ペンキや

 秋になって、心が静寂に向かうような本が読みたいと思うようになりました。ワクワクする本、面白くてどんどん読んでしまう本もいいけど、心も頭の中も鎮まり、落ち着く本が読みたい。図書館をうろうろしていたら、梨木香歩さんの絵本を発見。これまで、梨木香歩さんの著書は小説やエッセイは読んできましたが、絵本は読んだことが無かった。梨木さんの作品は、心が静寂へ向かうような、落ち着く文体・内容のものが多い。では、読んでみよう。

ペンキや
梨木香歩:作/出久根 育:絵/理論社/2002

 塗装店でペンキや見習いとして働くしんや。お客さんの依頼を聞いて、色を作り、ペンキを塗る。簡単そうで、結構難しい。色の名前を聞いてその色を作って塗っても、仕事を頼んだお客さんがイメージしていた色と微妙に異なることが多い。そんな繊細な仕事に就いたのは、同じくペンキやだった父の影響もあるかもしれない。しんやの父は、しんやの母のお腹の中にしんやがいることを知らないまま仕事でフランスへ行き、フランスでしんや会わないまま死んでしまった。しんやは、ペンキ塗りの仕事で悩むうちに父の墓を訪ねたいと思い、フランスへ向かった。その船の中で、しんやは様々な色、そして不思議な女の人と出会う。


 絵本=こども(幼児~小学校低学年)むけ=平易な物語と絵による本、というイメージを”絵本”に持っていたら、この本は異色に感じるでしょう。実際、かつてこどもたちに読み聞かせをしていた立場から言うと、”読み聞かせには向かない本”です。でも、文字ばっかりの本はハードルが高いけど、いわゆる”一般的な絵本”とは違う絵本を読みたい子にはおすすめしたい本です。読み聞かせではなく、自分ひとりでじっくり読んでほしい。物語そのものもですが、絵もじっくりと味わってほしい。梨木さんが通常の本ではなく、絵本としてこの作品を書いたことの意味が、絵にあると感じました。違う言い方をするなら…絵本という、芸術を味わうのがこの作品なのかな。

 序盤、しんやはお客の依頼・イメージどおりの色を作れず、苦しみます。その時の親方の言葉が、いいな、わかるなぁと感じました。
「たとえばブルーグレイと
ひとことでいったって
そう呼べる色合いは数限りなくある
お客様が本当に好きな色を感じとるのさ
感じとったらそれをペンキで表すんだ」

 子どもの頃も、今も、絵を描く時色を作るのが好きでした。絵の具を混ぜて、絵の具チューブにはない色を作る。また、「はだいろ」がチューブにはなく、赤と黄色と白を混ぜれば「はだいろ」になると教わったのですが、調合の加減でいろいろな「はだいろ」ができる。赤と黄色と白だけでなく、茶色や黄土色も混ぜてみたり。何かを描き色を塗る時、目の前にあるものの色が全て絵の具チューブにあるわけではない。あるわけがない。目の前にあるものがどんな色をしているのか、絵の具を混ぜながらその色を作り、塗っていくのが楽しくて(あと、ささやかなものですが描いた絵が賞をいただいたこともあって)、絵を描くのが好きになり、今に至ります。今は色鉛筆ですが、やはり欲しい色は色鉛筆のセットには無い。混ぜて、塗り重ねて、欲しい色、表現したい色を出すのが好きです。

 しかし、しんやはペンキ塗りを仕事とするプロ。お客の依頼にこたえなければならない。その難しさと同時に、母が見た父の仕事について語られます。そして、父の足跡を追ってフランスに向かったしんや。船で出会った謎の女の人が依頼した「ユトリロの白」という色。フランスで父のことを知る人が話してくれた父のこと、父の仕事のこと、そして、「ユトリロの白」の手がかり。帰国後、しんやのペンキ塗りの仕事は一変します。

 自然の色であれ、人の手によって作られた色であれ、色は不思議なものだと思う。人を落ち着かせたり、幸せにさせたり、不快にさせたり。ものや人に会うと、特定の色をイメージすることもある。色と言っても、グラデーションだったり、所々ムラのようになっているものもある。その微妙な色合いを表現し始めたしんや。色合いの表現が繊細になればなるほど、人間は深みを増していくのだろう。

 そして、たどり着いた「ユトリロの白」。作品の中で謎の女の人が「ユトリロの白」について語っていますが、その表現が凄く好きだなと感じました。”何色”とはっきり言い切れない。色々混じって、塗り重ねられて、変化してゆく。生きること・生きてゆくことをそのまま表現したかのような色。色は、それをも表現できたんだ。

 言葉だけでは表現できないものを、絵本=絵もある物語なら表現できる。絵本の表現の幅も、作家さんによって変えることができる。そう実感した本でした。

 ちなみに、モーリス・ユトリロは、近代フランスの画家。「白の時代」と呼ばれる時期の作品が、ユトリロの絶頂期と言われているそうです。検索して作品の画像を観たのですが、「白の時代」の作品は、まさに「ユトリロの白」そのものだなと感じました。
wikipedia:モーリス・ユトリロ
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by halca-kaukana057 | 2011-10-25 22:45 | 本・読書


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