やわらかな心をもつ ぼくたちふたりの運・鈍・根

 結構前に読んだのに、なかなか記事にできなかった。

 以前読んだ数学者・広中平祐さんの「生きること学ぶこと」(集英社文庫)。この解説を書いていたのが、指揮者の小澤征爾さん。二人は同時期にフランスにいて、同じ語学学校に通っていたことで出会い、それ以来の親友なのだそうだ。その二人による対談本があった。広中さんの「生きること~」も、かなり前に読んだ小澤さんの「ボクの音楽武者修行」も面白かったので、どんな対談になるのか気になり、読んでみた。

・小澤征爾「ボクの音楽武者修行」(新潮文庫):その人だから書ける物語を
 読んだ本3冊をまとめて書いた記事なのでこんな形になってます。ちなみに、この「ボクの~」は新潮文庫・夏の100冊フェアのリストにずっと入っていたのですが、昨年から除外。替わりに佐渡裕さんの著書が。小澤さんのも残して欲しかったなぁ。
生きること学ぶこと
 この本も、集英社文庫・夏の文庫フェア「ナツイチ」のリストに去年入っていて、それがきっかけで読みました。今年は入っておらず。集英社文庫は毎年入れ替わりが多いので、仕方ないかな。いや、残して欲しかった。


やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根
小澤征爾・広中平祐・萩元晴彦/新潮社・新潮文庫

 この対談は、テレビ番組プロデューサーの萩元晴彦さんが制作した番組「オーケストラがやってきた」と「対話ドキュメント」で小澤さんと広中さんの対話を収録したものが元になっている。小澤さんがボストン交響楽団の音楽監督だった頃、1976年のもの。しかし、古さを感じさせない。

 対談の内容は、音楽から数学、2人が住んでいるアメリカのこと、出会ったフランスでのことや海外で生活するということ、教育、学ぶこと、両親や奥様など家族や生い立ち…非常に多岐に渡っている。こんなに話が広がるなんて、2人の相性が凄くよい、親友だからこそだと思うし、2人がそれぞれの専門である音楽と数学だけでなく幅広い分野に興味を持っていて詳しいからだと思う。話の幅は広くて、何が飛び出すかわからない。でも、浅くはなく深い。その深さは、2人の経験も交えて話しているのでしっかりしている。対談そのものが自由で、その自由さに驚きついていけなくなる(しかも文字が小さい、この本…)こともありましたが、そこはゆっくりじっくりと読んで、楽しみました。

 教育、学ぶことに関する部分は、熱心に読んでしまいます。2人とも、音楽でも数学でも第一線で活躍している方だけれども、そこに至るまでには様々な道を歩んできた。回り道もしてきた。それを、広中さんは「捨て石」と呼んでいる。囲碁で、その石を置いて、その石がすぐに結果を出すことはない。無駄かと思えるものでも、その時わからなかったものでも、後で生きてくる。親や教師に言われた言葉に、その時は何故こんなことを言われなきゃいけなんだ、わからない、と思ったものでも、後からその意味がわかる、納得することがある。捨て石を置く教育をする。それは、「何故勉強するの?」というよくある問いにも通じる。広中さんの「生きること~」で、広中さんは様々な数学者たちに出会い、師や先輩・後輩に学んできた。反抗することもあった。小澤さんも、師である斎藤秀雄氏や山本直純さん、カラヤンなど様々な音楽家に学んでいる。その教えは厳しいものであることもあった。それでも学び、新しいものをつくる。この本の中では、2人の学ぶこと、仕事についてあちらこちらで、本当に自由に語られている。2人の姿勢が、あちらこちらから伺える。

 印象的な箇所は、対談の最中、広中さん、萩元さん、小澤さんとご家族で遊園地へ遊びに行ったところ。そんなに目立った遊園地でもないのだが、小澤さんは心から楽しんでいた、というところ。園内でそんなにうまくはない(と書かれている)楽団が演奏をしているのだが、その演奏もリズムを取りながら聴いて楽しんでいる。どんなことでも、どんな時でも、目の前にあるものに集中して、楽しむ。文章から、小澤さんの楽しげな表情が伺えました。

 小澤さん曰く、数学者である広中さんは、音楽家だったら作曲家だと。確かに、新しい理論を組み立てるのは作曲家みたいだ。

 タイトルに「運・鈍・根」とありますが、これは、運、鈍感さ、根気。運と根気はわかるが、何故「鈍感」。これは広中さんの言葉で、「生きること~」にも書いてありますが、鈍感で、すぐに忘れてしまうからこそ、大切なもの、忘れてはいけないことを取捨選択できるのではないか、と。確かに、忘れることも大事。何でも覚えていたら、頭はパンクするだろうし、辛い思い出やちょっとした恥ずかしいことなどの忘れたいことを忘れられないのは困る。沢山のものに触れ、でも忘れる。忘れることも大事なのだな、と。私は何でも覚えておこうと思ってしまうので、そんなに気合入れ過ぎなくてもいいのかな。むしろ、覚えている=知っていることが、余計な先入観になってしまうことがある。それは厄介だ。

 対談が小澤さんの家で行われているので、時々娘さんが遊ぼうと話しかけてきたり、本当に自由な対談です。よく萩元さんはまとめたなぁと思います。読むなら3冊一緒にどうぞ。
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by halca-kaukana057 | 2012-07-09 23:08 | 本・読書


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