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オリオン星雲 星が生まれるところ +「コズミックフロント」オリオン大星雲へ ハッブルが見た星のゆりかご

 久々に天文書を読みました。


オリオン星雲―星が生まれるところ
C・ロバート・オデール:著/土井ひとみ:訳/土井隆雄:監修/恒星社厚生閣/2011

 今の季節なら22時ごろ、東の空から昇ってくる大きな姿。あと1ヶ月もすれば同じ時間に南東の空に堂々と輝く、冬の星座の”王様”と言ってもいい星座・オリオン座。古くからある星座のひとつ。冬は一等星が多く煌びやかな星座揃いですが、オリオン座にはベテルギウスとリゲルの2つの一等星。オリオンの左肩・ベテルギウスは近年超新星爆発を起こすのではないかと話題になっています。これは私も気になります。いつになるか…それは宇宙のみぞ知ること。ベテルギウスとリゲルだけでなく、星座を形作る主な星ぼしはどれも明るく、都会でも見つけやすい。形もオリオンの腰にあたる”三ツ星”を中心に、鼓の形に並んでいる。こんなに形の整った星座はそんなに多くない。
 私も、冬が近づいて、オリオン座を見つけると見惚れてしまいます。

 そして、”三ツ星”の下にある散光星雲・オリオン大星雲(M42)。地球から1500光年のところにある明るい星雲で、暗い夜空なら肉眼でもぼんやりとした光を確認できます。双眼鏡でも、天体望遠鏡(小口径でも大口径でも可)でも楽しめる、最も観やすくメジャーな星雲。カメラでの撮影も、コンパクトデジカメでも淡く撮影できますし、一眼レフなら本格的に。初心者の天文ファンでも観測しやすい星雲ですが、プロの天文学者にとっても、星が生まれる現場を観測しやすい星雲として注目の的になり続けています。世界中の大望遠鏡も、必ずと言っていいほどオリオン大星雲を観測・撮影します。

 そんなオリオン大星雲に魅せられた天文学者の著者が、星が生まれる現場としてオリオン大星雲を観測し続け、その研究をまとめたのがこの本です。オリオン大星雲の観測の歴史や、観測のための望遠鏡の開発の歴史、撮影のための天体写真の歴史も語られます。また、星雲とはどのような天体か。恒星とは何か、恒星はどのように生まれるのか、という内容も。これらを踏まえて、オリオン大星雲の姿に迫っていきます。

 と、本の内容に入りたいところですが、専門書のため、私には難しい、わかりにくいと思った箇所も多かった。難しいなぁ…と思っていたら、なんとNHKBSプレミアム「コズミックフロント」で、オリオン大星雲とオデール博士の研究について取り上げると。観たらまさにこの本そのものの解説になってました。ありがとうNHKさん、ありがとうコズフロスタッフさん!ということで、「コズミックフロント」の内容も含めて書きます。
NHK宇宙チャンネル:コズミックフロント:オリオン大星雲へ ハッブルが見た星のゆりかご
(2013年10月31日放送、再放送11月4日(月)夜11:45~翌日午前0:45)

 著者のロバート・オデール博士は、ハッブル宇宙望遠鏡の発案者のひとりであり、NASAに入りプロジェクトを推進、望遠鏡の開発にも関わった方。ハワイのマウナケアにあるすばる望遠鏡をはじめとする望遠鏡群など、空気が薄い=大気のゆらぎが出来るだけ少ない高山に天文台が建設され、観測を続けていますが、それでも大気は存在し、天体をより鮮明に観測するのは困難。そこで、ライマン・スピッツァー博士とともに宇宙望遠鏡を発案。当時は宇宙に望遠鏡を打ち上げるよりも、地上にいくつもの天文台をつくったほうがいいのではないか、という意見少なくなかったが、1977年、ハッブル宇宙望遠鏡の開発がスタート。そして1990年、スペースシャトル(STS-31)でハッブル宇宙望遠鏡は打ち上げられたが…。なんと、天体の光を集める主鏡のゆがみを測定する装置が、0.0003mmずれていて、主鏡がゆがんだまま打ち上げられてしまっていた…。観測した画像も、ぼんやりと鮮明にならない。その後、1993年・STS-61で、ゆがみを修正する装置をハッブルに取り付け、見事修復。このハッブルの開発や打ち上げ後、ゆがみが発覚し原因をつきとめるあたりの裏話も語られています。これで観測が出来ると思ったら…今度は、オデール博士に観測の機会が与えられない。発案し、プロジェクトに関わり開発したのに…というのは、オデール博士もハッブルを使う研究者を選ぶメンバーに入っていたため、選考される側には入れなかった。ここで、天文学者たちからオデール博士にあるプレゼントが…。このあたりは、天文学者たちのあたたかさに感激します。

 そして、ハッブルが捉えたオリオン大星雲の姿。星雲の中にある、とりわけ明るい4つの星「トラペジウム」。そのトラペジウムの輝きがオリオン大星雲を明るく照らしだしているのですが、その中に、星が生まれている瞬間も捉えられていた。生まれたばかりの恒星が、まだガスの中にあり、そのガスにはチリも含まれ惑星のもととなる。そんな原始惑星系円盤、博士が名づけた「プロプリッド」の数々と、その姿に違いが出る仕組みがまた面白い。
 番組では、オデール博士が教室にオリオン大星雲とトラペジウムの一番明るい星・C-1とプロプリッド、星雲から伸びている薄いガスの膜・ベールを簡単なセットを使って解説。わかりやすかった。

