時の旅人

 先日読んだ、上橋菜穂子さんのエッセイ「物語ること、生きること」の中で上橋さんが子どもの頃に読んだ作品として紹介されていた本です。気になったので読みました。
物語ること、生きること


時の旅人
アリソン・アトリー:著/松野正子:訳/岩波書店・岩波少年文庫

 ロンドンに住む夢見がちな少女・ペネロピーは体が弱く病気がち。療養のため、ペネロピーは母方の親族が暮らしている田舎のサッカーズ農場へやってきた。サッカーズ農場には母方の先祖が代々暮らしており、現在は大おばのティッシーおばさんと、バーナバスおじさんが暮らしていた。ティッシーおばさん・バーナバスおじさんにあたたかく迎えられたペネロピーは、自然豊かな農場での暮らしを好きになる。そして、ティッシーおばさんの家系が代々暮らしてきた屋敷が、かつて16世紀にはアンソニー・バビントンという領主の屋敷だったことを知る。そのアンソニーは、幽閉されていたスコットランド女王であるメアリー・スチュアートを逃がそうとして、メアリーの従妹であるエリザベス1世によって処刑されてしまう。
 その話に興味を持ったペネロピーは、ちょっとした偶然から、16世紀のバビントン屋敷に迷い込んでしまう。そこで、屋敷に仕えていたティッシーおばさんの祖先であるシスリーおばさんの姪として、ペネロピーはバビントン屋敷で働くことになる。アンソニーやアンソニーの奥方、アンソニーの弟のフランシスたちと心を通わせながら、ペネロピーはアンソニーとメアリーに起こる悲劇への過程を見つめる…。


 岩波少年文庫としては厚めで、内容も現在(20世紀初めごろ)と16世紀を行き来し、イギリスの歴史が絡んでくる読み応えたっぷりの本でした。

 あらすじの通り、タイムトラベルものなのですが、何か決まったことをすれば過去へ行ける、というものではない。今と過去が重なっていて、片方の時代の声や音楽、人々の影などが聞こえたり見えたりする。最初は普段とは異なる屋敷のドアを開けると過去に入りこんでいたペネロピーも、だんだん何もしなくてもいつの間にか過去にいた、というように現在と過去を行き来するのが面白い。

 旅行で歴史的建造物・史跡や、私の住んでいる町にある歴史を知ることのできる場所を訪れると、その当時ここはどんな場所で、どんな人々が暮らしていたのだろうか、と想いをめぐらすことがある。歴史上の人物が暮らしていた場所となれば、その人物や家族、周囲の人々は普段はどんな暮らしをしていたのだろうか。歴史に残る大きな出来事が起こった場所ならそのことも想うが、同じようにその出来事が起こるまでの過程や、起こった後のこと。21世紀の現在に至るまで、この場所はその歴史をどう伝えてきたのだろうか…そんなことを想う。なので、歴史を感じられる場所は大好きです。

 この物語の舞台となるサッカーズ農場・バビントン屋敷は、普段はティッシーおばさんたちが暮らしている屋敷・農場。しかし、500年前にはイギリスの王位継承をめぐる出来事があった場所でもある。その場所に、過去もあり、現在もある。ペネロピーは過去へ行くことが出来るが、好きなように、ペネロピーの意志で行けるわけではない。過去に行きたくても、行けないのだ。そして、アンソニーやメアリーに起こることを知っている。アンソニーがどうなってしまうか、知っているけれども変えることはできない。時間はどんどん過ぎ行き、事件へと向かってゆく。それでも、ペネロピーはこの時代が好きになり、アンソニーやバビントンの奥方様、フランシスたちと信頼関係を築いてゆく。特にフランシスとはとても親しくなる。物語が進むに連れて、その時間の流れが切なく、つらい。

 この物語はイギリスの歴史だけでなく、イギリスのキリスト教(メアリーやバビントン一族はカトリック)、20世紀初めごろと16世紀のイギリス文化・芸術・民俗も絡んでくる。理解しきれていないところも多いまま読んでしまったのだが、それでも面白かった。何より、サッカーズ農場の自然の美しさ。さまざまなハーブが生い茂り、そのハーブを使って料理をする。川で魚を釣り、農場の牛の乳やそれで作るバター。自然豊かな暮らしの描写に惹かれた。身体が弱く病気がちだったペネロピーも、そんな自然の中で、更に16世紀の世界で元気を取り戻してゆく。こんなところで暮らせたらなぁ…と思ってしまった。

 過去はただ過ぎていってしまったわけではない。今現在でも、場所がその過去を記憶している。また、イングランド民謡「グリーンスリーブス(Greensleeves)」が過去と現在を繋ぐ鍵となっていて、作中でも何度も歌われる。ロンドンで流行っている歌とフランシスが歌うシーンがあるのだが、調べてみたら、実際16世紀ごろに生まれた民謡だった。その歌詞を読むとまた切なくなる…。これまで何気なく聴いてきたが、これからはこの物語無しには聴けそうにない。



 最後に、ペネロピーがフランシスに語った言葉が印象に残っているので、引用します。
「私は未来の者、未来に生きている者なの」と、私はもう一度いいました。「そして、未来は私たちのまわりにあるの。ただ、あなたには見えない。私は過去の者でもあるの。過去にも生きているのよ。だって、こうしてあなたと過去を共にしているのだから。未来も過去も、両方ともが”今”なのよ。」
(177ページ)

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by halca-kaukana057 | 2014-02-27 21:47 | 本・読書


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