートをどのタイミングで開くかの信号も、判断は困難だった。そして、「はやぶさ」の最後のミッション・地球を見せてあげることも、容易ではなかった。当日も数々の困難があったにも関わらず、あの華々しい帰還。カプセルも予定落下位置とほぼ同じ場所に着陸しており、すぐに見つけられた。最後の最後まで、最終目標である帰還を諦めない想いがプロジェクトチームにあったのだと実感しました。

 帰還後、つまり、運用が終わってしまった運用室を見ての言葉が印象的です。
 運用室に詰めていたメンバーもいまや運用室に来ることはなく、別の仕事を与えられている。「はやぶさ」と同じことをしてほしいわけではないが、その技術が生きる仕事が続けられれば、技術の伝承は成し遂げられる。だが、現状は、似たような仕事も後継ミッションもただちに立ち上がっているわけではない。
 今なら技術を伝えられるのに、タイミングを逸してしまうと、伝える時間も手段もなくなって風化していく。真っ暗な運用室は、その象徴なのだ。
(171~172ページ)

 「はやぶさ2」も始動していますが、他にも「はやぶさ」で得られた技術を伝え、継承していける方法がある。例えば、大気圏再突入時のカプセルの技術は、大気圏で燃え尽きず機体の一部を地球に帰還させる「HTV-R」の技術に。「さきがけ」「のぞみ」から継承してきた軌道制御に関しても、惑星探査ミッションで継承していけると思います。今のところ、残念ながらミッションは何も立ち上がっていませんが…。

 相模原でのカプセル展示の感想に、ある人からのメッセージもありました。驚きました。内容も、これを読んだら嬉しいだろうなぁ。私も嬉しくなりました。

 この本、ちょっとおもしろい仕掛けがしてあって、左下に「はやぶさ」の打ち上げから帰還までの軌道図が全て書かれています。そう、パラパラ漫画になっているのです。書店で手に取って、この仕掛けを見た時、思わず「うまいなぁ!」と唸りそうになりました。
 そして、本文の後、最後のページの写真にも注目です。

 これまでの「はやぶさ」関連書を読んで、もっと詳しいことが知りたい時にオススメします。コンパクトなのに内容盛りだくさん。小さな機体に様々な機能を、そして可能性を載せて還って来た「はやぶさ」のようです。

 で、「はやぶさ」本、まだまだ増えてます…。

「はやぶさ」からの贈り物―全記録・小惑星イトカワの砂が明かす地球誕生の秘密

朝日新聞取材班 / 朝日新聞出版


 こちらは朝日新聞社による本。

「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言

川口淳一郎 / 飛鳥新社


 そして、川口先生も3冊目を!!”思考法”とタイトルにある通り、これまでの「はやぶさ」の旅路を振り返る本とは、ちょっと趣が違うようです。表紙もこれまでの「はやぶさ」本とは違う雰囲気。笑顔の川口先生です!

 3月には的川先生の3冊目、さらに、「恐るべき旅路」の松浦晋也さんも小学校高学年向けの本を出すそうです。松浦さんの本は楽しみです。

【過去記事】
はやぶさの大冒険
小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡/小惑星探査機 はやぶさ物語
はやぶさ、そうまでして君は 生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
 これまでの「はやぶさ」本感想です。

*****

 ちょうどよいので、先日のNHK「爆問学問」。太田さんのボケを笑いつつもさらりと流し、話す川口先生。ペースを保ち、流されない…凄いです。あと、ヒートシールドを前に、写真まで撮影してしまった田中さん。えええ!!カプセル展示では写真撮影は一切禁止されているのに!羨まし過ぎます…。
 「太陽系大航海時代」この言葉は何度聞いてもワクワクしますね。
NHK:>爆笑問題のニッポンの教養 | 過去放送記録 | FILE137:「はやぶさが教えてくれたこと」 | 川口淳一郎(かわぐちじゅんいちろう) | 2011年2月8日放送分
 ↑放送記録、川口先生・爆問の2人・ディレクターの感想など。あのヒートシールドの画像が!!
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by halca-kaukana057 | 2011-02-10 22:08 | 本・読書


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