船に乗れ! 3 合奏協奏曲

 2巻の感想から間が開いてしまいました。青春音楽小説「船に乗れ!」3巻、完結編です。

・1巻:船に乗れ! 1 合奏と協奏
・2巻:船に乗れ! 2 独奏


船に乗れ! 3 合奏協奏曲
藤谷治/ポプラ社・ポプラ文庫ピュアフル/2011
(単行本は2009年ジャイブ)

 高校3年になったサトルたち。昨年も新入生の演奏レベルの高さに驚かされたが、サトルたちが3年になった年、新生高校はこれまでとは全く異なる、音楽エリート育成に力を入れ始めた。毎年恒例のオーケストラ演奏会では、副科の生徒は参加しなくてもよいことになった。オーケストラの楽器を専攻する生徒達だけで構成されるオーケストラ。しかも、それはその全員参加ではなかった。与えられた曲もこれまでとは違う。
 更に、3年になると文化祭でミニコンをやることが決まっていた。サトルは鮎川たちと考え、サトルはある曲を探し当てる。こうして、オケとミニコンの練習が始まったが、サトルはひとつ、大きな決断をしていた…。

 2巻があまりにも辛い状況で、サトルはこのままどうなってしまうのだろう…そんな想いで3巻を読み始めたのですが、厳しい状況は続いていました…。学校の教育方針の転換、その渦中に巻き込まれるサトルたち。そんな中、サトルは大きな決断を下す。サトルにとって大切な存在であった枝里子も、金窪先生もいなくなってしまった。金窪先生に関しては、サトルが原因でもある。だが、それ以上に、サトルが感じた”限界”…。

 音楽などの芸術や体育は特に、それだけでなく世の中にある色々なことは、「才能」や「天性」で大きく左右されることがある。それでも、「努力」「練習」「訓練」も大事で、それらによって磨きをかけなくては、「才能」も「天性」も錆び付いてしまう。
 以前、ある試験のために、私はとても苦手だったものを克服しなければならなかった。自分にその「才能」はない。だから、「努力」するしかない、とひたすら「練習」した。なかなか思うようにいかず、他の人は軽々と出来ているのに自分はいつまで経っても出来ない…ひとり涙を飲んだこともあった。だが、そんな「努力」をしていると誰かは見ていてくれるもので、私の苦手なところを克服するコツを掴んだ練習方法を教えてくれる先生に出会えた。それによって、私も少しずつ上達していって、試験には危うい状態だったが何とか間に合った。ところが、試験の内容が変わって、そこまで習得する必要は無かった…というのは後でわかった話。それでも、自分でもコツを掴んで練習すれば、あんな苦手だったことでも上達できるのだなぁ、と自分の可能性が広がったように感じた。あと、出来る出来ないの結果に限らず、努力し続けることが大事だということも。

 だが、サトルの場合は、私のようなギリギリ間に合ってもいい状態では通用しない。子どもの頃からチェロやピアノを習い演奏し、音楽を専攻できる学校に進学する。その世界がいかに厳しいか。趣味で音楽をやっていても感じる。それが専門だったら…。サトルの苦悩はいかほどだろうか…。

 それでも、オーケストラの練習もあるし、ミニコンの練習もある。ソロ発表会もある。レッスンも続く。決断はしても、音楽は止まらない。なかなか練習できないこともあるが、嫌々ではなく、演奏を続ける。社会と同じだな…と感じてしまった。

 そして、ミニコンで、ある「事件」が起きる。もうひとり、ある決意を抱いて、ステージに上がった者が。彼らを繋いでいたのは、まぎれもなく音楽だった。心の中で、重いものを抱えていても、その時の音楽、演奏に集中する。その音楽、演奏はその時だけのものだから。残された手紙が切なくて切なくて…。
 そしてオーケストラでも、サトルは懸命に演奏する。しかし、その時サトルが気づいたことに、深く頷いた。ひとりで演奏していたとしても、ひとりじゃない。その音楽を聴いている人がいる。自分自身という人が…。

 最後の金窪先生の言葉・ニーチェの翻訳は、何度も読み返しました。その翻訳を受けてのその後の話も。「船に乗れ!」というタイトルの意味は、こういうことだったんだ。どんな船にのっていようと、航海は続く。航海を続けるしかない。この物語も、私に繋がっている、開かれた物語のように感じている。

 この物語は、大人になったサトルが高校生の頃を回想して書いている形になっているのですが、最後、その大人になったサトルについて語られます。どんな船であれ、船に乗り続けているサトル。2・3巻でサトルはこのまま救われないのか…と思ったのですが、最後、少し救いがあってよかった。船に乗り続けていれば、どこかにたどり着ける。伊藤との番外編「再会」も、そんな雰囲気だった。やはり2・3巻の辛さは残るけれども、誰だって大小様々な辛さを抱えている。抱えながら、船に乗っている。

 辛いな、苦しいなと思ったら、時々読み返したい本です。

 しかし、この作品は舞台化されたわけだが…どんな舞台だったんだろう?
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by halca-kaukana057 | 2014-09-12 22:34 | 本・読書


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