絶対帰還。

 先日の若田さんISSコマンダー就任の記事にちょろっと出した本の感想です。



絶対帰還。 宇宙ステーションに取り残された3人、奇跡の救出作戦
クリストファー・ジョーンズ:著/河野純治:訳/光文社/2008

 2002年11月、スペースシャトル・エンデバー号(STS-113)は7人のクルーを乗せて打ち上げられた。そのうちの3人、ケネス(ケン)・バウアーソックス、ドナルド(ドン)・ペティット、ニコライ・ブダーリンは第6次長期滞在(エクスペディション6)のクルーで、これから4ヶ月間国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、科学実験などを行うことになっていた。4ヶ月後には、迎えのスペースシャトル(STS-114/野口聡一宇宙飛行士が搭乗)に乗って、エクスペディション7のクルーと交代するはずだった。
 しかし、長期滞在中の2003年1月に打ち上げられたコロンビア号(STS-107)が、大気圏再突入の際に空中分解。「コロンビア号事故」…7人の宇宙飛行士の命が奪われた。事故の原因解明のため、スペースシャトルの飛行は凍結。ISSにいるバウアーソックス、ペティット、ブダーリンの3人は、当初の予定よりも長くISSに滞在することになってしまった。いつ帰れるかはわからない。
 ISSに取り残された3人の宇宙飛行士。地球で待つ家族たち。帰還させようと懸命に方法を考える地上スタッフ。彼らに直接取材して、エクスペディション6のクルーが帰還するまでを追ったノンフィクションです。


 この本を読み始めたのは、コロンビア事故から8年が経った後。毎年、コロンビア事故が起こった日…日本時間だと2月1日の夜は、事故のことを想います。その日の夜、テレビは付けていなかったので、事故を知ったのは翌朝2月2日のことでした。朝起きて、テレビを付けると青空に火球のような閃光がバラバラと流れ落ちる様を観て、それがコロンビアの最期だと知って…驚きの声しか出ませんでした。静まり返った管制室。そして、その後見つかった焼け焦げたクルーのヘルメットが地上に落ちている映像も、今も頭に焼き付いています。スペースシャトルがあってこそのISS建設だったので、これからISSは(日本の「きぼう」実験棟建設も含む)、そして宇宙開発・有人宇宙飛行そのものはどうなってしまうのだろうと、考えても考えても答えが出ない日々を送っていました。コロンビア事故は2月1日。1967年1月27日のアポロ1号事故、1986年1月28日のチャレンジャー号爆発事故と合わせて、このあたりは毎年かなしみと共に宇宙飛行を想います。

 そのコロンビア事故の一方で、ISSにはエクスペディション6の3人のクルーがいた。事故のコロンビア号は、ISS建設がメインだったシャトルミッションには珍しく、ISSには向かわないシャトル単独での科学実験ミッションだった。なので、コロンビアはISSには直接関係していなかったが、関係はあった。事故でシャトル飛行そのものが凍結してしまい、次にシャトルが飛ぶのはいつになるのかわからない。また、飛行が再開しても、当初予定されていたミッションのままになるかどうかもわからない。そして、エクスペディション6のクルーの帰還と、次のエクスペディション7の打ち上げをどうするか。エクスペディション6を帰還させ、ISSを無人にしてしまうと、後に復旧するのが大変になる。ISSは建設中とはいえ、科学実験も行っており、ISSを無人にしては予定されている実験もできない(ただ、シャトルでないと運べない実験器具はどうしようもないが…)。当時、すっかりコロンビア事故と、事故の原因究明、今後シャトル計画はどうなるのか、いつ飛行再開するのかを気にしてしまい、ISSの維持のことは頭からすっかり飛んでいってしまっていました。なので、この本で「あの事故の影でこんなことがあったのか」と初めて知る内容が多くありました。