 このプロプリッドの姿の違いに関係してくるのが、オリオン大星雲の立体地図。天体を撮影した画像は、平坦な2次元。奥行きや、凹凸はわからない。でも、実際には凹凸があり、特に星雲のガスは起伏に富んでいる。地球からは見えないけれど、確かにあるであろうその起伏、3次元を計算などによって再現。オリオン大星雲の立体地図も作ってしまった。トラペジウムとプロプリッド、プロプリッドの中の原始星が放つジェットと衝撃波、トラペジウムの斜め下にある濃いガスのかたまりの中では、もっと沢山の星が生まれていること。ハッブルが出来て、ハッブルでの観測があったからこそ出来たこと。あのぼんやりと見える星雲のなかで、こんなにダイナミックな星の動きがあるとは驚きです。
 番組で再現された、立体地図のCG…思わず魅入ってしまいました。手作り飛行機でアクロバット飛行が得意だった博士が、オリオン大星雲の中を飛べるなら、跳んでみたい、飛んでみたらどう見えるのか…というところから始まった立体地図づくり。こんな煌びやかな星の中を飛べるなら、私も行ってみたいと思わずにはいられませんでした。

 まだまだ、オリオン大星雲では星が生まれている場所があり、研究中。その研究には、元宇宙飛行士・現在は国連宇宙部職員の土井隆雄さんも。この本の監修をされています(訳者のひとみさんは奥様)。宇宙飛行士の訓練の傍らオデール博士のもとで学び、観測し、論文を書いた。その論文の内容がまたすごい。

 トラペジウムの右上の方にある、赤外線の強い2つの天体(領域)…ベックリン・ノイゲバウアー天体とクライマン・ロー天体(合わせて「BN-KL領域」)は長年謎の領域だったが、その星雲の動きを示す地図を初めて作成。また、天体が過去に爆発してそのガスやチリが吹き飛ばされて広がり、新たな星の材料になりつつあることも解明。元々天文ファンで、宇宙飛行士になってからも天体観測を続け、ヒューストン郊外に自家用天文台もつくり、訓練の合間に観測をして超新星を2個発見。そして極め付けがこの博士論文。勿論、1997年のSTS-87では日本人初の船外活動、2008年のSTS-123では「きぼう」日本実験棟の船内保管室をISSに取り付け、と宇宙飛行士としての仕事も素晴らしいのですが、この番組に宇宙飛行士というよりは、オデール博士の教え子の天文家(博士論文も書いてますし天文学者と呼んでも構わないですね)として出演されてたのがまたすごい。
(しかも今は国連で宇宙利用とその平和利用について、途上国を中心にまわり話している。同じ”宇宙”に関わるとはいえ、宇宙開発、有人宇宙飛行、天文学、社会面での宇宙利用について…どれも全然違う。それをどれも深く広く実践、行動し続けているのは本当にすごい。)

 著書の最後では、オリオン大星雲に生まれた惑星系には生命は存在するかについても。オリオン大星雲を研究することで、宇宙にある様々な謎を研究、解明できる。オリオン大星雲の魅力に、私も惹かれました。オリオン座の観やすい季節になったら、オリオン大星雲を双眼鏡や望遠鏡で観てみよう。まずは自分の目で観る。そこには、この本に書かれていた(+「コズミックフロント」で放送された)生まれてきた星たちが輝いているのだなぁと、きっと思います。

 そして、オデール博士が発案・開発に加わったハッブル宇宙望遠鏡も、2009年に最後の修理ミッション(STS-125)を行い、寿命は2014年と考えられている。来年なのか…。
 ちなみに、ハッブルのあとを継ぐ「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(JWST)は2018年打ち上げ予定。可視光のハッブルとは違い、赤外線で宇宙の初期の状態を観測する望遠鏡。しかし、機器の開発や予算で、難航中。何とか無事に打ち上げられ、運用が始まって欲しいところです。

 本の内容だけだと難しいので、「コズミックフロント」で放送された内容も加えました。この本を読む時は是非、番組も一緒にどうぞ。再放送は、11月4日(月)夜11:45~翌日午前0:45。読む予定の方は是非録画を。本を読む予定は無くても、番組だけ観ても楽しめます。本を読めば、もっと詳しい専門的なこともわかります。オリオン大星雲をはじめ、様々な天体のカラー画像も満載なので、画像を観るだけでも楽しめます。
 ちょうどいいタイミングに読めてよかった…。

オリオン星雲 星が生まれるところ +「コズミックフロント」オリオン大星雲へ ハッブルが見た星のゆりかご_f0079085_23132462.jpg

 三ツ星の下の”小三ツ星”のあたりがぼんやりしているのが、オリオン大星雲です。今シーズンは望遠鏡で観よう。

※2013.11.5加筆修正しました。読み返したら誤字脱字ばっかりだった…。
by halca-kaukana057 | 2013-11-01 23:16 | 本・読書

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