星のかけらを採りにいく 宇宙塵と小惑星探査

 今月末、30日、小惑星探査機「はやぶさ2」がいよいよ打ち上げられます。そして今日、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」が着陸機「フィラエ」を、探査する彗星「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」の核に降下、着陸させます。

 小惑星と彗星。「太陽系小天体」と呼ばれるこの2種類の天体。そこに探査に行く理由は何か。科学者、天文学者たちは何を求めているのか。それについて書いている本を。

星のかけらを採りにいく 宇宙塵と小惑星探査
矢野 創/岩波書店・岩波ジュニア新書/2012

 著者は初代「はやぶさ」の運用・タッチダウンして小惑星イトカワのサンプルを回収する「サンプラー」の開発にも関わった矢野創先生。今度の「はやぶさ2」にも勿論関わっています。「はやぶさ」「はやぶさ2」のことだけでなく、矢野先生のご専門である「宇宙塵」の研究について書いたのがこの本。岩波ジュニア新書なので、中学生ぐらいから読めると思います。


 「宇宙塵」は、星のかけら。地球には、毎日数え切れないほどの「宇宙塵」が降り注いでいる。目に見える大きさなら、流星となって確認され、さらに大きければ火球、そして隕石となって地上に落ちてくる。目に見えない大きさのものの方が圧倒的に多い。宇宙塵を研究する研究者にとって、流星群は彗星が通り道に残していった宇宙塵を分析できる絶好の機会。カメラなどで観測し、母天体である彗星のことを調べることが出来る。また、人工衛星にも宇宙塵は降り注いでいる。宇宙で人工衛星を回収するミッションがあれば、その人工衛星についている宇宙塵を回収することにもつながる。宇宙塵の研究者たちは、こんな見方・視点で天体を観ているのだな、と興味深く感じます。流星群があれば、私は1時間に何個、どの方角から…ということを気にしますが、宇宙塵から母天体の彗星を調べることが出来る。少しの痕跡から犯人を割り出す探偵や刑事のよう。

 1995年にH2ロケットで打ち上げられ、無重量空間で実験を行い、96年スペースシャトルで回収する人工衛星「SFU(宇宙実験・観測フリーフライヤ)」はその絶好の対象。この「SFU」は、若田光一宇宙飛行士が初飛行(STS-72)で、ロボットアームで回収する、ということでも話題になりました。巧みなロボットアーム操作で定評のある若田さんですが、そのデビュー機が「SFU」だったんです。ところが、回収の際、「SFU」の太陽電池パネルが閉じないというトラブル発生。矢野先生他宇宙塵の研究者たちは、広くて凹凸のない太陽電池パネルには沢山の宇宙塵がついているはず…と期待していたのですが、閉じないなら切り捨てて、本体だけ回収、ということになりました。当時、若田さんのロボットアームによる「SFU」回収はニュースを観ていたのですが、その裏でこんなことがあったのだな…と20年近く前にあったことを思い出しながら読んでいました。
 現在は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の暴露部(宇宙空間にむき出しになっている実験施設)に、宇宙塵を採集する危機を取り付けて宇宙塵を集める「たんぽぽ計画」も進んでいます。また、今も宇宙空間を飛行中の、世界初のソーラーセイル実証機「IKAROS(イカロス)」にも宇宙塵計測器が積まれています。

 そして、「はやぶさ」や「はやぶさ2」は小惑星に、「ロゼッタ」は彗星に星のかけらを調べに行きますが、その目的は。太陽系の天体がどんな物質でできているか、太陽系がどうやってできたのか、そして、生命のもととなる物質が他の天体にあるのか。それらを調べるため。
「宇宙の始まりから私たち一人ひとりの人生に至るまでの、連続したストーリー」
「私たちが住む宇宙の誕生から現在の構造を持つに至った歴史物語」
(108ページ)
と、21世紀の宇宙科学全てに共通した目標だと、書かれています。これにより、人類の宇宙観も変わってゆくだろう、と。「はやぶさ」で、小惑星を探査し、小惑星のかけらを持ち帰るというサンプルリターンを成し遂げたことで、宇宙科学研究についての見方も変化したと思っています。ただ、トラブルに次ぐトラブルをプロジェクトチームの知恵と工夫とチームワーク、諦めない気持ちで乗り越え、大気圏再突入というドラマティックなラスト、そして見事カプセルにはイトカワの微粒子も入っていた、という美談で語られることも少なくない。そんなドラマティックな展開になってでも、プロジェクトチームは何を成し遂げたかったのか。まだ誰も成し遂げたことのなかった小惑星サンプルリターンができる、ということを実証したかった。これで、「はやぶさ2」だけでなく、次々と後継の探査機が生まれ、太陽系のあちこちを目指すようになる。NASAも小惑星探査機の開発、打ち上げに向けてプロジェクトを進めています。そんな次世代の探査について語られている第7章がとても熱くて、この勢いを受けて「はやぶさ2」も旅立ってゆくのだな、と感じました。

 印象的だったのが、1992年ごろ、矢野先生がまだ大学院生の頃、「ロゼッタ」に搭載する機器について検討する会議で、研究者たちの意見が割れ、口論になってしまった時の話。ドイツの研究者が一喝。
「いいかげんにしろ。どうせ探査機が現地について議論に決着がつく頃、この会場で生き残っているのは大学院生くらいなのだから」
そして矢野先生はこの時
「宇宙探査は林業や建設業のように世代を超えた仕事だ。ロゼッタは、今の大御所たちから自分の世代が受け取るバトンなんだ」
と思ったそうです。(69ページ)
 「ロゼッタ」は2004年に打ち上げられ、10年かけてチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着しました。「ロゼッタ」からは、既にたくさんの観測画像が届いています。今、バトンを受け取った研究者達が静かに見守っていると思います。さぁ、着陸機「フィラエ」はどんな彗星核の姿を見せてくれるのか。楽しみですし、応援しています。
◇JAXAによる解説:ファン!ファン!JAXA:彗星探査機「ロゼッタ」、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着!

 そして、「はやぶさ2」も、6年がかりの長い旅。サンプルリターンの強みは、回収したサンプルが地球に届けられる頃、分析するための機器が進歩しているということ。「はやぶさ2」も、「はやぶさ」からバトンを受け取り、そして次の世代にバトンを繋ぐため、旅立ちの時を待っています。

 各章末のコラムでは、矢野先生がどのように科学、宇宙を志すようになったのか、生い立ちが語られています。冒険好きだったんですね。大学進学の際も、その時置かれている状況と、これから進みたい方向を見通したしっかりとした進路選択で凄いなと思いました。私なら仕方ない、と諦めそうだ…。

*12日21日現在、「ロゼッタ」は無事「フィラエ」を分離し、「フィラエ」はチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に向けて降下中。着陸したかどうかが判明するのは、13日夜中1時。朝、吉報が待っていますように。
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by halca-kaukana057 | 2014-11-12 21:12 | 本・読書


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