エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦

 梨木香歩さんの最新作です。タイトルの通り、エストニア紀行エッセイです。でも、ただ「エッセイ」と言い切れないのが梨木さんの著作。

エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦
梨木香歩/新潮社/2012

 2008年8月から9月、梨木さんはエストニアを訪れる。歴史のある街や、地方の森とそこに生きる人々、そしてコウノトリを探しに(梨木さんの鳥・バードウォッチングに関するエッセイは「渡りの足跡」に詳しく書かれています)。

 エストニア、と言えば、色々と連想する。まず、旧ソ連の支配下にあったバルト三国のひとつ(一番北がエストニア)。フィンランド好きとして、フィンランドのお隣の国。フィンランド語とエストニア語は似ていて、国歌のメロディーも何故か同じ。フィンランドからフェリーで約3時間という近さもあって、フィンランドとはつながりの深い国。IT大国。その一方で首都タリンの町並みは世界遺産にも登録されている。把瑠都関の故郷。クラシック音楽好きなら、指揮者のネーメ・ヤルヴィ、その長男が同じく指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ(現在はアメリカ国籍だと、さっき調べて初めて知った)、次男で同じく指揮者のクリスチャン・ヤルヴィ、妹のマーリカ・ヤルヴィもフルート奏者、とヤルヴィ一家もエストニア出身と思い出す人も多いはず。
 でも、エストニアがどんな国なのか、私はよく知らない。梨木さんの言葉でどんな風に書かれているのか、読むのが楽しみだった。でも、何故エストニアなのだろう、と思っていた。

 まず表紙と、中ごろにある旅の写真が美しい。葦と海、町並みや古い建物、自然や風景、旅で出会った人たち。上記した連想したものとは異なる、私の知らないエストニア。梨木さんの旅の過程も、私の知らないエストニアばかり。でも、もし私がエストニアを旅して、その記録を書いたとしてもこの本のようにはならない。梨木さんの目を通して、梨木さんが感じたエストニアの姿だから。物語のように語られる。

 上記したエストニアのイメージの中に、IT国家、とある。タリンの古い街並み、国も小さい一方で、ITに関しては先進国。色々と進んだところがあるのだろうなと思っていた。が、タリンを離れ、南の地方や島へ行くと、自然に溢れている。まさに、ヨーロッパの田舎(いい意味で)。そこに暮らす人々も、古くから伝わる地域の文化・民俗を大切にし、自然の中で生きている。そんな地方で出てくる料理が美味しそうだと読んでいて思った。美味しいパンやきのこ料理が食べたくなる。地方の小高い山の上にある小さなレストランを訪れるのだが、そのシェフやレストランの雰囲気、料理の内容、食材についてを読んでいると、小説「雪と珊瑚と」の珊瑚が営む惣菜カフェを思い出した。もしかすると、このレストランがモデルのひとつになっているのかもしれない。

 梨木さんが何故エストニアを選んだのか。その理由はコウノトリの渡りを見たいというものあった。そのコウノトリだが、自然はめまぐるしく移り変わり、渡り鳥はその動きにとても敏感なのだと感じた。コウノトリだけでなく、様々な鳥も登場する。そして、自然の中で生き物が生きるということ。その中での、人間という存在はどんな存在なのか。言葉を失い、黙り込んでしまう。ただの破壊者に過ぎないのだろうか…。人間が手を加えられないところ…例えば、国家間の緊張が続いている国境付近などは、逆に手付かずの自然と生態系が保たれているという。皮肉なものだ。そして、梨木さんがエストニアを旅したのは2008年だが、2011年の日本…震災後の日本に繋がる部分もある。この点に関しては、様々なことが複雑に絡み合っていて、用意に言葉に出来ない、私は書けない。だが、「自然」という視点だけで考えると…やはり人間はただの破壊者なのだろうか…。
 エストニアは、自然の美しさと、その陰にあるものを感じられる場所でもある。

 シリアスな部分もあるが、滑稽に読める部分もある。古い建物のホテルが「ホーンテッドマンション」そのもので、梨木さんの泊まった部屋には不思議な少女の絵が…。でも、この絵の少女とも「親しく」なろうとする梨木さんの柔軟さに凄い、とも感じる。キノコ採り名人のおばあさん、蛭で治療をする、というおじいさん。朗々と歌い、マウンテンバイクに颯爽と乗るおばあさん。梨木さんを困惑させた少年たちのカヌーガイド。こんな場面でも、相手を許容しようとする、もしくは自分の意思を伝える感じが梨木さんだなぁと思う。
 あと、都会だけ行くと決めている旅行以外には、必ず長靴を持ってゆくという梨木さん。確かに便利そうだ。それに、どうせ観るなら都会だけでなく、自然の中も歩きたい。早起きして、森の中を歩く部分も大好きだ。

 コウノトリの視点から、エストニアの自然が、地球規模の自然に繋がっているという考え方もいいなと思った。エストニア第二の国歌「我が祖国は我が愛」も。タリン合唱祭・「歌の祭典」で必ず歌われる歌。旧ソ連からの独立を支えた歌でもある。どんな歌なのか調べてみたら、こんな歌だった。
エストニア第25回歌の祭典 XXV Laulupidu 2009 "Mu isamaa on minu arm"
 こんなたくさんの人が一緒に歌っていると思うと、凄いと思う。

 歌をじっくり聴きたいなら、CDもあります。
バルト三国の合唱音楽選集 Vol.1 エストニア合唱曲集(1)混声
 北欧諸国は合唱大国として有名だが、エストニアも合唱は盛んな模様。

 静かで、熱いものを感じられる。こんな旅もいいな。

【過去関連記事】
・渡り鳥に関するエッセイ:渡りの足跡
・山の上のレストランがモデルのひとつなのかもという小説:雪と珊瑚と
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by halca-kaukana057 | 2013-01-20 23:43 | 本・読書


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