フィンランドで見つけた「学びのデザイン」

 以前、青森県立美術館「フィンランドのくらしとデザイン」展のトークセッションの記事で、フィンランド関係の本を読んだ…と書いていたのがこの本です。

 「フィンランド」と「教育」、この2つの単語が並ぶと、PISAによる”学力世界一”を連想する人も多いと思う。フィンランドの教育について、今まで本を読んでも記事にはしないできた(シベリウス音楽院指揮科の記事は別)。確かに、フィンランドの学校教育はとても丁寧な、ひとつひとつ学んでいこうという姿勢が制度にも反映されている。純粋に「フィンランドの教育」だけを読む・見るのならいいが、それを日本のものと比較したり、日本で導入できないかと考えるのはちょっと…と思っている。人口も、教育制度も、教育の歴史も、教育行政も全く異なる。だから比較や、安易に「フィンランドの教育」はいい、日本も導入するといい、とは言い切れない。

 そんなことを今も考えてはいるが、この本のことは記事にしたいと思う。読んで、素直に「面白い」「興味深い」と思ったから。日本のものとの比較は、してしまうかもしれないけど、出来るだけしないようにして書きます。


フィンランドで見つけた「学びのデザイン」 豊かな人生をかたちにする19の実践
大橋香奈・大橋裕太郎/フィルムアート社/2011

 この本で取材し、取り上げているのは、フィンランドの博物館や美術館、図書館や、教科書会社、放送局、NPOなどなど。学校の外で、「学び」の場をつくり、活動の実践の内容やスタッフへのインタビューを収録している。文章だけでなく、写真もカラーで「こんなところなんだな」と想像しやすい。

 まず、何故「学び」について取材し、書こうと思ったかが書かれている「はじめに」。このように書かれている。
困難を乗り越え人生を切り拓く力となるのは、多様な「学びの体験」ではないだろうか。
(18ページ)

 そして、「学び」と「教育」の違いについて。「学び」は自発的で柔軟なものであるのに対して、「教育」は主体は教える側、教える側は「正解」や「理想」を持っていてそれにたどり着くことを目標としている。…確かに。人生を豊かにする「学び」を、フィンランドではどのように「デザイン」…形作っているのだろうか。フィンランドの元教育大臣の言葉が引用されています(ラテン語の格言なのだそうです)。
「学校のためではなく、人生のために学ぶ」
(21ページより)

 
 この「はじめに」では、2011年3月11日…東日本大震災のことも書かれています。生きることさえ困難な状況に陥り、様々な情報が飛び交っている。その中には、デマもある。今も、被災地だけではない、物理的にも精神的にも困難な状況が続いている。
 一方、フィンランドものんびりしたように見えるけれども、結構大変だ。失業率・自殺率は高いほうだ。冬の厳しさは人々に精神的な苦痛も与え、うつ病に悩む人も多い。移民問題もある。PISAの結果からは見えない、様々な問題を大人も子どもも抱えている。
 そんな困難はあるけれども、豊かな「学び」が、何らかの力にならないか…。そこから、この本は始まります。

 美術館、科学館、図書館と様々な事例を見ていく。美術館で、幼い子どもが参加するガイドツアー。幼い子どもが美術館でどう振る舞うか…美術館のスタッフや保護者にとっては悩むところだが、ガイドツアーに参加して、先入観無しに作品を観たり、語ったり。アートを一部の大人(アートに興味のある人)だけの閉鎖的なものにするのではなく、子どもたちも参加して、誰もがアートを語り、様々な形で理解できるように開放すること。アートを通して、何かのテーマについて考えたり、自分でも作ってみる。そんな活動が幅広く行われている。

 図書館でも、本だけでなく、CDやDVDなどの蔵書も充実し、ギターなどの楽器や音楽スタジオで演奏し録音、CDの編集もできる図書館もある(!!)。オンラインサービスも充実し、どんな質問にも答えるサービスをしているところも。ここも、本が好きな人だけの閉鎖的な空間になっておらず、様々な人が気軽に集える場になっている。

 興味深かったのが、自然に関する学びについて。森と湖…自然豊かなフィンランド。人々は森や自然とともに暮らし、自然を大事にしている。そんなイメージがある。しかし、フィンランドも変わってきている。冒頭で書いた「フィンランドのくらしとデザイン」展のトークセッションで、フィンランドの都市部では、自然とともに暮らす機会が少なくなっている、と聞いた。
 フィンランドでは、7歳から始まる基礎教育(義務教育)で、「環境と自然」という教科がある。「環境」「幸福な生活」「持続可能な未来」に対する責任ついて考えることを、4年生まで学ぶのだという。そこで、森の中で自然体験をし、「人間は自然の一部である」ことを理解するために、「自然学校」が各地に設立され、子どもたちがそこでの学びの場に参加する。フィンランドの子どもたちは小さい頃から森の中で遊んでいて平気…なのかと思ったら、驚いた。泥で服が汚れるのを心配する子もいる。自然学校の先生の話では、森の中に入りたくない、車の中から見ているだけで十分、と言う子もいるのだそうだ。やはり、自然豊かなフィンランドでの人々の暮らしは、変わってきているようだ。それでも、自然学校では、子どもたちは食べられる草の味を確認したり、沼地の小さな池にいる生き物を探したり、泥だらけになって森と戯れている。お昼には、ソーセージ(マッカラ)を焼いて、食べる楽しみもある。時代や、都市、人々の考えは変わって行くのかもしれない。それでも、フィンランドという自然豊かな地で、学ぶことがある。それが、フィンランドという地で、豊かに生きる・暮らすことを深化させる。

 フィンランドには、様々な「学び」の場があり、「場」だけでは終わらず、生きた「活動の拠点」となっている。ただ「学んだ」で終わらず、個々人の中で深化させてゆけるようになっている。学校以外の場所で学ぶことは、以前から私も興味を持っていることなので、興味のある国であるフィンランドの事例ということでも興味深い本でした。やはり日本と比べると…進んでいる。でも、全国探せば、色々な活動をしているところもあるだろうから、一概には言えない。それでも、フィンランドもまだまだ模索しているところもある。「学ぶことに終わりは無い」…作曲家・シューマンの言葉(「ユーゲントアルバム」op.68の「音楽の座右銘」より)を思い出す。「学び」のデザインにも、終わりはないのだと。

【過去関連記事】
自然と暮らしが生んだもの 「フィンランドのくらしとデザイン展」トークセッション
 これが全ての始まりでした。

シベリウス音楽院の凄さを探れ
 シベリウス・アカデミー指揮科の学びについて。
シューマンの言葉に学ぶ 「音楽の座右銘」より
 「学ぶことに終わりはありません」
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by halca-kaukana057 | 2012-06-12 23:14 | 本・読書


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