本屋の森のあかり 12 【最終巻】

 昨年12月に出て、読んだ漫画です。1巻からずっと読んできて、いよいよ完結へ。感想を書くと物語が終わってしまいそうで、なかなか書けずにいました。でも、書きます。


本屋の森のあかり 12(完)
磯谷友紀/講談社・講談社コミックスKISS/2012

 実家・青森での杜三の父の葬儀に出席したあかり。葬儀の途中、実家で父との思い出を語り、その後ひとり涙する杜三を抱きしめるあかり。その葬儀の後、2人はねぶた祭りへ。山川書店への転職を控え、杜三と会うのはこれが最後かもしれない…ともう一度告白。その時、杜三に見えた世界は…。

 あかりが杜三に最初の告白をしたのが3巻。その時振られ(振ったというよりも、杜三のはちょっと違う)、微妙な関係になったりすれ違ったりの2人。あかりは須王堂書店から出ることがほぼ決定。ソウル支店の店長である杜三との距離はますます離れるだろう。その前に、もう一度…。

 その後の杜三に見えた世界の描写がいいなと思いました。この物語の主人公はあかりだけど、鬼レベルの本の虫である杜三が、本の中の世界と、外のあかりや緑たちがいる現実世界に向き合い、外に踏み出す過程を描いた作品でもあると思う。3巻であかりが告白した時と同じ、萩原朔太郎「猫町」と、7巻であかりと栞が話していた「バベルの図書館」で、杜三の心の変化を描いている。
 私も、杜三と同じように、本の世界にずっといれたらいいなと思うことはある。仕事や人間関係など、現実で嫌なことがあった時、ふと本に手を伸ばす。読んで、本の世界に浸っていると、嫌なことなんて忘れてしまう。現実世界に戻ってくるとため息をつきたくなるが、嫌な気持ちは少しやわらいでいる。もう少しがんばってみようか、とか、本からヒントを得られる時もある(何気なく選んだ本が、その時の自分が求めていることが書かれている…「本に呼ばれる」瞬間と私は呼んでいる)。
 杜三の「こんなことをさせていたとは…2回も すみません」(34ページ)このあかりの気持ちを察し、実感した言葉。ようやくあかりに、「人」に向き合った杜三。私も、本ばかり読んでないで向き合う時は向き合わなきゃな。

 そして、あかりの新生活がスタート。スタート直後から波乱です。63・64話の「秘密の花園」(バーネット)、私も好きな物語です。花園と、メアリーやコリンが再生してゆく姿に勇気を貰えます。その本を買いに来た女の子とお母さんとあかりの会話の部分に、なるほどと思いました。「秘密の花園」等の海外名作ものは、訳がとにかく多い。子どもの頃は気にしなかったけど、大人になって再読、もしくは初めて読む時に、どの訳がいいんだろう…?と悩むことがよくある。完訳版で読みたいけど、どれが完訳版なのか。表記してあればいいけど、表記していないのもある。困った…。と思いつつも、この女の子のように、好きな物語は何度でも読みたい。ずっと読みたい。装丁や訳が違うものも読んでみたい。
なんだか娘の良い芽をつんでしまうとこだったなぁって
絵もこっちのほうが大人っぽいし この子も成長したんだなぁって思いました
そうよねー 好きな物語って いつまでも好きなものよね
(90ページ)

 このお母さんの言葉に共感です。読む本で、自分の成長も感じられたらと思う。

 そして、山川書店であかりが引き継ぎ目指す「顔の見える本屋」。そんな本屋さんがあれば、何度でも通いたい。あかりのように話しかけてくれなくても、本の配置や品揃え、ポップなどの雰囲気で「この本屋さん好きだな」と感じる本屋さんがある。それも、「顔の見える本屋」なのかもしれない。あかりのように話ができればベストだけど。

 そして最終話。この物語を読み続けたのは、本が好きだということもあるし、その本に近い存在であり一度は憧れてしまう存在である書店員さんたちの書店での本と共に生きる日々にいいなと思ったから。最終話は、そんな想いが溢れていて、原点だなぁと感じました。

 番外編も2作。緑の「夜間飛行」(サン=テグジュベリ)と、栞さんの「長い冬」(ワイルダー)。緑君は11巻感想で書いた通り「できる人」だけど、「できる人」なりの悩みや抱えているものがある。「夜間飛行」…新潮文庫版のを読んで持っていたのですが、人にあげてしまった。また読みたくなった。ああ。また買おう。そういえば、緑君があかりの影響で「十五少年漂流記」を何冊も買ってしまったシーンが以前ありましたね…w
 栞さんも転勤、新しい地へ。密かに恋心を抱いていた宮森への想いを断ち切り、新しい道へ。栞さん、いい方向に進んでいけるようで。あと、装丁のデザイン…私も好きです。
 緑君編で少し出てきた、潮見さんの「変化」…驚きました。まさかそうなるとは…。でも、潮見さんにとってはいいことだと思う。うん。


 さて、この作品を読んでいて、5巻の「本に出会って、人に出会う」、そして「生きていくうえで、本がそばにあって欲しい」と私は感じてきたのですが、先日新聞に直木賞を受賞した朝井リョウさんのエッセイが載っていました。ちょっと引用します。
思い出や記憶の中の、ほんの、小さな点のようなもの。自分だけの経験、記憶だと思っていたもの。そういうものを細やかに描写すると、不思議と、たくさんの人が共感をしてくれる。「私だけ」と「万人の共感」は実は隣り合わせにある。その事実に、私はこれまで何度も救われてきた。
 本に向かって前のめりになるようなあの瞬間。そう、そうれ、それ思ってた!自分だけじゃなかったんだ!
 本の中には、そんな発見がたくさんちりばめられている。あの感覚は小さかったころの私の心を強く強く支えてくれた。ひろいひろいこの世界で、自分はひとりではない、のかもしれない、という甘い輝くような予感が、本からはいつだって薫っていた。
(中略)
 「私だけ」は「万人の共感」。私は先ほどそう述べた。それならば、「今、このときだけ」は「誰の心の中にも、永遠にありつづけること」にもなりうるのではないか、と思ったのだ。


 私も同感だ。本を読んでいて、「わかる!」「自分も思ったことある」、または「経験はしたことはないけど、イメージできる。わかる気がする」そんなことをよく思う。しかも、現代小説やエッセイだけじゃなくて、古典文学や海外の作品、ファンタジーやSFなど現実世界にはないもの。あまり読まないけど、ミステリーやホラーでも。詩や短歌・俳句も。本・文学作品は、この社会の投影でもあるし、筆者の目線で見た社会でもあるし、想像の世界でもある。人間から生まれたことは確かだ。「本に出会って、人に出会う」。本が、人をつなぐこともあるんだと思う。著者とも、家族や友人など周囲の人々や、これから出会う誰かとも。そして、「生きていくうえで、本がそばにあって欲しい」…朝川さんの仰るとおり、「万人の共感」というのもあるし、物語の登場人物に自分や誰かを投影してみたり。本の世界に浸ることそのものが、エネルギーの元となることも私は多い。

 これからも、私は本と、このたくさんの人がいる世界で生きていく。そんなことを考えさせてくれた、「本屋の森のあかり」磯谷先生に感謝の気持ちを伝えたいです。ありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

 物語は終わりましたが、ある意味終わってない。この物語に出てきて読みたいと思った本を…これから読んでいきます。沢山あるぞーw

・11巻:本屋の森のあかり 11
 1巻から、「文学」タグで探すと探しやすいです。
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by halca-kaukana057 | 2013-01-29 23:40 | 本・読書


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