【小説版】戦場に輝くベガ 約束の星を見上げて

 昨年11月に再放送(初回放送は2013年7月6日)されたNHKオーディオドラマ「天空の道標(みちしるべ)」。
・その感想記事:いつの時代も星を見上げる、願いをかける NHKオーディオドラマ「天空の道標」
 この物語に関しての所感は、上記記事に詳しく書きました。

 このラジオドラマの原作が、プラネタリウム番組「戦場に輝くベガ」(制作:山梨県立科学館)。そのプラネタリウムを原作に、もうひとつ、小説も書かれていました。

月刊 星ナビ 2014年 07月号 [雑誌]

KADOKAWA


 天文雑誌「星ナビ」7月号で「戦場に輝くベガ」のことが取り上げられていて、この物語に更に興味をもちました(ただし、この小説やラジオ版の元になったプラネタリウム番組と、現在上映されているリニューアル版は少し違うようです)。
 しかし、私の近隣のプラネタリウムでは上映されそうもない。なので、小説版を読みました。

Facebook:戦場に輝くベガ~約束の星を見上げて
 プラネタリウム上映の最新情報はこちらで。FBアカウントが無くても見られます。


戦場に輝くベガ―約束の星を見上げて
鈴木一美、浅野ひろこ/一兎舎/2011

 山梨県甲府市。織井花音は、プラネタリウムの学芸員をしている。7月のある日、甲府市内で不発弾が見つかった。花音は現場の近くに住んでいる、祖父・勝の姉の久子を案じて家を訪ねる。久子は自宅で待機していた。花音は、久子が作った七夕飾りに、「ありがとう ベガ」という短冊を見つける。何のことかと考える花音。その時、不発弾のことを報じていたテレビから、その不発弾が1945年7月6日、甲府空襲「たなばた空襲」で投下された焼夷弾だという話が聞こえてきた。その話に、久子は空襲のことを思い出し、当時の惨禍をつぶやく。七夕の空襲、「ありがとう ベガ」の意味。久子は、戦時中のことを花音に語り始める…


 物語がラジオ版と大幅に違います。どちらが原作であるプラネタリウムに近いのか…?ラジオ版は50分の物語なのでコンパクトにまとまっていますが、小説版は久子と和夫の家や家族について、学校でのことについても詳しく書かれています。ひとつのプラネタリウム番組から、内容の異なる小説とラジオドラマが生まれる。この「戦場に輝くベガ」という物語(史実を元にしたフィクション)の広さ、深さを実感します。

 物語は大幅に異なりますが、物語の根幹となる部分は勿論変わりません。和夫は海軍で偵察員として爆撃機「銀河」に乗り、「天文航法」を用いて位置や航路を星を使った天測で割り出す任務にあたっていること。和夫を慕う久子は、学徒動員で海軍水路部で働き、偵察員の天測のデータとなる「高度方位暦」をつくる。和夫は出陣前、久子とともに見た夏の天の川の中のベガを、離れていても見つめていようと久子と誓う。和夫は訓練をしている基地や爆撃機の風防から、久子は東京から、「高度方位暦」でも出てきたベガを見つめ、お互いの無事を祈り、手紙をやりとりする。お互いの無事を祈り、戦争とは何かと心の中で問いながら…。

 小説では戦時中の日本の動きや出来事、情勢、戦争に対しての久子と和夫の想い・考え方、戦争に巻き込まれてゆく久子と和夫と2人の家族や友人知人、戦争の惨劇も詳細に描かれています。ラジオドラマでも聴きながら涙腺緩みっぱなしでしたが、小説も涙無しには読めない。戦争で明日はどうなるかわからない時代、星を見上げ、また天文航法や高度方位暦を爆撃のために使っていた時代があった。約70年前のこの日本で。過去に実際にあったこと。あと、物語に出てくる甲府空襲があったのは、1945年7月6日から7日にかけて。「たなばた空襲」とも呼ばれています。

 和夫からの最後の手紙から引用します。
明るく輝くベガは、君が計算してくれた方位暦とともに、いつも夜空の道しるべになってくれました。
 どうか君もベガを見上げてほしい。つらい時、迷った時、きっと道を示してくれることでしょう。
 どこにいても、どんな時でも、私は君の幸せを願っています。どうか幸せに、強く生きてください。
 ベガが、そしてすべての星が武器としてではなく、希望の光を人々にもたらすために輝ける日がくることを祈っています。
(207~20ページ)

 今、私は平和な(身の回りに戦禍は無い)世の中で、平和に星を観ている。ベガもアルタイルも、七夕となれば普段星を見上げない人も探そうとする(はず。探してほしい)。そして星に願いをかける。七夕でなくても、ふと見上げた星空に、疲れや緊張が解けたり、遠くにいる誰かを想ったり、自分を励ましたり、きれいだなと見とれたりする。星はその人の心を映すと思う。希望がほしいと思っている人には希望になる。約70年前も、久子も和夫もベガを希望の光として見ていた。しかし、その一方で、戦争のために使われていたのも事実。昨年ラジオドラマ版を聴いてから、ベガを見るとこの物語のことを思い出すのですが、小説版を読んで、その想いがますます強くなりました。
(このあたりの詳しい感想はラジオ版の記事で。)

 こうなるとプラネタリウムも観たいのだがな…。ちなみに、現在公開されているのは、今年リメイクされた新しいバージョンです。旧版とは変えているところがあるようです。この小説とラジオドラマは、旧版を元にしています。

 「星ナビ」での記事、そしてこの小説版を読んで思ったのは、実際に「銀河」に乗って出撃した方、高度方位暦をつくっていた方の体験の記憶、証言、資料があったからこそ、この物語が生まれたということ。悲惨な過去を思い出したくない、親しい人を亡くして複雑な想いを抱きながらも語り、プラネタリウムを観た方も。久子と和夫はフィクションの人物だが、爆撃機「銀河」も実在したし、その爆撃機を誘導するための高度方位暦も実在した(もちろん、天文航法=戦争というわけではありません。ラジオ版の記事でも書きましたが、今は平和利用されているものも元々は軍事目的で生まれたものがある。それをどう使うか)。次の世代のために、と語ってくださった方々がいることを、忘れてはならないと強く思いました。

 昨晩、晴れていたのでラジオドラマ版を聴きながらベガを見上げていました。
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 今日は雲で見えませんが、ベガは変わらず、明るく輝いていることでしょう。晴れたら、またベガを見ます。
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by halca-kaukana057 | 2014-07-07 22:23 | 本・読書


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