宇宙へ「出張」してきます 古川聡のISS勤務167日

 これは、今年になってから読んだ本。昨年、星出彰彦宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在が無事完遂し、今年は12月ごろに若田光一宇宙飛行士の長期滞在が始まります。しかも若田さんは、4度目の宇宙飛行でもあり、日本人初のISSコマンダー(船長)。米軍出身の宇宙飛行士しかなることの出来ないスペースシャトルのコマンダーは、日本人には出来ない(そしてシャトルも引退)。でも、ISSのコマンダーは、アメリカ人、ロシア人でなくてもなることが出来る。ISSの状態の全体を把握し、クルーのことも把握しその時に合った指示や地上との交信を行うコマンダー。これまで、ISSのコマンダーでは印象に強く残っている宇宙飛行士は何人もいるのですが、若田さんはどんなコマンダーになるのかな?今から楽しみです。


 という前書きですが…本編は、古川聡宇宙飛行士のISS滞在記です。

宇宙へ「出張」してきます ―古川聡のISS勤務167日―
古川聡/林公代/毎日新聞科学環境部/毎日新聞社/2012

 日本人で3人目のISS長期滞在者として、宇宙飛行した古川さん。そのミッションは、医師のバックグラウンドを活かし、無重力(無重量・微小重力とも呼ばれますが、この本では「無重力」と表記しています)で生活すると人体はどのように変化するのか、無重力での骨量減少が骨粗しょう症に似ていることから骨粗しょう症の薬を飲んで生活してみる、ISSで毎日の健康管理を簡単に行えるようなシステムを作り、医師である古川さんに検証してもらう…といった医療関係の実験が多かった。医療関係だけでなく、物理関係の実験も。さらに、地上の子どもたちとの交信イベントや、NHK「宇宙の渚」のオーロラ・流星・スプライトの撮影。仕事だけでなく、食事や睡眠、運動などの日々の暮らし。ISSでの様々な出来事。クルーとのこと…などなど、古川さんがISSで感じたこと、思ったこと、体験したことなどが、親しみやすい文章で書かれています。所々、科学ライターの林公代さんと、毎日新聞科学部の元村有希子さんによる解説もあります。専門的な部分もありますが、読みやすい、ISSでの暮らし・ミッション、宇宙飛行士を身近に感じられる本です。

 この本はまず、古川さんの帰還から始まります。荷物をまとめて、ISSに別れを告げソユーズ宇宙船へ。ソユーズがISSと分離し、いざ帰還。大気圏再突入のソユーズや船内の様子がリアルです。そして着陸、帰還。待っていたロシア宇宙局やJAXA、NASAの関係者たちと記者たち。ソユーズから出て、約半年ぶりの地球の空気。その後アメリカNASAでのリハビリと、「無重力の世界」から「重力のある世界」へ戻ってゆく様。このあたりは”お医者さん宇宙飛行士”の視点になるほどと思いつつ読めました。
 その後に、記者から見た古川さんの帰還ということで、毎日新聞科学部の比嘉洋さんのカザフスタン取材記も。なかなか行けないカザフスタンの現状が興味深い。そして、帰還後の記者たちの奮闘振りも。取材した内容を日本に送らなければならない。しかし、あまりの寒さにパソコンも、バッテリーも持たない。その度に「こんなこともあろうかと」が出てきて吹きそうになりましたw何かを意識してます、よね…?

 古川さんのISS滞在期間中は、様々なことがあった。スペースシャトルの最後の飛行・STS-135アトランティス。古川さんと、星出さん、山崎直子さんの4期生3人は、元々スペースシャトルでの飛行を目標に宇宙飛行士に選抜された。しかし、コロンビア事故やISS建設の遅れで、古川さんがシャトルに乗ることは無かった。「気持ちを切り替えた」と書かれている。そんな古川さんにとって、ISS長期滞在中にシャトル、しかも最後の飛行に居合わせることが出来たのはよかったなぁ、と。

 古川さんはISS、日本実験棟「きぼう」で様々な実験をした。その実験内容は、科学者・研究者がISSでやって欲しい実験をJAXAに送り、JAXAの厳しい審査を経て実現する。その実験を、古川さんたち宇宙飛行士が”代わりに”ISSで実験をする。古川さんの専門は先ほども書いたとおり医学。しかし、医学以外の実験もある。それでもどんな分野でも、科学者として「宇宙実験を提案する科学者たちの気持ちを理解する宇宙飛行士でありたい」(105ページ)と書いている。本当は自ら宇宙に行って、ISSで実験を行いたいはず。だからこそ、その気持ちも汲み取って、実験を行い成功させたい、と。その実験に関する論文も読むし、必要ならその科学者と質問をやり取りすることも。古川さんの、真摯さに心打たれる。そして実験を成功させるために、トラブルが起きても冷静に分析、地上にデータを送り、修理する。地上との連携も大切だし、手先の器用さも必要。他のクルーに協力を呼びかける時、ちょっとした翻訳ミスが逆に謎のジョークとなり、効果があったことも。私もまだ全て把握できていないが、古川さんが行った実験とその結果はものすごいものではないだろうか。そして、これからどう展開してゆくのかも楽しみだ。宇宙実験のその後も知りたい。

