運命と呼ばないで ベートーヴェン4コマ劇場

 クラシック音楽界で今話題沸騰中(多分…いや、きっと!!)の漫画です。


運命と呼ばないで ベートーヴェン4コマ劇場
NAXOS JAPAN:作/ IKE:画/学研パブリッシング/2014

 1801年、ウィーン。音楽家を志す少年・フェルディナント・リース、16歳。ドイツのボンの宮廷音楽家(ヴァイオリニスト)だった父がかつて弟子にしていた男の弟子になるために、ウィーンにやってきた。その男は、その父もリースの父と同じくボンの宮廷音楽家で、ヴァイオリンは苦手だったがピアノは得意。13歳にして、父に代わり宮廷音楽家となった。そして、今はウィーンでピアニストとして、作曲家として活躍していた…ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。この時30歳。紆余曲折を経て、ベートーヴェンの弟子となったリース。父からベートーヴェンがどんな音楽家か聞いてはきたのだが、実際は…

 クラシック音楽レーベル・NAXOS JAPANが公式ウェブサイトで連載していたのが、この漫画「運命と呼ばないで」(略して「運よば」)。ベートーヴェンの4コマ漫画?よくわからないまま読んでみたら、面白い。ギャグコメディで、破天荒なベートーヴェンを、彼に振り回される弟子のリース君の視点で描いている。笑えるのだが、ベートーヴェンの伝記になっているし、読み進めていくうちに「そうだったんだ」という発見もあり。連載が終わった後に、「webで読めるけど、せっかくなら書籍化しないかな~」と思いました。ツイートもしました。そしたら本当に書籍化してしまいました!!喜んで買ったのは言うまでもありません。

NAXOS JAPAN:ベートーヴェン4コマ劇場「運命と呼ばないで」
 全話読めます!まずはここで読んでみてください。公式サントラもあります。
Twitter:NAXOS JAPAN ナクソスジャパン(@naxosjapan)
 ↑「運よば」全面推しの公式ツイッター。

 この作品の元になっているのが、この弟子のフェルディナント・リースとベートーヴェンの親友であるフランツ・ヴェーゲラーによる「ベートーヴェンに関する覚書」という著作。ベートーヴェンに関する思い出を書き残した本なのだが、ベートーヴェンの天才…破天荒な一面から、恋愛関係まで記されているという。「運よば」を読むまで、リースのことも、この「ベートーヴェンに関する覚書」のことも、この漫画に出てくる登場人物の多くのことも、そしてベートーヴェン自身のこともよく知らなかった。ベートーヴェンと言えば、9つの交響曲や多くのピアノソナタや室内楽を作曲し、怖そうな顔の肖像画が学校の音楽室に張ってあって、病気で耳が聞こえなくなり苦悩の人生を歩んだ孤高の作曲家…というイメージしかなかった。ベートーヴェンの作品は、色々と聴いてきたのに、ベートーヴェン自身や、ベートーヴェンの周りの人々について、ベートーヴェンが生きていた時代のヨーロッパ情勢については何も知らなかった…とこの本を読んでまず思った。ギャグマンガなのに。そう、ギャグマンガなのに…コメディなのに…いや、コメディでもあったのだ。

 この「運よば」で描かれるベートーヴェンは、実に人間味あふれる男。ピアニストとしても大活躍、ピアノバトルでは即興の超絶技巧を披露し勝利。何か頭に来るとギロチンチョップ(!?)をくらわせる。下の弟は薬局で大もうけしているのに、ベートーヴェンは貧乏金欠…。でも、恋人(弟子でもある)とはラブラブ。弟子のリースは、そんなベートーヴェンに振り回されてばかり…。リース君がんばれ!と何度思ったことか…。ベートーヴェンも破天荒ではあるけれども憎めない。友人で専属音楽家となったヴァイオリニストのシュパンツィヒや、年下の弟子チェルニー(あのピアノ練習曲のチェルニー。イメージが変わりました)、パトロンのリヒノフスキー侯爵(存在感半端ないw)など、個性的で愉快な仲間たち(?)も楽しい。ベートーヴェンは孤独、孤高の作曲家だったなんてイメージはどこからやってきたのだろう…?勿論、ギャグ4コマなので誇張表現はありますが、書籍化で追加された「楽屋裏トーク」や「リヒノフスキー侯爵の勝手に萌えレクチャー」コラムで史実や解説も。さらに、マニアックな作品もCD化しているNAXOSの強みを生かした曲解説・関連CD紹介も。読むだけじゃない、読んでいるとベートーヴェン作品は勿論、リースやチェルニーたちの作品も聴きたくなってきます。

