アバドのたのしい音楽会

 先日亡くなられた指揮者、クラウディオ・アバド(Claudio Abbado)。その訃報が流れた時に、この本の存在を知りました。アバドの演奏と共に読んでみました。


アバドのたのしい音楽会
クラウディオ・アバド:文/パオロ・カルドニ:絵/石井勇・ 末松多壽子:訳/評論社・児童図書館・絵本の部屋/1986

 アバドが子どもたちに音楽の魅力や楽しさを優しく語りかけている本です。音楽一家に生まれ、子どもの頃から音楽に囲まれて暮らしていた。ヴァイオリニストの父の演奏、更にはミラノ・スカラ座オーケストラを聴いて感動し、指揮者になりたいと決意。それからピアノを習い始め、家族でも、様々な機会でも演奏をし、そして指揮者になった。
 後半は室内楽やオーケストラの規模や仕組み、楽器の種類とそれぞれの個性、指揮者の役割、オーケストラやオペラの練習と本番など、詳しく親しみやすく説明してある。


 ヴァイオリニストの父が練習・演奏するのをそっと見て、聴いていた。その父がヴァイオリンを演奏している時の表現が素敵だ。
ある日、魔法のような音にひかれて、居間にそっと近づいてみると、ドアがちょっと開いていて、なにかぼくにはわからない言葉でバイオリンに話をさせているパパが見えた。それは、とても美しい言葉だった。ぼくは、ドアのかげにかくれたまま黙って聴いていた。パパとバイオリンとの魔法の対話を邪魔してはいけないと思ったからだ。
(4ページより)

 そしてミラノ・スカラ座でのコンサートを聴いて、指揮者になると決意し(後に本当にミラノ・スカラ座を指揮する指揮者になってしまうのだから凄い)、ピアノを習い始める。ある日父のヴァイオリンの伴奏をすることになった時の話も印象深い。思うようにいかない。ヴァイオリンについていけない。その時、父がこう教えてくれた。
誰かといっしょに音楽をやるときには、自分がうまく弾けるとか、よい耳を持っているとかいうことはそれほど重要ではない。音楽的”対話”のある伴奏とは、その会話を感じとり、受けいれ、その神秘的な意味の端々まで完全に理解することなのだ。音楽においても日常生活においても、ほかのひとの言うことに耳を傾けることが最も大切なのだ
(15ページ)

 父が大事にしていた音楽的”対話”。耳を傾け、意味を理解しようとする。音楽というものを、とても神聖な、手で優しく包み込むような大事なものと考えて、指揮・演奏されていたのだなと思う。ちなみに、音楽評論家の故・黒田恭一さんの「尋ねる耳」の話を思い出しました。

 指揮者の役割や、オーケストラの仕組み、楽譜や楽器のこと、コンサートまでの練習…特にオペラについては詳しく書いてある。指揮者は一体何をしているの?オーケストラはその指揮者の何・どこを見て演奏しているの?オーケストラには色々な楽器があるけど、それぞれどんな楽器なの?オペラって何?交響曲・協奏曲って何?どんな練習をしているの?…普段からクラシック音楽に親しんでいる人ならなんてことないことだが、高尚で、近寄りがたい雰囲気がする…クラシック音楽家って一体どんな人たちなの?そんな疑問にも答えてくれます。これは子どもたちだけでなく、大人にも一読をおすすめしたい。もし、初めてクラシックコンサートに行く機会が出来たなら、この本を読んでから行くことをおすすめします。楽器のイラストも精巧で、きれい。弦楽器やオーボエ、トランペットなどの精巧なスケッチがとてもきれいで、見惚れてしまいました。全体像を見たい、全部の楽器で見たい!と思うほどでした。楽器って、描くのが本当に難しい…。

 最後に、アバドから、音楽家を志す人、よい聴衆になるであろう人々へのメッセージが書かれています。音楽を「聴く」とは。作曲された作品、音楽と実社会は常に密接な関係を持っていること。そして、もしよくわからない音楽に出会った時に心に留めておいてほしいこと。
君たちが、なんだかよく理解できそうもない音楽を、初めて聴いたとき、「つまらない」の一言で片付けてしまわないでほしいということです。私も、現代の新しい音楽を耳にして、まごつくことがあります。それでも、自分が理解できなかったからといって、一方的にドアを閉じることはしません。私は、どんな音楽も、よく聴いて学ぶ努力をしています。その音楽も一つの表現として、私たちの時代を、歴史を、そして私たち自身を語っているのだと確信しているからなのです。
(49ページ)


 私は、アバドの訃報を知るまで、それほどアバドの演奏を聴いてこなかった。全く恥ずかしいことに、アバドが大指揮者であることも知らなかった。何曲かは録音は持っていたので、訃報の後聴いてみた。そして、今、オペラも聴き始めたこともあって、アバドの演奏に前よりも耳を傾け始めた。好きな演奏も見つけ始めている。訃報の時、twitterでアバドの来日公演に行った、生であの演奏を聴いた、というツイートをいくつも見かけた。私にそのチャンスは無い。CDやDVDなどで触れるしかない。しかし、それらの演奏・指揮をしていた時、アバドはこの本に書かれていることを忘れずに演奏していたのだろう。アバドの演奏を聴いて、アバドがその時代を、歴史を、この世界をどうとらえて、どう表現しようとしていたか、じっくり耳を傾けたい。

 アバドは、若手の育成にも力を入れていた。ユースオケを作り、指揮をして支え、若い音楽家たちを育てていた。この本も、そんな気持ちで書かれたのだろう。アバドが伝えたかったことは、演奏でも、この本の言葉でも、残って受け継がれていっている。今更かもしれないけれど、私もアバドの言葉・音楽に触れられてよかった。

 この本の中で、アバドが子どもの頃ミラノ・スカラ座で聴いて感動したという、ドビュッシー「ノクターン」(Nocturnes)より第2曲「祭り」(Fêtes)。聴いたことが無かったので、探しました。
C. Debussy - Nocturnes ( Fetes at Argenteuil ) - Claudio Abbado

 トランペットに、近づいて遠ざかる音に、ワクワクする。子どもの頃の感動を思い出しながら演奏していたのかなぁ。


 ちなみに、昨日、こんなことを書いたけれど、この本を読んで、「優劣」「うまい・へた」よりも気にすべきことがあると実感しています。もっと大事なことがある。
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by halca-kaukana057 | 2014-03-17 22:55 | 本・読書


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