 古川さんがもうひとつ大切にしていたのが、地上との交信。古川さんがISSに滞在していたのは、東日本大震災の直後。被災地の子どもたちと交信することもあった。こんな時、宇宙に行ってていいのか、宇宙から何を伝えられるのかと思いつつも、だからこそ、ひとつひとつの交信イベントを大事にする。どこの、どんな子どもたちが、どんな目的で参加しているのか、などの予習を欠かさない。そして交信の時には、あの満面の和やかなスマイル。古川さんのあの笑顔と、穏やかな声に私も惹きつけられた。宇宙実験も、地上との交信も、ISSにいるからこそ出来ることを、丁寧に行う。古川さんの仕事ぶりに、学ぶところがたくさんある。

 無重力での暮らしの中で、身体の変化について詳しく書かれているのも、古川さんならでは。体形の変化や食事・満腹感、トイレのこと、体内時計。そしてストレスも。ストレスに関しては、ジョークで和ませるという方法もある。ジョークをうまく使えたらな、と思う。
 ちなみに、古川さんがISS滞在中、ソユーズロケットにトラブルがあって、仲間の宇宙飛行士の帰還が遅れる、という時、こんなジョーク動画を撮影した。
With Apologies to Guitar Players & Music Lovers Everywhere

 帰れない…とホームシックになって、狭いソユーズ宇宙船でギターを弾き、歌うロナルド・ギャレン飛行士。古川さんも出てきますし、撮影係も担当したそう。この時、笑いをこらえるのに必死だったとかw私もこの動画を観た時、全部の会話はわからないけれども雰囲気に笑いましたw
 そして、なんと続編があったよ!
Space Station Blues - The Sequel

 帰れる!と知って笑顔に。いいジョークだw

 この本では、宇宙飛行士になるまでの古川さんの生い立ちも語られます。なかなかのやんちゃ坊主だった模様。そして、あの「風雲!たけし城」(懐かしい!と思った人挙手!w)に出場したことがあったそう。そこで、古川さんはあるジョークを披露。たけしさんもウケて笑っていたとか…w凄いw

 最後に、今後の日本の有人宇宙開発について語られています。先日、今後5年間の宇宙政策の方向性として有人宇宙活動は経費削減、との発表がありました。産業に繋がる成果がない、と。
共同ニュース:有人宇宙活動に経費削減迫る 宇宙基本計画案
 シャトルでの初飛行から20年、ISS長期滞在が始まって約4年(しかも、継続してではない。飛び飛びで。)。予算が足りない、他にやるべきことがある、変化の多いこの時代、計画通りには進めない、変えてゆく必要がある…わかる。でも、まだ、「成果がない」と切る時期でもないと私は思うのですが…。この本では、「ISS後に向けた日本の議論は進んでいない」「国民的な議論を始める時」(元村さん)と書かれている。2020年に運用終了予定のISS.5期生の3人はどうなるのか。先に書いた古川さんの真摯で丁寧な仕事ぶりと、様々な科学実験、ISSでの暮らしから見えてきたことと、これからの日本の有人飛行についてが重なっていっていない、とも感じます。ISS後も繋げよう、重ねていこうというものが見えてこない。得られたこと、繋げてゆきたいこと、繋げて欲しいことをこのように記している人もいるのに…。

 とても興味深い、親しみやすい本なのに、後味の悪い終わり方になってしまった…ごめんなさい。最後に、若田さんのインタビューがあったので貼っておきます。ちょっと長めです。
MSN産経ニュース:【グローバルインタビュー(上)】国際宇宙ステーション初の日本人船長、若田光一さん 有人宇宙活動の飛躍の年に
MSN産経ニュース:【グローバルインタビュー(下)】国際宇宙ステーション初の日本人船長、若田光一さん 日本の有人宇宙活動の重要な一歩になる

 …古川さんの本のことを書いたのに、これでは最初から最後まで若田さんの話題で終わってしまうw
 この本の著者・解説の林公代さんの宇宙飛行士に関する本はこちらもどうぞ。オススメです。
宇宙飛行士の育て方

 この本にも、ツイッターのことが何度か出てきますが、今も古川さんのツイートは続いています。
古川聡(JAXA宇宙飛行士) @Astro_Satoshi
 宇宙のこと、身の回りのこともありますが、多いのは医療関係の新しい発見など。さすがお医者さん宇宙飛行士です。
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by halca-kaukana057 | 2013-01-17 22:51 | 本・読書


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