ライアの祈り

 「津軽百年食堂」「青森ドロップキッカーズ」と、森沢明夫さんによる青森が舞台の小説シリーズの第3作、完結編です。



ライアの祈り
森沢明夫/小学館/2012

 弘前で百年続く老舗の大衆食堂「大森食堂」の長女で、今は八戸のメガネ店に店長として勤めている桃子。35歳、離婚歴あり。従業員の桜に誘われ、合コンに参加することに。参加者は20代、桃子は”人数合わせ要員”として行ったつもりだった。しかし、そこには同じく20代ではない男性がいた。佐久間五朗・通称「クマゴロウ」さん。40代の彼は、八戸の縄文遺跡を発掘している考古学者で、大人しく温厚な一方、縄文の話になると楽しそうに話していた。桃子は五朗の縄文時代の話に徐々に聞きいっていく。その合コンの日に観た、縄文時代と思われる夢のことを思い出しながら…。


 ”青森3部作”の完結編は、「津軽百年食堂」では主人公・陽平の姉、「青森ドロップキッカーズ」ではメガネ店の仕事をしながら、カーリングのリンクの製氷を学び、カーリングもやっていた、あの桃子さんが主人公です。桃子さんが主人公と聞いておおう!と反応してしまいました。今までは主人公たちを支え、笑わせ、和ませる陽気な名わき役。でも、30代にして離婚歴あり。それを自虐ネタで語り笑い話にしてしまう。今作でも、姉御的存在ではあるのですが、これまで語られなかった桃子さんの一面が語られます。自虐ネタにしないと、耐えられなかったんだ、と…。

 そんな桃子さんが出会った、縄文が専門の考古学者・クマゴロウさん。大人しく、照れ屋で、温厚温和。控えめだけれども、縄文のことになるとその魅力について熱っぽく楽しく、初心者にもわかりやすく話す。クマゴロウさんの縄文のお話の部分を読んでいて、私も一緒に惹かれてしまった。

 青森の縄文遺跡と言えば、三内丸山遺跡。青森県立美術館の隣にあるので、美術館に行くと行くことも少なくありません。現代の技術でも建てるのが大変な大型掘立柱。これを縄文の人々はどうやって建てたのだろう?大きな竪穴住居も、中の広さに驚きます。そして、土器や石器、クリを栽培した跡…。今の三内丸山から海は離れていますが、当時は温暖な気候で、海が近くにあったという。そんなこのムラで、人々がどんな暮らしをしていたのか…遺跡を歩きながら、いつも思います。青森には三内丸山だけでなく、八戸の是川遺跡や長七谷地貝塚など縄文時代の遺跡が数多くあります。三内丸山しか行ったことが無かったので、今度は他の遺跡にも行ってみたいな。三内丸山もまた行きたい。見方が変わるかも。この物語では八戸が舞台なので、八戸の縄文遺跡が主に登場します。でも、三内丸山も関係してきます。

 今作のテーマは、「祈りと信じること」、そして「幸せとは何か」だと読みました。物語は桃子さんとクマゴロウさんを中心にした現代も語られるのですが、桃子さんが夢で見たという縄文の話も同時に語られます。足が速く男たちに混じって狩りをする男勝りな少女・ライア。父は天才的なシャーマンだったが、ライアが幼い時に死去。父の才能を受け継いだのか、森などの自然の”息吹”を感じるのも得意だった。しかし、狩りで巨大なイノシシに遭遇し、大怪我を負ってしまう。走ることはおろか、歩くことも不自由になってしまったライア。そんなライアを見守る、族長やきょうだい同然に一緒に暮らしてきた少年・マウルや親友の少女・サラ。これからは狩りは出来ないが、ライアには新しい”使命”が与えられる。そこから、ライアの”祈り”の日々が始まる。ただ、ライアは足の他にも、あるものを失う不安があった…。