 また、この本ではSTS-113、エクスペディション6、STS-107までに至る有人宇宙飛行の歴史も随所に書かれ、振り返ることができるようになっています。過去の有人宇宙飛行の歴史の部分が時系列順ではなくいきなり出てきたり、かなり長い箇所もあり、ちょっと混乱するところもありますが、数々の有人宇宙飛行計画・ミッションを経て、シャトルとISSに至るのだなと実感します。しかし、その歴史も、アメリカ・ロシア(旧ソ連)同様平坦ではなかった。大小の事故はもちろんのこと、アメリカのスカイラブ計画では、宇宙のクルーと管制との意思疎通がうまくいかず、宇宙のクルーがストライキを起こすという事態まであった。冷戦下、アメリカはスペースシャトル、旧ソ連は宇宙ステーション「ミール」でそれぞれの道を歩むが、両国の宇宙飛行士をそれぞれの宇宙船に招待することが続けられた。その中で、ミールは故障に見舞われ、補給船「プログレス」の衝突、火災…。そんな状況でも冷静に対処するロシア人飛行士は、今も昔も変わらないのだなと思う。もちろん個人によって違いはある。旧ソ連のミッションでも、長期滞在の途中で精神が破綻しかけ緊急帰還した例があった。それでも、ロシア人飛行士はやはり心身ともに頑強というイメージがある。
 現在、ISSでは日本、カナダ、ヨーロッパ諸国、ブラジルなどが参加。多国籍で、居住環境も衣食も快適になりましたが、現在に至るまでには大変な歴史が積み重ねられているのだなと感じました。

 ISSに取り残されてしまったバウアーソックス、ペティット、ブダーリンの3人。コロンビアのクルーとも交信し、また訓練中に親交のあった飛行士もいて、3人のかなしみは深かった。そして、いつ帰れるかわからないと言う不安も。それでも、ISSでの生活・ミッションは続く。コマンダーとしてペティットとブダーリンをまとめ、無重量状態で骨や筋力が衰えないようにトレーニングを欠かさなかったアメリカ人飛行士・バウアーソックス。3人の中で唯一の民間出身(あとの2人は軍出身)の技術者で、ユニークな発想に基づく研究が一目置かれていたアメリカ人飛行士・ペティット。彼は宇宙でもそのユニークな発想と、器用な手先で壊れていた装置を直したり、様々な工夫をした。ベテラン宇宙飛行士で緊急事態でもどうしたらいいかを心得ており、宇宙で快適に暮すために様々な工夫も知っていたロシア人飛行士・ブダーリン。彼らは長引く宇宙生活を楽しみつつも、やはり寂しさも感じていた。その一方で、地上の家族のことも描かれる。やはり、宇宙飛行士にも帰る場所があるのだと感じる。

 そして、ソユーズ宇宙船で帰ることが決定。しかし、しばらく運転させずISSに係留させたままだったソユーズ宇宙船がうまく動くか。そして、帰還途中でもトラブルが…。最後までドキドキします。

 大気圏外・地上から約400km上空の宇宙空間での暮らしは、確実に身近になってきている。地上の暮らしの延長線上に、宇宙での暮らしがあり、その延長線がだんだん短くなってきている、短くなればいいとこのブログで何度も述べてきた。ところが、宇宙へ行くためには、この重力を振り切って飛ぶロケット・宇宙船がなければならない。帰還するための宇宙船も。もし、そのロケット・宇宙船が失われてしまったら、延長線は、地上と宇宙を繋ぐ糸は途切れてしまう。身近であり続ける、もっと身近になるためには、安全に、安定して打ち上げ・帰還できるロケット・宇宙船が必要なんだと感じました。そして、長期滞在も簡単ではないということ。これまで、若田さんや野口さんは比較的楽に長期滞在をこなしてきたように見える。他の宇宙飛行士も。しかし、私たちには語られていないこともあるのかもしれない。いつか、引退した後でも、一般に向けて語られたらいいなと思う。地上での暮らしと宇宙での暮らしを、もっと近づけるために。

 長い作品ですが、読み応えがありました。


【過去関連記事】
オンリーワン ずっと宇宙に行きたかった
 野口さんの、STS-114での初飛行後に書かれたエッセイ。昨年のISS長期滞在中に文庫化され、読みました。コロンビア事故がなければ、コロンビアが帰還後に打ち上げ、エクスペディション6のクルーを乗せて帰ってくる予定でした。コロンビア事故で、野口さんも大きな影響を受けました。合わせてどうぞ。

野口さん帰還と、地上の生活につながる「きぼう」の実験
 野口さんの、長期滞在からの帰還について。ソユーズ宇宙船での帰還についても書きました。
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by halca-kaukana057 | 2011-02-24 22:37 | 本・読書


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