思惟する天文学 宇宙の公案を解く

 アイソン彗星が見られないので、天文関係の本を読む。かなり深い本です。


思惟する天文学 ― 宇宙の公案を解く
佐藤勝彦、池内了、佐治晴夫、渡部潤一、高柳雄一、平林久、寿岳潤、大島泰郎、的川泰宣、海部宣男/新日本出版社/2013

 この豪華執筆陣!天文雑誌「スカイウォッチャー」に1994年から2000年にかけて掲載された「宇宙の公案Ⅰ」と、「スカイウォッチャー」の後継誌である天文雑誌「星ナビ」(アストロアーツ)に2012年に掲載された「宇宙の公案Ⅱ」を書籍化したもの。「星ナビ」で読んで、とても面白いなと思っていたのですが、読み逃がした記事もあり、書籍化されたらいいなぁと思っていました。書籍化して嬉しいです。

 「思惟(しい)」とは、「思考」、哲学では感性や意欲とは区別される。「公案」とは禅宗において修行者が悟りを開くための課題として与えられる問題のこと。禅の祖師達の具体的な行為・言動を例に取り挙げて、禅の精神を究明するための問題。これを、宇宙・天文に置き換えて、宇宙天文の様々な分野で活躍する研究者・専門家の先生たちがそれぞれに問題を提示し、それについて考えを書き綴ったのが「宇宙の公案Ⅰ」。その10数年後、再び同じテーマ・問題について考え書き綴ったのが「宇宙の公案Ⅱ」。
 10数年も経つと、肩書きも研究している大学や機関にも変化があるし、世の中も、宇宙・天文についても変化している。寿岳先生は、2011年に他界されてしまった。そんな変化の中で、天文学者・宇宙科学・工学者たちは、宇宙をどう捉え、何を考えているのか。それを垣間見ることのできる本です。

 宇宙・天文は、とても幅の広い学問だ。天文学から宇宙科学・宇宙工学・宇宙開発まで。天文学も、観測するものから、スーパーコンピューターの計算で星や銀河、宇宙の成り立ちを研究する理論天文学、宇宙がどのようにできたか、何で出来ているのかを探る宇宙論、ニュートリノやヒッグス粒子などのミクロの世界からマクロな宇宙を探る素粒子天文学…細分化しようと思えばどんどん出てくる。地球以外の星に生命はいるのか、異星人はいるのか…これは宇宙生物学の研究対象。観測方法も、可視光から赤外線、X線、電波と専門は細分化されている。宇宙・天文とひとくくりにはできるけど、その中は、まさに広大な宇宙のように広く、深い。全てを包んでいる。

 読んでいて思うのが、宇宙を研究していると、つまるところ、「人間とは何か」「生命、いのち、生きているとは何か」「過去、現在、未来…時間とは何か」「宇宙はどこから始まって、どこへ行くのか」「この宇宙の中で人間とはどういう存在なのか」「科学とは何か」「宇宙を見るとは何か、どういうことか」「自分自身は何者か」…こんな哲学的な問題に行き着いてしまう。人間は宇宙の中では、ちっぽけな存在なのに、宙を見上げて、沢山の星ぼしを見上げては、そんなことを考えてしまう。広い宇宙の片隅で、ちっぽけな存在の人間が、宇宙の謎に近づこうと日々研究を続けている。新しい発見の度に「宇宙の謎の解明に一歩近づいた」という言葉が出てくる(私も使っている)。でも、新しい発見が見つかれば見つけるほど、また新しい謎も見つかっている。どんどん宇宙の深いところへ進んで行っているような気持ちになる。その先に、何があるのかは、わからない。

 宇宙は、私たち人間が住んでいるところ。空間も、過去・現在・未来の時間も、全てこの宇宙の中にある。宇宙の外側がどうなっているのかなんて、観測もできないし捉えることもできない。宇宙の中で、宇宙のことを考えている。宇宙の様々な姿を見ようと、新しい観測機器を開発して、様々な方向から観測も続けている。ただ、この宇宙がどうなっているのかを知りたいだけ。それは、すぐには役に立たない、それで生活は何も変わらないかもしれないけれど、渡部先生が書いている通り「長期的かつ巨視的な視点を与えてくれる」(107ページ)。

 広大な宇宙を前にして、自身の問題に取り組んでいる先生方の思考の言葉の深さ。読んだ後、私の「宇宙の公案」は何だろう?と思う。私は宇宙天文の専門家でもない。アマチュア天文家というレベルではない。星を見るのが好き。星座の成り立ちや、星や天文の文化史…野尻抱影に代表される星の民俗学にも関心がある。広範囲な天文学に興味があり、宇宙開発・宇宙工学にも興味がある。ただ、宇宙のこと、天文のことをもっと知りたい。面白いから。星・天体を観るのは楽しい。彗星や流星群、オーロラや日食・月食を観られるなら観たい。星空の中、探すのも楽しい。ロケットの打ち上げも観たい(あの轟音、空気感を味わいたい)。行けるなら、宇宙に行ってみたい(でも加重力が苦手…不安ではある)。ただ、宇宙天文が好きなだけ。

 そんな私にとっても、「宇宙の公案」はあるような気がしている。実際上記したような、つまるところ哲学的な疑問を、星を見ながら、天文学の本を読みながら考えることはある。例えば、アイソン彗星は、今地球から見える位置までやってきたが、また遠ざかっていってしまったら、もう二度と再会できない(非周期彗星)。アイソン彗星がこれまで飛行し続けてきた時間と距離、そして近日点を通過して、まだ彗星が残っていたら、これからどこへ向かうのか。そこへ向かうまで、どのくらいの時間がかかるのか。また、遠くの天体の光は、今のものではなく過去のもの。100光年先なら、光の速さで100年かかる距離。100年前の光を私たちは今観ているのだけれども、でも私たちにとっては”今”でしかない。過去と今現在が一度に”存在している”。この時間の不思議さ。宇宙を見れば見るほど、様々な謎が見つかる。それは、「自分自身とは何か」という問いに繋がるように思える。

 天文学について高度なことも書いてありますが、哲学的な視点からも楽しめる本です。第一線で活躍されている先生方の日常のひとコマのような写真もあって、親しみやすくも感じます。先生方と一緒に、「宇宙の公案」について考えてみる。その答えは、この本を読んだだけでは出ないと思うけれども、宇宙の深さ・広さの中に自分も生きているんだと思えます。それが答えなのかもしれない。
 この本はどうぞゆっくりと読んでください。
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by halca-kaukana057 | 2013-11-23 23:06 | 本・読書


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