船に乗れ! 1 合奏と協奏

 昨年冬に舞台化(音楽が宮川彬良さん)されたことで存在を知った作品です。本屋大賞にもノミネートされた話題作だそうですが、全く知らず…。音楽ものと聞いて、読んでみました。まずは第1巻。


船に乗れ! 1 合奏と協奏
藤谷治/ポプラ社・ポプラ文庫ピュアフル/2011
(単行本はジャイブより2008年)

 チェロを演奏する津島サトルはチェリストを目指して芸高を受験したが、失敗。祖父が創設した新生高校音楽科に入学した。レベルはそんなに高くなく、サトルは入学早々、先輩よりもチェロのうまい新入生として話題になっていた。サトルも、高校生ながらニーチェなどの哲学書を読み、チェロの腕前もよかった。学校では、フルート専攻の数少ない男子のひとり・伊藤慧や、元気なヴァイオリン専攻・鮎川千佳、同じくヴァイオリン専攻の鮎川の友達の南枝里子たちと出会う。毎年、学校では生徒達によるオーケストラ発表会があった。演奏曲はチャイコフスキー「白鳥の湖」から数曲。楽譜を見て簡単だ、副科でオーケストラの楽器をやる生徒にとっても大丈夫だと思っていたサトルだが、オーケストラの練習は予想以上のものだった…。

 この物語は、大人になったサトルが過去を回想する形で書いています。このサトルが高校生だったのは、明記はされていませんがかなり昔。高校生だけで喫茶店(勿論今の大手チェーン店などではなく、「喫茶店」)に入ることは校則で禁止されている。1980年代?多分、そのくらいです。

 サトルはいかにもそんな一昔前の「インテリ」高校生、と言えばいいのか。生まれ育った環境もあり、クラシック音楽に小さい頃から親しみ、英才教育を受けていた。でも、ピアノはいまいちで、ふとしたきっかけでチェロをやってみることになる。N響楽団員でもある佐伯先生を紹介され、先生の指導を受け、サトルはチェロの腕前を上げていく。芸高は落ちたが、落ちた原因は学科試験。そして入学した新生高校音楽科は二流・三流の学校。サトルの自信、自慢げな感じに若さを感じます。別の言い方をすると「痛い」。厭味な感じはしない。

 そんなサトルに、大きな変化が。まず、オーケストラの授業。これまでチェロの腕前には自信を持ち、オーケストラでも1年生ながら首席の隣、トップで演奏することになる。だが、これまでサトルは誰かと一緒に演奏することは無かった。オーケストラで演奏するのも初めての経験。オーケストラで皆が合わせて演奏することがいかに難しいか描かれます。ここまでオーケストラの初歩の初歩から描いた作品は他に無いんじゃないか。楽譜通り、指揮の通り、皆で合わせて演奏することがオケの基本。その基本が難しい。いつも指導している”カミナリ”先生や、指揮の鏑木先生は、その基本をみっちりと叩き込み、厳しく怖い。さすがのサトルも、必死で食らい付いていく。音楽は表現、心が大事と言う。しかし、その前に、楽譜があり、その楽譜には作曲者が込めたものがある。それを忠実に演奏してこそ、その先の表現に進める…。普段何気なく、CDやテレビでプロのオーケストラを聴いてしまっていますが、オケって本当に難しいのだなぁ…と感じました。オケの楽器は何ひとつ演奏できないので、興味もあります。

 もうひとつの変化…同じ1年のヴァイオリンの女子・南枝里子の存在。完全に恋してしまったサトル。しかも、枝里子の友達であり、サトルのクラスメイトである鮎川千佳の働きかけで、2人の音楽への情熱が似たものだと知る。音楽をやるための家庭環境はそんなによくないけれど、負けず嫌いで向上心の強い枝里子は、サトルのチェロに刺激を受ける。サトルも枝里子の熱意に刺激を受け、後にサトルのピアノの先生である北島先生とともにメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲を演奏することになる。ここでも、自分自身の腕前や、アンサンブルの難しさにぶち当たる。が、それ以上に一緒に刺激し合いながら演奏するのが楽しい。いいですねぇ青春ですねぇ。ピアノの北島先生も素敵な先生。アンサンブルの練習以外では、携帯もメールも無い時代。アナログなサトルと枝里子の会話と想いの交流がまたいい。これが携帯でサッと…だったら味が半減してしまいそう。そんな雰囲気。

 サトルが刺激を受けるのは、枝里子だけではない。フルートの伊藤慧。見た目”王子様”で、フルートの腕前もかなりのもの。楽器は違えど、伊藤の演奏にサトルも、ほかの生徒たちも魅了される。
 更に、公民(倫理)の金窪先生。教科書どおりの授業をせず、哲学とは、生きるとは何かをサトルたち生徒に問いかける。哲学書を読みふけっているサトルとも親しくなる。金窪先生のお話がとても面白い。中学高校時代、こういう先生が学校に1人や2人は必要、絶対にいて欲しいと思う。

 オーケストラの合宿練習、文化祭、発表会、そしてとある場でのサトル・枝里子・北島先生のトリオの演奏…。音楽は難しい。なかなか思うように演奏できないし、たくさん練習したからと言ってその分うまくなるとも限らない。でも、音楽は楽しい。誰かと演奏できれば、もっと楽しい。サトルたちトリオの演奏シーンで、音楽で会話するってこういうことなんだろうな…と思いながら読んでいました。

 オーケストラの演奏曲であるチャイコフスキー「白鳥の湖」、サトルがトリオで演奏するメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番、サトルが普段練習しているバッハの無伴奏チェロ組曲…様々なクラシック音楽が登場し、また演奏家もカザルスをはじめ色々な演奏家が出てきます。サトルたちが聴くのはCDではなくレコード。レコードというのもまたいい雰囲気です。

 痛い、苦い、でもどこか微笑んでしまう青春小説。3巻まであって、2巻は既に読んでしまっています。2巻は…大変なことになってます。近々感想書きます。3巻を読むのも楽しみです。どうなっちゃうんだ…。
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by halca-kaukana057 | 2014-07-29 22:58 | 本・読書


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