はやぶさ/HAYABUSA (角川つばさ文庫 ジュニア向けノベライズ版)

 1年前の今日は、小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルに入っていた微粒子が、小惑星イトカワ由来のものだと発表された日でした。「はやぶさ」はイトカワのサンプルを回収できていた、ミッションフルコンプリートした…その喜ばしい報せに、歓喜、感激、感涙の一日でした。

・1年前の今日の記事:祝・500点満点達成! 「はやぶさ」カプセルの微粒子はイトカワ由来
・2010年11月16日の私のtwitterログ:Twilog:遼(@halcakaukana)/2010年11月16日

 と言うわけで、今日は「はやぶさ」関連の本を。しかし、これまでの本とは、ちょっと趣向が違います。

はやぶさ/HAYABUSA
鷹見 一幸:著/かしわ:絵/角川書店(角川グループパブリッシング)・角川つばさ文庫/2011

 10月に公開され、私も観に行った映画「はやぶさ/HAYABUSA」(20世紀フォックス版)。そのノベライズが角川文庫から出ているのですが、もう一つ、角川のジュニア向け新書「角川つばさ文庫」から、ジュニア向けノベライズが出ています。映画のノベライズが出ることは多いですが、通常版とジュニア向け版が同時に出ることは珍しい。なので、ジュニア向け版を買って読んでみました。

 小学2年生の隼人は、鹿児島から神奈川に転校して来た。しかし隼人は、鹿児島弁で話すことを変だとクラスの子たちから思われていて、友達が出来ずにいた。ある日、クラスの男子たちがロケットの話で盛り上がっていた。背が高くサッカーが得意なケンジが、学校の近くにロケットの研究所があって本物のロケットを見たと騒いでいる。その話を聞いて、隼人は鹿児島で見たロケットの打ち上げを懐かしく思い出していた。その隼人にいきなり話題が振られ、隼人は本物のロケットの打ち上げを見たことがあると言う。皆に嘘だと言われ涙を流す隼人。そんな隼人に、ケンジはその研究所に行って聞いてみようと言い出す。放課後、その研究所…宇宙科学研究所・相模原キャンパスに向かった2人。展示室で相談員をしている水沢恵に話しかける。隼人が見たというロケットは、内之浦から打ち上げられたM-Vロケット5号機。搭載されていたのは、MUSES-C・小惑星探査機「はやぶさ」。”恵お姉さん”から「はやぶさ」のことを教えてもらった隼人は、「はやぶさ」や宇宙に興味を持ち、研究所に通うようになった…。


 映画本編の話とは、ちょっと違う物語です。映画のスピンオフと言えばいいかな。映画の物語も語られますが、このジュニア向け版での主人公は隼人。小学生としての、いち「はやぶさ」ファンとしての視点をメインにして物語は語られます。映画本編の主人公・恵は展示室の相談員(主に)として、隼人たちに「はやぶさ」や宇宙のことを教え、また隼人から学校や勉強、人間関係のことなどの相談を受ける立場になっています。隼人から見れば”お姉さん”なので、映画よりしっかりしている気がしていますw勿論、映画に登場した運用チームの先生方も登場します。が、隼人との接点がそんなに無いので、恵の視点から語られます。

 これまでの「はやぶさ」関連本は、当然だけれども「はやぶさ」そのものについて書かれているものばかりだった。私も出る度に読んだ。立場が違えば見方が変わる。書かれていることも、当然起こったことはどれも同じ。でも、立場が変われば視点が異なり、表現が異なる。その違いや、どんな読み手を想定して書かれてあるか、著者の性格・傾向の違いもあって、出る度に読んでしまう(まだ読んでいないもの、読む予定のないものもありますが…)。映画だって、「はやぶさ」そのものがいつどうなるか、何が起こるかは知っている。それなのに、誰が主人公で視点のメインはどこなのか、演じる俳優さん、コンセプト、雰囲気、監督の伝えたいこと…それらの違いがあるので、この20世紀フォックス版だけでなく、来年公開の東映版、松竹版も観たいと思っている。要するに私は、ただの宇宙ファン、「はやぶさ」ファンなんだろうと言われれば認めざるを得ない、その通りなのですが、ひとつの探査機から、たくさんの書籍や映像作品などが生まれたことが、嬉しいですし驚いてもいます。

