いつの時代も星を見上げる、願いをかける NHKオーディオドラマ「天空の道標」

 この頃、ラジオドラマを聞く機会が多いです。先週土曜に、NHKFMで放送されたラジオドラマを聞きました。天文にまつわるお話なので、「宇宙・天文」カテゴリに入れておきます。

NHKオーディオドラマ:天空の道標(みちしるべ)
(作:井出真理、音楽:大谷友介、演出:上田明子、出演:森迫永依、渋谷はるか、内野謙太、阿久津秀寿、他)
 東京に暮らす絹田琴子(17)は祖父・勇から古い日記帳を託される。書いたのは勇の姉・久子。久子は1945年7月6日、疎開先の甲府で空襲に遭い17歳で亡くなっていた。七夕前夜、墓参りに訪れた甲府で琴子が出会ったのは、戦争に見舞われた恋人たちと、二人をつないだ星の物語。青年は爆撃機の位置を星によって知り命をつなぎ、少女は青年の無事を祈り星の高度を計算した。旧日本海軍の爆撃機が天体を道標にしていた史実に基づき、“人を殺すための道具”ではなく“希望を託せる輝き”として星を見つめられる「今」のかけがえのなさを改めて考える。

*この番組は、山梨県立科学館が制作したプラネタリウム番組「戦場に輝くベガ~約束の星を見上げて~」(脚本:高橋真理子・跡部浩一)をもとに創作したものです。


戦場に輝くベガ 上映実行委員会

 プラネタリウム番組が原作の、ラジオドラマ。こと座の一等星・ベガ(織姫星)がメインの、天文のラジオドラマということで聴いてみました。

 50分の番組ですが、ずっと涙腺が緩みっぱなしでした。プラネタリウム版はこのラジオドラマとはちょっと違うのかもしれませんが、こんな涙目ではプラネタリウムの投影も観られないじゃないか…と思うぐらい涙が止まりませんでした。

 星を観るのが好きだった和夫と、和夫を慕ういとこの久子と、久子の弟の勇。和夫は海軍に入り、爆撃機が予定の航路を飛べるように星の高度を測る天測をする偵察員を志す。和夫が久子に偵察員の任務について説明した時、かつて一緒に見上げたこと座の一等星・ベガも天測に使うと聞き、久子はいつでもベガを見上げて和夫の無事を願う。久子も、学徒動員で偵察員の天測のデータとなる「高度方位暦」を作ることになる。和夫と久子は手紙のやり取りをし、ベガを見つめ、お互いの無事を願うのだった。

 夜間飛行のための天測に、北極星以外の星も使うことを、このラジオドラマで初めて知りました。高度方位暦があれば、時間によって動く星でも現在位置を割り出す目印となる。そして、それは、戦争中、戦闘機・爆撃機の飛行にも使われた。和夫は爆撃機に乗り、偵察員として星を観ていた。だが、それは天体観測をするため、ただ飛行機を操縦・誘導するためではなく、戦争のため、敵の基地を爆撃するために。出撃し、敵の基地を爆撃した際、ベガを観て、星を戦争の道具にしている自分の姿はベガにどう見られていたのか、ベガに見つめ返されているような気がした…と、久子の墓参りをした際琴子と出会った老いた和夫は語る。
 この時、琴子が和夫に言った言葉が印象的だった。書き起こします。
星を戦いの道具にするのも、星に願いをかけるのも、それは見上げる人間次第。
ベガは無心にただ輝いていたんじゃないですか?
だから、見上げる人間の心の奥に届くんだろうなって、
久子さんの日記を読んでて思ったんです。
久子さんにとって、ベガはずっと希望の光だったんだから。

 星だけじゃない。その時の社会情勢などによって、ものの見方は変わってくる。天動説が絶対的に信じられた、地動説なんて認められない時代もあったし、フォン=ブラウンの話にあるようにロケットも戦争中はミサイルとなった。戦争中、星は戦争の道具にもなったが、久子のように和夫の無事を願う希望の光でもあった。戦争に赴く人の無事を祈る…当時は表向きには出来ない感情であったが。死んでも戦果をあげるのが任務。それでも…久子にとっても、和夫にとっても、ベガはお互いの無事を願う星だった。

 久子の最後の日記にも、こう書かれている。書き起こします。
地上で何が起ころうと、
ベガの光は変わらずに私に希望を届けてくれます。
和兄さんが、きっとご無事で帰ってくることでしょう。
またいつか甲府の家の庭先で、和兄さんと肩を並べて、
満天の星空を見上げられることでしょう。
このベガの光が、和兄さんにも届きますように。

 山梨県立科学館でプラネタリウム版の制作をした高橋真理子さんのウェブサイトに、こう書かれています。
プラネタリウムを仕事としている身としてずっと命題でありつづける「何故人は星を見あげるのか」という問いに対する解の一つを、この番組を通して見出したように思う。

Malicosmos website:programより

 人が星を見上げる理由。それは人それぞれだと思う。でも、誰かを想い、誰かのことを願い、祈る。生きる希望となる。地上では毎日様々なことが起こる。悲惨な災害、事件事故、政治や社会の大きな動き。今も戦争をしているところもある。大きな悩みもあるし、小さいけれど辛いことには変わりの無い心配も絶えない。人間の世界はどんなに変化しても、天空の星は(大きな天文現象が無ければ)ひとりの人間が生きている間ぐらいは変わらずに輝き続けている。震災の日の夜、停電して真っ暗になった町の空に、きれいな星空が見えて元気付けられたという話も聞く。私も星・天文・宇宙が好きだから、という理由もあるが、星を観ていると元気になれる。悩んでいることも、その日の失敗や辛かったことも、星を観ている間は忘れて魅入っている。そして、また地上の生活に戻ろう、がんばろうと思える。それは、戦時中も変わらなかったのだな…。そう思うと、こみ上げてくるものがある。

 自分はどうも最近、戦時中・戦後のことを描いた物語に縁があるらしい。戦時中のことは、家族から聞く機会もありました。当時、辛い想いをした人々、犠牲になられた人々のことを想い、悼みます。そして、その歴史の上に今私は生きているんだ。戦時中のことは決して忘れてはならない。そう強く思いました。

 プラネタリウム版が出来た後、この物語は小説にもなりました。

戦場に輝くベガ ―約束の星を見上げて

鈴木一美、浅野ひろこ /一兎舎/2011


 久子が学徒動員で作っていた高度方位暦についても。

聖マーガレット礼拝堂に祈りが途絶えた日 ―戦時下、星の軌跡を計算した女学生たち

神野正美/潮書房光人社/2012



※小説版も読みました:【小説版】戦場に輝くベガ 約束の星を見上げて
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by halca-kaukana057 | 2013-11-12 22:25 | 宇宙・天文


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