北への扉 ヘルシンキ

 久々にフィンランド関連の本を読みました。ずっと読みたかった本です。


北への扉 ヘルシンキ
写真:伊奈英次、文:小原誠之、構成:萩原誠/ プチグラパブリッシング/2011


 フィンランド航空・フィンエアーの日本語版機内誌「KIITOS」(キートス:フィンランド語で”ありがとう”の意)に掲載された記事を再構成してまとめた本。フィンランドの首都・ヘルシンキを拠点に、フィンランドの各地、足を伸ばしてエストニア、ラトヴィア、ノルウェーの町や自然・風景、人々に出会った旅を、写真と文章で綴ります。

 この本、結構厚くて重い。最初手にして驚いた。でも、中身を開いて、この厚さと重さの分だけある、と感じた。写真が多く、どれもきれい。現地の空気や光の加減が伝わってくるような写真ばかり。そして文章も、読んでいるとだんだん心が清々しくなる。
 フィンランドをはじめとする国々の澄んだ空気が漂っている。森の緑、可憐な花々、穏やかな輝く湖面、爽やかな風。冬のラップランドの雪の白、凍りついた空気、夜のオーロラ。ヘルシンキなどの町もきれいだ。マリメッコなどのデザインプロダクトは、鮮やかな原色のものもあるのに、「派手」と感じない。「鮮やか」、心躍るような「カラフル」と言えばいいのだろうか。町に溶け込んでいて、浮いていない。北欧の鮮やかなテキスタイルやデザインのそんな特徴に、いつも不思議だなと思いつつも心惹かれている。


 旅の始まりは、ハメーンリナ。湖水クルーズ「シルヴァーライン」はハメーンリナとタンペレを結ぶ、8時間の船旅。これはいいなと思いつつ、この最初からやられてしまった。ハメーンリナと言えば、作曲家・シベリウスの生まれ育った町。シベリウスはその後ヘルシンキの音楽院で音楽を学び、さらにヘルシンキ郊外の小さなひっそりとした町・ヤルヴェンパーで生涯を終えるまで住んだ。シベリウスが好きで、フィンランドに行ったらまず行くのはこのヤルヴェンパーのシベリウスの家「アイノラ」(シベリウスの奥さん・アイノさんの家という意味)と決めている。ここにはシベリウスがアイノ夫人と眠っているお墓もある。でも、ハメーンリナも是非とも訪れたい場所。生家も見学できる。この「シルヴァーライン」での船旅の風景を観て、筆者はシベリウスの楽曲が頭の中に流れていた、という。弦のかすかなトレモロ。ヴァイオリン協奏曲や、交響曲の旋律の一部。文章を読みながら、写真を見ていると、確かに私もシベリウスの楽曲が頭の中に流れてくる。フィンランド=シベリウス、ではないかもしれないけど、その要素はあると私は思っている。私がフィンランドに行ったら、頭の中にはどんな音楽が流れるだろう。前から思っていたが、この本を読んでますますそう思った。フィンランドのシベリウス以外の作曲家…メリカントやカスキなども出てくるかもしれない。

 ヌークシオ国立公園やセウラサーリ野外博物館で自然・森に触れるのもいい。旅で疲れているだろうに森の中を歩くなんて…と私も思った。が、地元でも疲れている時でも田舎道を歩いていると気分が落ち着く、気疲れが程よい身体の疲れに変わっている時がある。せっかく森の国フィンランドまで来て、森を歩かないのもさみしい。私も森を歩きたい。一方で、ヘルシンキやラウマ旧市街の町で歴史に触れるのもいい。ラウマの伝統のレース編み・ラウマレースの精巧な美しさ。人々とのちょっとした出会いや交わす言葉もいい。

 エストニアのタリン、ラトヴィアのリーガもまた素敵な町。ノルウェーでは、ベルゲンへ。ベルゲンで日本の柴犬を散歩させていたご夫婦との話に、読んでいる顔がほころぶ。そしてベルゲンは、シベリウスと同じく北欧を代表する作曲家・グリーグの生まれ住んだ町。フィンランドでヤルヴェンパー・アイノラ、ハメーンリナを訪れたら、是非ノルウェーではベルゲンを訪れたい。グリーグが生涯にわたって書き続けたピアノ曲集「抒情小曲集」に収められている作品にもその名前が出てくる「トロールハウゲン(トロルドハウゲン)」。グリーグが住んだ家がある場所。このあたりは読んでいてたまりませんでした。

 そしてフィンランドに戻って、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」を辿る旅へ。「フィンランドのくらしとデザイン展」で展示されていた、アクセリ・ガッレン=カッレラの「カレワラ」挿絵図案や、「アイノ神話」の絵を思い出す(フィンランド展で展示されていたのは、個人蔵の少し違うもの)。フィンランドの人々は、「カレワラ」の物語に小さい頃から親しんでいる。アニメ「牧場の少女カトリ」でカトリが一生懸命「カレワラ」を読んでいたのも思い出す。国立アテネウム美術館にあの「アイノ神話」の絵が展示してあるのだが、その絵を観ていた女の子がまさにカトリのよう。小学校入学前にして既に全篇を読み通し(!! 日本語版を大人が読むのも大変だと思うのに…凄い!)、「カレワラ」についてもっと知りたいとおばあさんと一緒に美術館・博物館めぐりをしているのだそうだ。印象的な箇所です。
 
 一方、自然から「カレワラ」の風景に迫る、コリ・カレリア地方の旅。「カレワラ」の物語に出てきそうな風景。今も残っている…残っていて欲しいと思う。

 何度でも読みたい本で、何度も読んでしまっている。冒頭でも書いたが写真もきれいなので、写真を眺めるだけでも楽しい。フィンランドの魅力が、澄んだ空気がそのまま伝わってくる本。なかなかない、いい本です。
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by halca-kaukana057 | 2013-02-20 23:45 | 本・読書


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