 しかし、このジュニア向けノベライズは、これまでの「はやぶさ」本とはちょっと違う。「はやぶさ」そのもののことは、確かに書かれています。所々に”恵お姉さん”が「はやぶさ」や宇宙のことを解説するミニコラムがあり、また物語本文にも小学生にもわかりやすいように解説風の文章があります。でも、メインは隼人と「はやぶさ」の関わり。隼人が「はやぶさ」から学んだこと、「はやぶさ」に教えてもらったこと。映画では、恵は様々な実在するスタッフの寄せ集めのような存在。完全なフィクションではない。だが、このジュニア向けノベライズの隼人は完全なフィクション。そして、”宇宙研・運用チームの中の人”ではない。外から、小学生としての、いち「はやぶさ」ファンとしての視点で、「はやぶさ」の旅路を見つめ、見守っている。こんな物語も、私は読んでみたかった。SF小説で、現実のプロジェクト、もしくは現実のプロジェクトのモデルと、それに関わる人・見守る人の物語がよくありますが(例えば、野尻抱介「ロケットガール」シリーズの「魔法使いとランデヴー」。これは「はやぶさ」がモデル)、現実の「はやぶさ」でもそんな物語が出ないかなぁと思っていたのです。現実の出来事にフィクションをつける必要はない…と言われるかもしれません。が、ひとつの探査機(宇宙機・人工衛星)と人間の関わりを、”中の人”だけでなく、直接関わっていない人からの視点で語ったらどうなるだろう。それを読んでみたかったのです。特に「はやぶさ」は、そのドラマティックな旅路、何が起こっても諦めない運用チームの根性と驚きの技術に励まされた、元気をもらったという声が多い。その声の中のあったかもしれないひとつを、物語・小説にしたら、どうなるだろうか。ひとつの探査機・人工衛星・宇宙機が、誰かの生き方・人生に影響を与える。その人にとって、その宇宙機は人生のヒトコマに刻まれるかけがえの無い、大きな存在になる。この物語では「はやぶさ」だけど、他の宇宙機(人工衛星・探査機・宇宙プロジェクト)でも、現実に隼人と同じような体験をしている人がいるだろう。ならば、宇宙・宇宙開発・宇宙プロジェクトは決して遠くにあるものではない。”遠い”存在ではない。

 子どもを主人公にすれば、主人公の子と「はやぶさ」が同時に成長してゆく。その子にとって、「はやぶさ」は一緒に成長し、歩んできた友達のような存在になる。その子が、この物語では隼人です。

 隼人はケンジや恵お姉さんと一緒に「はやぶさ」を見守り続け、成長してゆく。一方で、学校では隼人を標的にいじめも起こる。このいじめが何とも古風な(?)小学生男子(実際はどうなんだろう?)によるもので、微妙だなとも思うのですが、隼人が「はやぶさ」を思って賢く、強くなってゆく様に、子どもって凄いなと思います。

 映画本編には出てこない・出てきて欲しかったのに割愛されてしまったこともこのジュニア向けノベライズには書かれていて、嬉しかったです。このノベライズだけを読んでも、映画本編が全部語られているわけではないので、ネタバレにはならないと思います…多分。所々はネタバレしますw映画を観てから、もうひとつの「はやぶさ/HAYABUSA」の物語を楽しみたい方におすすめします。ジュニア向けですが、大人も楽しめます。「はやぶさ」や宇宙、探査機運用の素朴な疑問についての答えもわかりやすく書かれています。親子でなら、全力でおすすめします!

 と言うことで、映画の公開は終わってしまったので、ブルーレイ・DVD待ちです。また観たい。今度は家で、元ネタを確認しつつゆっくりじっくり観たい。買う予定ではいます。いつ出るかな。2月11日の東映版「はやぶさ 遥かなる帰還」の公開とどっちが早いかな。

【過去関連記事】
・映画「はやぶさ/HAYABUSA」(20世紀フォックス版)私の感想:映画「はやぶさ/HAYABUSA」(20世紀フォックス版)を観てきた

・「はやぶさ」をモデルにしたSF小説:ロケットガール4 魔法使いとランデヴー

【関連サイト】
角川つばさ文庫:はやぶさ/HAYABUSA
 ↑角川つばさ文庫の特設サイト。
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by halca-kaukana057 | 2011-11-16 23:30 | 本・読書


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