2011年 07月 06日
無念… 電波天文衛星「ASTRO-G」開発中止
先日、赤外線天文衛星「あかり」の観測終了の記事で、天文衛星つながりで開発中の電波天文衛星「ASTRO-G」のことを少し書きました。
・ありがとう、「あかり」。がんばれ、「あかつき」
その、「ASTRO-G」プロジェクトを続行するかどうかの判断を今年中に出すという話があったのですが、出ました。
◇読売新聞:電波天文衛星の開発中止へ…アンテナ精度不足で
◇47News:電波天文衛星の開発中止 宇宙機構、目標の精度出ず
◇日本経済新聞:JAXA、電波天文衛星の開発中止
開発中止です…。
「ASTRO-G」の一番重要な部分、大型展開アンテナの開発が難航していました。一方で、アンテナの開発に目処が立ったとも聞いていました。しかし、直径9mの大型の、しかも天体観測用の高精度アンテナの開発は難しかったようです。2012年打ち上げを予定しており、来年に間に合いそうもない。改良のための予算も時間もない。開発中止になりました。
「ASTRO-G」は、電波天文衛星「はるか(MUSES-B)」の後継機。「はるか」は「MUSES-A」の「ひてん」、「MUSES-C」の「はやぶさ」と同じくMUSESシリーズの衛星。つまり、技術実証のための衛星シリーズです。「ひてん」はスウィングバイ技術の取得・実証をし、後の火星探査機「のぞみ」や小惑星探査機「はやぶさ」に活かされています。「はやぶさ」が実証したイオンエンジンや小惑星サンプルリターンの技術は「はやぶさ2」に。パワースウィングバイも、今後様々な探査機・宇宙機に活かされると思います。
では、「はるか」が実証した、地上の電波望遠鏡と軌道上の電波天文衛星が共同となって観測するスペースVLBI(VSOP)の技術は…?「ASTRO-G」の開発中止で、途切れてしまうことになる…と言い切っていいのだろうか…。
これまで、機体の開発に携わってきた技術者の方々、電波天文学の研究者の方々をはじめとする「ASTRO-G」プロジェクトチームにとっては、非常に残念な結果になってしまいました。応援してきたひとりとして、私も非常に残念です。
衛星の機器をなかなか開発できずに、計画中止になったプロジェクトといえば、月探査機「LUNAR-A(ルナーA)」を思い出します。月面に「ペネトレータ」という槍状の観測装置を月面に投下、突き刺します。その「ペネトレータ」で月の内部構造を観測するのが目玉ミッションだったのですが、ペネトレータの開発が難航。その間に、既に出来上がっていた探査機母船が劣化してしまいました。そして計画は中止。その後、月探査は「かぐや(SELENE)」が担いました。衛星が出来上がっていざ打ち上げても、ロケットが打ち上げ失敗して、軌道に到達できないこともある。軌道にうまく載ったとしても、機材がうまく動かず予定の観測・ミッションができないこともある。宇宙機を取り巻く状況は非常にシビアです。また、限られた予算で、どんなミッションを立ち上げ、いつまでに開発し、いつ打ち上げるのか。その判断も、プロジェクトが立ち上がったら何でもOKというわけにはいかないのが現実。着々と準備を進めている他のミッションとの兼ね合いもある。「ASTRO-G」もそのシビアな現実に阻まれてしまった。アンテナの開発と、今年は震災の影響もあってどうなるかな、厳しいかな…と心配していたのですが、厳しい予想が現実のものとなってしまいました。
「ASTRO-G」は開発中止になりましたが、スペースVLBIは今後どうなるのだろう?電波天文観測に関しては、現在建設中、アンテナの試験もしている「ALMA望遠鏡」が主力になります。でも、上記の通り「はるか」で作ったスペースVLBIは?
