獣の奏者 <Ⅲ・探求編><Ⅳ・完結編>

 NHK教育(Eテレ)で2009年に放送されたアニメ「獣の奏者 エリン」。その原作の上橋菜穂子さんの「獣の奏者」シリーズ。<Ⅰ・闘蛇編><Ⅱ・王獣編>で終わっていたのですが、アニメが放送中に続編が刊行。読みたいと思っていたのですが、やはり人気の作品、図書館にはいつも無い。昨年夏に文庫化。待ってました。
(講談社・青い鳥文庫では先に刊行されていたのですが、1・2作目も文庫で読んだので、文庫で買い揃えようと思っていたのです。)

獣の奏者 3探求編 (講談社文庫)

上橋 菜穂子 / 講談社


獣の奏者 4完結編 (講談社文庫)

上橋 菜穂子 / 講談社



 あれから11年。エリンは結婚し、母親になっていた。そしてカザルムで教導師として教壇に立ち、リランたち王獣の生態を研究しながら共に生きていた。そんな時、闘蛇を育てる村で、闘蛇軍の要となる「牙」の大量死が起き、その原因究明を命じられる。エリンが子どもの頃、同じように闘蛇が大量死し、その獣ノ医術師だった母・ソヨンは死罪。その時のことを思い出しながら、エリンは大公(アルハン)・シュナンの側近で元闘蛇乗りの武人のヨハルと共に闘蛇村に赴き、死んだ闘蛇を調べる。母・ソヨンは闘蛇が死んだ理由を知っていたはず。でも、秘密にしたまま、死罪を受け入れた。その理由は何だったのか。原因を突き止めたエリンだが…

 上のあらすじは3作目のほんの一部です。

 アニメ化のために、第1・2作を読み直していた上橋さん。その時、物語に矛盾のようなものが見つかり、そこから更に物語の世界を深めていったのだそう。言われてみれば…と前作を思い出しながら読んでいました。人が作った物語が、人の手を離れてどんどん広がっていっているようだ…。この広げ方に凄いと思った。「守り人」シリーズの第1作「精霊の守り人」から、どんどん物語が広がっていったように、「獣の奏者」も、リョザ神王国の周囲の国々と、それらとの関係、国交の表と奥にある部分、国交を支える人々の物語が次々と出てくる。更に、リョザ神王国内部でも、第2作の後、真王(ヨジエ)・セィミヤと大公・シュナンが結婚したけれども、国内での不安定な動き、政情、セィミヤとシュナンを取り巻く人々の動きもまた面白い。物語は生きものだと感じる。生きもののような物語を作る…凄いことだな、と。

 アニメのラストで少しだけ出てきた母になったエリンと息子・ジェシ。そして夫・父であるイアル。アニメのラストでは、あの後エリンは家族と穏やかに暮らしているのだろうな、と思う。しかし、エリンとイアルは再び国家の危機と、急変する王獣・闘蛇のあり方に巻き込まれてしまう。そしてジェシも…。それでも、エリンは母・ソヨンの一族であり自分もその血を引いている"霧の民(アーリョ)"の王獣に関する”戒律”や王獣規範、闘蛇村での禁忌や言い伝えられてきたことを破ってでも、王獣と闘蛇の生態や、エリンのかねてからの願いである、人に育てられ保護されている王獣を野に返したい、野生の王獣のように暮らさせてあげたい…という思いを胸に突き進む。エリンを「毅(つよ)い」と言う言葉がよく出てくる。「強い」ではなく「毅い」。その通りだと思うけれども、そんな一言だけではエリンを表現しきれない、とも思う。

 物語そのものが、一言だけでは表現しきれない。この物語は、何の言葉も加えず、このままであって欲しい。文庫が出てからすぐ読み、それから何度か読み返したが、未だにこの物語についてどう語ったらいいのかわからない。思考が停止しているわけではなく、そのまま受け入れたい。

 ただ、4作目ラストのこの一節が気に入っているので、引用します。

 母の葛藤を間近でみることで、ジェシは、戦というものが、ひとりの英明な人の英雄的な行為で止められるものではないことを思い知った。
 人は群れで生きる獣だ。群れをつくっているひとりひとりが、自分がなにをしているのかを知り、考えないかぎり、大きな変化は生まれない。かつて、木漏れ日のあたる森の中で母が言っていたように、多くの人の手に松明を手渡し、広げていくことでしか、変えられないことがあるのだ。
(477ページ)

 この物語はエリンの英雄譚ではない。エリンは確かに凄い。毅い。けれどもエリンだけが活躍していたわけではない。イアル、ジェシ。真王・大公とその周囲の人々。ヨハルとその家族や周囲の人々。カザルムのエサル師をはじめとする教導師たち。エリンやイアルの友人たち。闘蛇村の人々。沢山の人がいて、各々が自分で考え行動し、生きていた。

 また、前2作でも鍵となっていた王獣規範や”戒律”が何故出来たのか。作られた理由、どんな経緯・歴史があったのか。それを隠し続けることが、考えることを停止させる。松明の火は消えてしまう。

 物語を読み終わって、色々なことを思う。思い当たる節があったり、言葉のひとつひとつを読み込んだり。でも、そんなことをする前に、物語をそのまま味わいたい。人々の生きる姿をそのまま辿りたい。そう思う続編でした。そのぐらい、大きな大きな物語でした。

獣の奏者 <Ⅰ・闘蛇編><Ⅱ・王獣編>
 前2作。
見ているだけではなく、その手を伸ばして 「獣の奏者エリン」感想
 アニメを観終わっての感想。この3・4作目のアニメ化は、難しいだろうなぁ…。
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by halca-kaukana057 | 2013-02-13 23:08 | 本・読書


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