弦と響

 ネットで偶然見つけて、気になったので読んだ。


弦と響(ひびき)
小池昌代/光文社/2011

 鹿間四重奏団は、ラストコンサートを迎える。30年続いてきたカルテットの最後の日。カルテットのメンバーやマネージャー、ホールのスタッフ、メンバーの家族や元恋人、何気なくチケットを買った者は、それぞれの思いを抱いてコンサートへ向かう。

 鹿間四重奏団のラストコンサートを柱に、それぞれの視点から語られるオムニバス作品。カルテットのメンバーは勿論だが、スタッフや家族(チェロの妻)、記者など、様々な人が登場する。最初は、それぞれが一人称で語るのだが、途中、作者のことを言及したり、本人が語らないので作者が語る…という不思議な、これまで読んだことがない文体も登場して面白い。

 鹿間四重奏団は、ファーストヴァイオリンの鹿間を中心に結成。途中メンバーが替わったが、今のメンバーで15年続いてきた。音楽と女をこよなく愛する情熱家の鹿間、物静かでハンサムなセカンドヴァイオリン・文字、世界的に有名で性格は男っぽくさっぱりしている紅一点のヴィオラ・片山、そして鹿間とともにカルテットの創設時からのメンバーで、引退すると言ったことでカルテットの解散に繋がったチェロ・伊井山。もちろん、これらは簡潔で、表面的な人物像で、それぞれの章で深く語られます。

 私はオーケストラや器楽ソロも好きですが、室内楽も大好きです。それぞれの楽器の響きと、アンサンブルとしての響きを、身近に感じられる規模で、じっくりと聴けるから。コンサートも、室内楽は小さめのホールで開かれる。大きなホールで、大きなオーケストラの壮大な響きを堪能するのもいいですが、室内楽は演奏者と聴衆の距離が近い気がして、その響きに優しく包まれ、演奏者の息づかいや奏でることへの想いを伺えるのもいいなと思います。

 音楽そのもの、演奏そのものの魅力も語られますが、カルテットであることの魅力も多く語られます。アンサンブルとは、息を、心を合わせること。それが演奏に繋がる。異なる4人がひとつになる。その一体感が、楽曲になって、音色になって響き、聴衆に届き、ホール全体にも届く。コンサートの後のホールの余韻は私も大好きで、わざとゆっくりとホールから出ることもあります。演奏は終わったけど、そこに残っているかのような音楽の余韻。聴いた人々の雰囲気、話す言葉、表情。それら全てが、「音楽」を形作っている。そしてそれらは、「今この時」しか味わえない。何度も書いてきた言葉ですが、音楽は、二度と同じ演奏をすることは出来ない。たとえCDや映像で記録されても、その場の雰囲気や余韻を完全に記録することは出来ない。その場でその時だけ味わえるからこそ、演奏者も聴衆も集中して聴き、演奏会全体の雰囲気も楽しむ。演奏が終わって、その演奏は2度と聴けなくても、心の中に何かが残る。この私が思うコンサート・演奏会、生演奏の魅力が作品中で語られていて、わかるわかる!と思いながら読みました。

 鹿間四重奏団は、日本でも有数のカルテット…として描かれています。そういえば、以前は、こう書くと失礼ですが有名無名・プロアマを問わず様々な音楽家の演奏会に行っていた。曲目も、知っているものも好きなものも、知らないものも関係なく。しかし、今年に入ってから、様々な理由から行くコンサートを絞っていた。出来るだけ好きな演奏家のコンサートに行きたい、好きな作品・作曲家の作品が演奏されるコンサートに行きたい、と。特定の誰かの演奏を聴くのも楽しいけど、音楽そのものを楽しみたくて様々なコンサートに足を運んでみる時のワクワク感を思い出しました。余裕があれば、また貪欲にコンサートに足を運んでみようかな。

 ラストコンサートの曲目は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第8番ホ短調op.59,第11番へ短調op.95,第14番嬰ハ短調op.131.8番と11番は聴いたことが無かった。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲も、まだまだ聴いたことが無いものが多い。聴いてみよう。

 そのラストコンサートは、それまで各章で単独で出てきた人々が一斉に出てくるのですが、メンバーだけでなく、スタッフも聴衆も全員で奏で、想いが響いている…この作品そのものが音楽として響いているような感じを受けました。コンサート後の余韻も含めて。

 ちなみに、作者の小池さんはクラシック音楽が好きで、ヴィオラを演奏するそう。「音楽」がますます好きになる作品でした。

 最後に…アンサンブルをやってみたいなぁ。人と合わせられるような腕前じゃないけど、連弾でもいいからやってみたい。出来れば、弦楽器や、管楽器など鍵盤楽器ではない楽器と。静かな憧れであり、いつかの希望・目標です。
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by halca-kaukana057 | 2011-08-09 22:42 | 本・読書


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