宇宙飛行士の育て方

 発売を知って以来、ずっと読みたかった、気になっていた本です。


宇宙飛行士の育て方
林 公代/日本経済新聞出版社/2010

 日本人宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在も行われ、また今後の予定も次々と決まり、日本人飛行士の活躍する場・機会がどんどん増えている。これまで、8人の宇宙飛行士が宇宙を飛び数々のミッションをこなしてきた。そして、2009年に3人の宇宙飛行士候補者が選抜され、現在も訓練を続けている。そんな「宇宙飛行士」に対して、私たち一般人は「スーパーマン」のような特別な人なのかなというイメージを持っている。厳しい選抜試験を経て、さらに厳しい数々の訓練を経て、宇宙飛行士”候補者”から「宇宙飛行士」となり、フライトを待つ。そしてフライトが決まり、フライトに向けての訓練を積み、宇宙へ旅立つ…。宇宙という過酷な環境で暮らし、科学実験をする。ISSという閉鎖環境で、言語も文化も異なる世界の宇宙飛行士たちと寝食、仕事をともにする。さらに、宇宙や科学に関する広報・教育活動も行うし、ツイッターでISSでの暮らしや地球の画像も公開するなど、活動は多岐にわたる。無重量空間に長期間置かれることで骨や筋肉が弱ることを防ぐために、運動も欠かさない。こうやって宇宙飛行士の仕事・ミッション内容を書いてみると、やはり「スーパーマン」のようなイメージがある。でも、実際はどうなのだろう?宇宙飛行士はどんな選抜試験を受けて、どんな訓練を積んでいるのだろう?そして、宇宙・ISSではどのようなことを大切にして、ミッションをこなしているのだろうか?それらに迫ったのがこの本です。

 まず、選抜試験について。このあたりは、NHKスペシャルでも取材され、新書にもなったのでそれと被る部分もありますが、将来どんな宇宙飛行士になってほしくて、そのためにどんな資質が求められるのか。まずそれを決めるのが大変だったのだそう。一番最近の2009年の選抜では、「ISSのコマンダー(船長・司令官)になることを目標」として、その観点から選抜が行われた。集団をまとめるリーダーシップ、リーダーを補佐するフォロワーシップ。何かにずば抜けていればいいというわけでもなく、バランスの取れた人の方がいい。また、失敗してもどう立ち直るか、どう失敗を乗り越えるかを見る。宇宙飛行士候補者選抜試験に応募、ファイナリストとなる人は何かのスペシャリスト(パイロットだったり、医師だったり、エンジニアだったり…)だが、専門外のことも宇宙飛行士になったらしなくてはならない。そんな場面ではどう対処するか。これまでの選抜試験に関することについて、さらに興味深く読めました。

 晴れて合格、宇宙飛行士候補者となり、訓練が始まる。その訓練内容は、実際に宇宙に行って仕事する時よりも厳しい内容なのだという。不測の事態が起こっても対処できるように。また、日本人にとっては語学の壁がある。選抜時から英語の堪能な若田光一さんでも、NASAでの訓練の会話は一般の英会話とは全く別物で、聞き取り内容を理解し、返事を返せるようになるまでかなりの時間がかかったそうだ。若田さんも野口聡一さんも、宇宙飛行士の訓練の中心となるジェット機・T-38練習機での会話を録音し、何度も聞いていたとのこと。

 そんな訓練を積み重ねていても、いつフライトできるかわからない。これまで、チャレンジャー号・コロンビア号事故による長期のシャトル飛行見合わせ、大きな事故でなくてもシャトルは延期することがよくあるので、待たされることも多い。「宇宙への情熱を持ち続けながら待つ」ことも宇宙飛行士に求められる資質のひとつ。さらに、過酷な環境、緊張の続くミッションだからこそ、ユーモアで場を和ませ安心・安定した状態でミッションに臨めるようにすることも大事。情熱を持ち信じて「待つ」こと、緊張した場でこそ余裕を持ってユーモアを楽しみつつ、リラックスして仕事に臨むこと…。これは、宇宙だけでなく、地上での様々な仕事や人間関係でも大切なことだと思います。震災でピリピリした空気が漂っている”今”にも。この他にも、メンタル面での強さは宇宙飛行士にとって必須。ポジティヴで悩みを引きずらない。疲れたり忙しかったりしても、イライラせずに精神状態を安定に保ち続けることができる。クルーへ配慮した会話ができる。何かトラブルが起こっても、諦めない。あらゆる可能性を考える。このあたりも、私たちの日常でも大事だなと思うところです。

 この本を読んで「宇宙飛行士になるのはやっぱりとても難しいな、私には出来ないな…」と思いつつも、宇宙開発からうまれた技術を地上での生活に活かす「スピンオフ」のようなことが、宇宙飛行士の訓練・育成面でもあるのではと感じました。「宇宙飛行士」は日本ではまだまだ特殊な職業。でも、ひとつの「職業」であることに変わりはない。地上での「職業」と、どこか繋がっている所がある。以前からこのブログに書いているとおり、地上の生活の延長線上に宇宙での生活があるのと同じように、地上の職業の延長線上に、宇宙飛行士の仕事があるのかなと感じました。
 また、宇宙飛行士は最初から宇宙飛行士に向いている資質を全て持っているわけではない。訓練を受け、自分から学びながら、育ってゆく。人間は成長する生き物なんだと実感する部分でもありました。

 先日、若田さんが日本人初のISSコマンダーに就任しましたが、今後、日本人飛行士の活躍の機会がさらに増え、その仕事や訓練のこと、ミッション中のことを語ってくれたらなと思います。

【過去関連記事】
宇宙を目指す今とこれから
ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
 NHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた ~密着・最終選抜試験~」に関する記事。本当によくテレビ取材が出来たと思う。
国際宇宙ステーションとはなにか
 若田さんの著書。若田さんの訓練については、この本もどうぞ。
祝・日本人初ISSコマンダー!
 その若田さんがISSコマンダーに決定した時の記事。この「宇宙飛行士の育て方」では、これまで若田さんが出会い、ともに仕事をした様々なコマンダーが出てきます。若田さんがどんなコマンダーになるのか、楽しみです。
絶対帰還。
 コロンビア事故後、ISSに取り残された宇宙飛行士たちのドキュメント。こちらも訓練内容や、これまでの有人宇宙飛行の歴史などが詳しく書かれているのでオススメです。
宇宙兄弟
 ご存知宇宙飛行士漫画。現在ムッタが訓練を受けているところ。参考にどうぞ。ちなみに、明日13巻が発売です(私の地域は遅れて発売のようです。気になりますが、気長に待ちます。)。
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by halca-kaukana057 | 2011-03-22 23:08 | 本・読書


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