 縄文のライアの「祈り」と、現代の桃子さんの「祈り」。何か辛いことがあったり、自分の力だけではどうしようもないことが合った時、普段何気ない時でも、私は「祈る」。でも、「祈る」だけじゃ何も変わらない、行動しなきゃ変わらない…とも思う。実際そうだと感じてきた。でも、「信じる」ことも出来る。シャーマンは自分のことを「祈る」ことは出来ない、他者のことだけを「祈る」ことが出来る。だから、自分のことは「信じる」。行動して、変えることが出来ると「信じる」。その違いに、ああ、と胸にすとんと落ちるものを感じました。

 そして、「幸せとは何か」。これまで、陽気でバツイチの過去も笑って話せる桃子さんの心の奥底にある、ある不安・苦しみ。その過去は誰にも、家族にも話せずにいた。ところが、クマゴロウさんや桜ちゃんと「幸せ」について話してから、その過去にも向き合い始める。「幸せ」と「不幸」は、紙一重のようなもの。クマゴロウさんが言うように、何かが起こって、それを幸か不幸かと決めるのは、人間。その人次第。離婚をして、辛い思いをした桃子さんも、その時は不幸だったけれども、後でそうでもないと思えるかもしれない。よくある話なのですが、この「幸せとは何か」についても、胸にすとんと落ちました。

 読んでいて、とても「幸せ」な、希望を持てる、あたたかい気持ちになれました。クマゴロウさんの人柄のような。桃子さんも、桜ちゃんも、優しい。桃子さんが実家でお母さんと話すシーンも。
 私も、辛いことや先が見えないことばかり、過去にもしこりを持ち未だに赦せないけれども…いつか、何もかも全部丸ごと受け止められるようになるだろうか。なりたい。桃子さんやクマゴロウさん、ライアやマウル、サラたちのように。幸せを、「幸せだ」と、祈って、信じて。

 ちなみに、この前書いたこの記事は、この「ライアの祈り」を読んでのものでした。
「感動する」物語と自分

 あと、この本ですが、お腹がすいている時に読むのは危険です。八戸の美味しいものが次々と…wお酒が好きな方は、美味しいお酒も次々と…w とりあえず、「サンダー・バー」のダイキリが飲みたいです。

 私は2作目の「ドロップ~」から読んでしまいましたが、読むなら1作目の「津軽~」から読むことをオススメします。この「ライア~」だけでも読めないことは無いですが、物語のつながりの面白さが増します。
・第1作:津軽百年食堂
 そういえば、映画版をまだ観てなかった…。
・第2作:青森ドロップキッカーズ

 青森3部作はこれで完結ですが、「津軽~」の美月や正宗、「ドロップ~」の宏海や雄大、柚香・陽香姉妹のその後も読みたかったなぁ。
 あと、ひとつ注文があるとすると、方言の雰囲気があまり感じられなかったのが残念。青森に行くと、ばりばりの津軽弁・南部弁を話す若い人は多くは無いですが、それなりに方言を使ったり、イントネーションは訛っている人は多い。”訛っている感覚・雰囲気”が欲しかったなぁ…標準語のイントネーションで読めてしまった。訛りも、今じゃ大河ドラマも朝の連ドラも訛っている、方言全開だし…。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2013-08-13 23:01 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る






日々のログ:今、ここ、想うこと
または:Twilog

はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ目指して順調に飛行中!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測準備中!

最新の記事

イリジウムフレアを見たくて
at 2017-06-20 22:21
6月はばらの季節
at 2017-06-12 22:49
Im ~イム~ 6・7
at 2017-06-12 22:43
カリグラフィニブが楽しい
at 2017-06-10 22:49
お久しぶりISS
at 2017-06-06 22:23
まだ間に合う!?「GCOM-..
at 2017-05-30 23:26
ライラックの季節も過ぎて
at 2017-05-29 21:55
メロディ・フェア
at 2017-05-17 22:51
日本・デンマーク国交樹立15..
at 2017-05-12 22:18
流れ行く者 守り人短編集 /..
at 2017-05-09 22:51

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
more...

検索