文部科学省宇宙開発委員会での報告と、JAXA・ISASによる公式発表がまだなので、それを待ちたいと思います。もっと詳しい内容が出てくると思います。今日は、メディア報道を受けて、自分の所感を書きました。宇宙開発委員会での報告書と公式発表を読む時は、頭の中を整理して、冷静に向き合いたいと思います。
それにしても、残念です…。厳しい状況だろうなと、覚悟のようなものはしていたのですが…。
【「ASTRO-G」関連リンク】
◇JAXA:電波天文衛星「ASTRO-G」
◇ISAS(宇宙科学研究所):電波天文衛星「ASTRO-G」
◇VSOP-2 プロジェクトサイト
これらのサイトも、そのうち無くなってしまうのだな…。
最後に、「はるか」について書いた記事はこちら。
・電波天文観測衛星「はるか」に想う
今読み返してみると、色々訂正すべき箇所があります…(汗
・こことは違う世界に出会う時 読んだ本2冊
「はるか」プロジェクトマネージャー・平林久先生の本「星と生き物たちの宇宙―電波天文学/宇宙生物学の世界」(集英社新書)。この本にも、「はるか」のことが詳しく、しかも平易に書かれています。平林先生の、ユーモア溢れる文章が大好きです。
・ありがとう、「あかり」。がんばれ、「あかつき」
その、「ASTRO-G」プロジェクトを続行するかどうかの判断を今年中に出すという話があったのですが、出ました。
◇読売新聞:電波天文衛星の開発中止へ…アンテナ精度不足で
◇47News:電波天文衛星の開発中止 宇宙機構、目標の精度出ず
◇日本経済新聞:JAXA、電波天文衛星の開発中止
開発中止です…。
「ASTRO-G」の一番重要な部分、大型展開アンテナの開発が難航していました。一方で、アンテナの開発に目処が立ったとも聞いていました。しかし、直径9mの大型の、しかも天体観測用の高精度アンテナの開発は難しかったようです。2012年打ち上げを予定しており、来年に間に合いそうもない。改良のための予算も時間もない。開発中止になりました。
「ASTRO-G」は、電波天文衛星「はるか(MUSES-B)」の後継機。「はるか」は「MUSES-A」の「ひてん」、「MUSES-C」の「はやぶさ」と同じくMUSESシリーズの衛星。つまり、技術実証のための衛星シリーズです。「ひてん」はスウィングバイ技術の取得・実証をし、後の火星探査機「のぞみ」や小惑星探査機「はやぶさ」に活かされています。「はやぶさ」が実証したイオンエンジンや小惑星サンプルリターンの技術は「はやぶさ2」に。パワースウィングバイも、今後様々な探査機・宇宙機に活かされると思います。
では、「はるか」が実証した、地上の電波望遠鏡と軌道上の電波天文衛星が共同となって観測するスペースVLBI(VSOP)の技術は…?「ASTRO-G」の開発中止で、途切れてしまうことになる…と言い切っていいのだろうか…。
これまで、機体の開発に携わってきた技術者の方々、電波天文学の研究者の方々をはじめとする「ASTRO-G」プロジェクトチームにとっては、非常に残念な結果になってしまいました。応援してきたひとりとして、私も非常に残念です。
衛星の機器をなかなか開発できずに、計画中止になったプロジェクトといえば、月探査機「LUNAR-A(ルナーA)」を思い出します。月面に「ペネトレータ」という槍状の観測装置を月面に投下、突き刺します。その「ペネトレータ」で月の内部構造を観測するのが目玉ミッションだったのですが、ペネトレータの開発が難航。その間に、既に出来上がっていた探査機母船が劣化してしまいました。そして計画は中止。その後、月探査は「かぐや(SELENE)」が担いました。衛星が出来上がっていざ打ち上げても、ロケットが打ち上げ失敗して、軌道に到達できないこともある。軌道にうまく載ったとしても、機材がうまく動かず予定の観測・ミッションができないこともある。宇宙機を取り巻く状況は非常にシビアです。また、限られた予算で、どんなミッションを立ち上げ、いつまでに開発し、いつ打ち上げるのか。その判断も、プロジェクトが立ち上がったら何でもOKというわけにはいかないのが現実。着々と準備を進めている他のミッションとの兼ね合いもある。「ASTRO-G」もそのシビアな現実に阻まれてしまった。アンテナの開発と、今年は震災の影響もあってどうなるかな、厳しいかな…と心配していたのですが、厳しい予想が現実のものとなってしまいました。
「ASTRO-G」は開発中止になりましたが、スペースVLBIは今後どうなるのだろう?電波天文観測に関しては、現在建設中、アンテナの試験もしている「ALMA望遠鏡」が主力になります。でも、上記の通り「はるか」で作ったスペースVLBIは?
文部科学省宇宙開発委員会での報告と、JAXA・ISASによる公式発表がまだなので、それを待ちたいと思います。もっと詳しい内容が出てくると思います。今日は、メディア報道を受けて、自分の所感を書きました。宇宙開発委員会での報告書と公式発表を読む時は、頭の中を整理して、冷静に向き合いたいと思います。
それにしても、残念です…。厳しい状況だろうなと、覚悟のようなものはしていたのですが…。
【「ASTRO-G」関連リンク】
◇JAXA:電波天文衛星「ASTRO-G」
◇ISAS(宇宙科学研究所):電波天文衛星「ASTRO-G」
◇VSOP-2 プロジェクトサイト
これらのサイトも、そのうち無くなってしまうのだな…。
最後に、「はるか」について書いた記事はこちら。
・電波天文観測衛星「はるか」に想う
今読み返してみると、色々訂正すべき箇所があります…(汗
・こことは違う世界に出会う時 読んだ本2冊
「はるか」プロジェクトマネージャー・平林久先生の本「星と生き物たちの宇宙―電波天文学/宇宙生物学の世界」(集英社新書)。この本にも、「はるか」のことが詳しく、しかも平易に書かれています。平林先生の、ユーモア溢れる文章が大好きです。
by halca-kaukana057
| 2011-07-06 22:55
| 宇宙・天文