ピスタチオ

 少し間が開きましたが、新しく出た梨木香歩作品を読んでいます。本当は3月、震災のあたりに読んでいたのですが、混乱した状況の中で落ち着いて読めず、ようやくゆっくりと読むことができました。


ピスタチオ
梨木香歩/筑摩書房/2010

 翠は、「棚」というペンネームでフリーのライターをしている。以前は出版社に勤めていたが、ストレスを感じ退職。その後数ヶ月間アフリカに滞在。父の死をきっかけに日本に帰国し、そのままフリーのライターをするようになった。家ではマースという名前の雌犬と暮らしている。そのマースの体調がおかしいのが続き、棚は行きつけの動物病院へ行く。検査の間、時間がかかるので近くの古本屋で時間を潰す。そこで、棚は片山海里という社会学者による、アフリカの民話の本を見つける。棚は、アフリカで友人の三原を通じて、片山に会ったことがあった。棚はその本を買い、病院に戻るとマースの子宮に腫瘍ができて、膀胱と腸を圧迫していることを告げられる。その手術のために、大学病院を紹介され、手術を受けるマース。その間、棚は旅雑誌の企画でアフリカのウガンダに行かないかと頼まれる。そして、片山によるアフリカの民話の本を読み、アフリカに伝わる呪医・精霊信仰の記録に興味を持つ。さらに、片山が死んだことも知り、片山がアフリカで何をしようとしていたのか、棚はアフリカへ行く決意をする…。


 あらすじを書くのに困りました。物語が本格的に始まるのは棚がアフリカへ行ってからですが、その前のマースの病気のこと、棚の気象・気候への思考と天候の変化が棚にもたらすある変化、片山のアフリカの本のこと、その本に書いてある呪医・精霊信仰のこと、片山が死んでいたこと、アフリカでの友人である三原がHIVキャリアーであること…。それらが少しずつ、断片的に出てきて、物語を徐々に形作り始める。そして、棚がアフリカに行って、また新しい断片が出てきて、大きな物語が作り上げられようとしている。最初はどんな物語なのかつかみにくいけれども、それが何なのか、どこに向かうのか、棚と一緒に旅に出るような感覚を覚える不思議な、静かに物語の世界に浸ってゆく作品でした。

 私たちは生きてゆく上で、大きいものでも小さいものでも、ひとつでもたくさんでも、一時期だけでも人生全体にわたってでも、何かを抱えて生きるのだと思う。この物語の中なら、マースの腫瘍、三原のHIV、アフリカで棚が出会った女性・ナカトの”探しているもの”、片山がアフリカで呪医たちから学ぼうとしていたこと。そして、棚がアフリカに導かれるようにやってきたこと…。そしてその抱えているものは、自分だけに関係しているのではない。他者や、時に目に見えないものと関わりながら、共有したり、導かれたり導いたり、誰かに手渡したりして、人と人は繋がってゆくのだと思う。

 以前、小川洋子さんと故・河合隼雄先生の対談をまとめた「生きるとは、自分の物語をつくること」で、困難な現実を生きる時に「物語」が必要だと書かれていた。この「ピスタチオ」でも、棚はライターの仕事を通して、誰か・クライアントの求める文章を書いている。この仕事を続ける中で、書いたことは無いが創作もしてはみたいと思っていた。そして、片山がアフリカで呪医として患者を引き受けた際、「死者には物語が必要だ」とよく言っていた。生と死の物語。つまり、いのちそのものの物語が、この作品なのだと思いました。生きている、死んでいるに関わらず、いのちは物語を持って、繋がっている。
 思えば、梨木香歩さんは、河合先生の下でアルバイトをしていました。その時書いたのが、「西の魔女が死んだ」。それを出版社に持って行き、世に送り出したのが河合先生。不思議なつながりを感じます。

 日本の気候と、アフリカの自然・緑、空気とともに、静かに、でも強く流れる物語でした。よくわからない感想になってしまったと自分でも思いますが、物語の世界そのものを味わう作品だと思います。読んだ時で印象も変わる作品だとも感じます。ちょうど震災の時に読んで、今また再読して…、震災で亡くなった方々を思いました。

生きるとは、自分の物語をつくること
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by halca-kaukana057 | 2011-06-29 21:26 | 本・読書


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