作品と人とエピソード・物語

 今朝、起きて携帯でニュースをチェックして驚いた。佐村河内守氏のニュース。ゴーストライターが作曲していた、という。世間では様々な反応があり、沢山の、様々な意見や批判が飛び交っている。私も朝からもやもや、ぐるぐると考えています。明日には、そのゴーストライターだった新垣隆氏の会見が行われるそうだ。その会見の内容で、また色々と考えてしまうだろう。明日、その会見の内容を知る前に、自分の中で「更新」されてしまう前に、今思っていること、考えていることを書きとめておきたい。

 この記事で私は誰かを批判するつもりは無い。両氏も、佐村河内氏のことを伝えたメディアも。ただ、私の中で、私自身に対して、ぐるぐると渦巻いているモヤモヤを、自分にとっての問題として、書き留めておきたいのです。

 「交響曲第1番<HIROSHIMA>」は、Eテレ(NHK教育)で全曲放送されたのを聴いて、そのあとCDで聴いた。日本人作曲家のクラシック音楽の現代作品、しかも交響曲という堅物が話題になっている。何だそれ。私の行動圏内のCD売り場では片隅に追いやられているクラシック音楽。しかも交響曲で、現代作品が。ちょっと信じられない。一体どんな曲なんだろう?メディアで取り上げられる度に気になって、丁度いいタイミングで全曲放送があり、CDも聴いてみた。現代作品の交響曲…いわゆる前衛的な作風の曲は得意ではないので身構えていたが、全く違った。メディアでは全聾ということでベートーヴェンを引き合いにしていたけど、雰囲気は後期ロマン派。暗・闇に浮かび上がる明の音がいいなと思った。暗・闇の部分は、私には結構重めで辛いなとは思った。

 ただ、この「交響曲第1番」を聴いた時、私は佐村河内氏のドキュメントを観た後。全聾で、体調不良にも悩まされ続けている状態で作曲活動をしている。作曲の背景も知っていた。ドキュメントで観た内容は頭の中にあって、少なからずその影響はあったことは否定できない。

 私は、音楽そのものではなく、人・人の物語をみて・聴いていなかったか。
 誰かが何か作品を生みだし、つくる。
 それを私は、その作品そのものをみて(聴いて)いるのか、それとも作品をつくった人をみているのか。
 作品や人の背景にあるもの、エピソードや物語に引っ張られていないか。

 twitterでも話題になっていることでしたが、そんなことを、朝からずっと考えていました。自分の問題として。

 ベートーヴェンは、耳が聴こえなくなっても作曲し、その代表曲が「交響曲第9番」、いわゆる「第九」。第九は大好きな作品で、12月になれば何だかんだ言って聴きたくなる。大晦日のN響の第九は欠かせない。その一方で、まだ耳が聴こえていた頃の作品、若い頃の作品も、やっぱり好きだ。今この記事を書く前に、NHKFMで「ピアノ協奏曲第1番」を放送していて聴いた。ピアノ協奏曲でも第1番を聴くのは実は初めて。3番が特に好き、次に4番も好きなのだが、1番もいいなと思った。若々しい、明るくエネルギッシュなベートーヴェン。
 ベートーヴェンが”第九”などの後期作品を生み出したのに、耳が聴こえなくなったことは関係がある、影響があるかもしれない。苦悩から歓喜へ。そのエピソードがあっても”第九”は素晴らしい作品だと思うし、エピソード無しでもやっぱり感動すると思う。苦悩しながら理想の音を探して、これだと見つけた歓喜のメロディーをオーケストラだけでなく、4パートのソリストと合唱付きで高らかに歌う。歌が入るとテンションが上がる。この”歓喜の歌”の歌詞や日本語訳を知っているかどうかでも、また違ってくると思う。知らなくてもあの熱気だけで伝わるものはあるし、歌詞やその意味を知れば「そうだったんだ」と思うことも多くなる。

 他の作曲家・作品でも、様々なエピソード・物語がある。国、時代、作曲の背景や、作曲家の人間関係、置かれていた状況など、背景を語ろうとすれば次々と出てくる。
 私の好きな作曲家で語れば、シューマンにとって妻・クララは音楽作品においても無くてはならない存在だし、シベリウスがフィンランドの作曲家と聞けば、フィンランドの自然や四季、特に厳しい冬やその冬から春の訪れ、森と湖をイメージする。交響詩「フィンランディア」もロシアから独立しようとするフィンランド独立運動が深く関係している。