 しかし、コメディだけではない。当時のヨーロッパはフランス革命の後、戦争の最中にあり、宮廷音楽家はリストラ。ベートーヴェンとリースの故郷であるボンは戦場となってしまった。音楽は貴族のもの、という時代は終わり、趣味でピアノ演奏する、ピアノを習う人々も増えていった。音楽に対しての考え方や、音楽家の立場が変わりつつあった時代。ああ、現代と変わらないのだな、同じなのだな…と思ってしまう。音楽とは何だろう。この「運よば」で描かれているベートーヴェンの時代も、音楽が貴族のものから一般市民へのものへ変わりつつあった。現代、ベートーヴェンの音楽というと「”崇高な”クラシック音楽」というイメージだが、当時にしてみればベートーヴェンの音楽も流行の音楽だったわけだ…。だから、この漫画が投げかけている「音楽」「音楽家」は、クラシックに限らず、全てのジャンルで言えることだと思う。

 そして、耳の病気を自覚していたベートーヴェン。ピアノはもう弾けなくなるかもしれない。作曲しても、その音・音楽は聴こえない…。ここでますます「音楽」「音楽家」とは何なのか、と思ってしまう。

 それらを経てのop.15、リースがピアノのソリストとして、「ピアノ協奏曲第3番」を演奏する、演奏会デビューする回。ピアノ協奏曲第3番は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中で一番好きな作品。その3番に、こんなエピソードがあっただなんて…。

 「音楽家」と言っても、作曲家、指揮者、演奏者、指導者と分かれる。全部やっている人もいるし、演奏一筋、作曲一筋という人もいる。そして、師匠と弟子の関係もある。その中で、どう「音楽」をつくっていくか。どう演奏し、どう人々に届けるのか。どんな「音楽」を届けたい、表現したいのか。そんな葛藤を乗り越えてのリースの演奏は楽譜も残っていないけれど、頭の中でピアノ協奏曲第3番第1楽章を再生しながら、想いをめぐらせていました。このシーン、セリフもなく、絵もシンプル。しかも4コマなので、普通の漫画の表現とも異なる。シンプルな表現で、絵だけで音・音楽を、そして人々の心の動きを伝えようとしている。想像の余地もあり、シンプルだからこそ絵から音楽が伝わってくるようで…この回を読んだ後ツイッターにも書いたのですが、大好きなピアノ協奏曲第3番が、ますます好きになった。

 IKEさんの絵も、コミカルで可愛らしく、時にリアルで、うまいなと思いながら読んでました。「創作ノート」で、「運よば」が出来るまでが解説されています。漫画の描き方の部分に注目してしまいました。
 ちなみに、物語を考え、ネームを書いているNAXOSの担当さんは、元々ベートーヴェンの研究をされている方なのだそう。創作・誇張・ギャグと、史実をうまく織り交ぜられた理由は、ここにあったのか。この漫画、学校の図書室の、ベートーヴェンの伝記の横に置いても問題ないと思う。
Excite Bit コネタ:エキサイトニュース:ベートーヴェンの意外な素顔をマンガで楽しむ『運命と呼ばないで』
 ↑NAXOS担当さんへのインタビューや裏話などが読めます。

 いきいきとしたベートーヴェンやリースたちの音楽家として…いや、人間としての物語。オススメします。最後に、私のお気に入りキャラクタはシュパンツィヒさんですwチェルニーも、あのピアノ練習曲(「100番練習曲」を途中で挫折した)のイメージしかなかったのがイメージ変わりました。チェルニーがいたからこそ、ピアノも一般市民にここまで普及したのかな…。
 まずは、ベートーヴェン作品を聴きまくりたい…。リースの作品、特にピアノ協奏曲を聴きたい…。
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by halca-kaukana057 | 2014-05-08 22:49 | 本・読書


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