 または、演奏家の場合。ハンディがあっても演奏活動を続けている演奏家や、賞をとって有名になる演奏家も少なくない。例えば、ピアニストの舘野泉さん。脳出血で倒れ半身不随になり、復帰後は左手だけで演奏する「左手のピアニスト」として有名だ。舘野さんのことを知ったのも、その復帰後、左手の演奏がメディアに取り上げられていたことがきっかけだった。ただ、CDでも、コンサートで生の演奏を聴いた時も、これは左手だけだろうが両手だろうが関係ない。ひとりのピアニスト・人間が、美しい音楽を奏でている。そう思った。その後、倒れる前のCDも結構聴いた。どちらも素敵で、好きな演奏だ。

 その一方で、ハンディがある、有名な賞をとった、ということを意識し過ぎてしまって聴こうとしない演奏家もいる。多くの人が飛びついているのを静観したいだけなのか、流行に乗っているようで気恥ずかしいだけなのか…。多分後者だと思う。

 こんな風に、作品にも、作曲家や演奏家にも、エピソード・物語がついてまわる。どこかに人・人の物語をみていることは、否定できない。音楽だけを純粋に聴く、ということは出来るのか。今回のケースのような強めのものもあるし、国や時代・時代背景のような音楽史の基礎知識のものも、背景としてエピソード・物語になる。何の知識も情報も無しに、偶然聴いて気になった…そんな状況でないと、純粋に音楽だけ聴くなんて無理だ。非常に難しい。後から作曲者を調べて、それがまた背景・エピソードになるわけだし…。

 作品や人についてまわるエピソード・物語が悪いのか…そうとも限らない。エピソード・物語がきっかけで興味を持った、聴いてみて好きになった、もっと聴きたいと聴くようになった。そんなこともよくある。そんなことの方が多い。

 今度、旅先で古くからの友人と会う予定なのだが、その時、その会う場所の近くで、クラシックのコンサートがあるのを知った。私の好きな曲ばかりで、しかも私の行動圏内ではなかなか聴く機会がない曲ばかり。せっかくだから聴きに行きたい。友人たちにも声をかけたのだが、友人の中にクラシック好きな人はおらず。コンサートに私が行くことは了承を得たのだが、このままだとひとりで行くことになりそうだ。コンサートに行く時は大体ひとり。せっかく友人と会っている間なのだから、一緒に聴きたい。と言うことで、魅力をプレゼンしてみたのだが、残念なことに反応は皆無。超有名作曲家・超有名曲や、エピソード・物語・訴えるものの強い曲ならな…とも思った。決して魅力のない曲ではないのに。超有名曲ではないけど、魅力を語ろうとすればどんどん語れる。しかし、クラシック初心者にいきなり熱弁しても引かれるだけなので、そこまでは出来なかった。

 わかりやすく強いエピソードや物語があれば、それまで興味を示さなかったようなことにも興味を持つかもしれない。人それぞれではある、どんなに語っても何の効果も無い場合もあるけれども。

 エピソードや物語は、関係あってもいいけど、無くてもいい。これが今現在の私の考えていることだ。エピソードや物語があるから、その作品やその人のつくるものは素晴らしい…という見方はおかしいなと思う。あってもいいし、無くてもいい。どちらでも聴ける、聴いていいなと思えるなら。

 ただ、その背景・エピソードや物語によってつくられる人物像から、その人の作品・言ってること・やることだから心動かされているということも、ある。これも否定できない。
 いくら好きな人でも、言っていることで時々、いやこれには納得できないと思うことはある。この作品はちょっとわからない、ピンと来ない。そう思ったら、それは大事にしたいと思う。「その人だから」という考え方にも引っ張られないように。

 音楽に限らず、文学でも芸術でも文化でも、学問・学術研究でも、これからオリンピックも始まればスポーツも、作品(研究内容・試合内容・結果)やその人の背景、エピソードや物語が語られるだろう。つい先日も、学術研究でそんなことがあったのを思い出す。その時は、ニュースそのものをちゃんと見ておらず、研究内容も詳しいことはわからず、そんな状況でも報道批判だけがどんどん流れてきて、何が何だか、参ってしまった。それがようやく落ち着いてきた頃に今度は…。
 今回は参ってはいないけれども、思うことは色々あります。ゴーストライターがいると判明した後の報道や人々の反応に思うことはあります。でも、今は私が考えたことだけ書きました。

 カテゴリは音楽のはずですが、音楽に限らないので考えたことカテゴリにしました。
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by halca-kaukana057 | 2014-02-05 23:04 | 日常/考えたこと


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