ツタンカーメン発掘記

 この記事で、読むと書いた本。読みました。
思い出の"発掘" 山岸凉子「ツタンカーメン」再読

ツタンカーメン発掘記〈上〉 (ちくま学芸文庫)

ハワード・カーター:著/酒井伝六、熊田亨:訳/筑摩書房



ツタンカーメン発掘記〈下〉 (ちくま学芸文庫)

ハワード・カーター:著/酒井伝六、熊田亨:訳/筑摩書房



 ツタンカーメン王墓の発掘者・ハワード・カーターによる一次記録。学術論文を書く前の下書きとして、一般向けに出版された。元々は全3巻からなり、1巻(発掘後に王墓を調査した考古学者・アーサー・メイスと共著)を発掘の翌年の1923年、2巻を1926年、3巻を王墓の出土品の整理が終わった1932年に出版している。この後で学術報告書を書く予定が、書く前に1939年に亡くなってしまう。学術報告書を完成させる前に亡くなってしまったのは残念ですが、この本を読んで、これだけでも残っていてよかった!と感じました。以前図書館で単行本のほうを読んだ時は難しくて、途中でギブアップしてしまった。でも、今回はすらすらと、魅了されながら読み終えました。以前は何が難しかったんだろう?訳文が新しくなったのかな?(詳細は不明)

 本題に入る前に、もうひとりの発掘者であり、パトロンであるジョージ・ハーバート・カーナヴォン5代伯爵の生涯について、姉のレディ・バークレアによる「故ロード・カーナーヴォンの伝記的な素描」も収録されている。以前は日本語版では割愛されていた部分らしい。カーナーヴォン卿の波乱万丈な、冒険の数々が書かれていてとても面白いです。当時まだそれほど普及していなかった自動車を愛し、愛車でドライブしていたところ事故を起こし、何とか命は取り留める。しかしその事故で健康を害し、特にイギリスの寒い冬は呼吸器系に悪かった。そこで、避寒のために訪れたエジプトで古代遺跡に魅了され、発掘にも携わるようになり、それがカーターと出会い、ツタンカーメン王墓発掘につながったと思うと、人生何があるかわからない、と感じます。ただ、発掘の翌年、1923年4月5日、亡き人になってしまったのは本当に残念です…。

 古代エジプトの歴史、考古学・発掘の歴史の部分も興味深く、それを経て、ツタンカーメン王墓発掘の記録は、読んでいるだけでドキドキする。もう掘りつくしたと大方の考古学者が思っていた王家の谷。本当に掘りつくしたのか?発掘した後の土砂を積んであったところは盲点になっていないか?発掘しつくしたようで、し尽くしていなかった場所を調べ、丹念に掘った結果が出たのが1922年11月4日。そして11月26日。出てきた階段を掘り下げ、王の名が記された封印のある漆喰の壁に穴を開け、中を見たカーター。沈黙するカーターに「何か見えるかね(Can you see anything.)」と尋ねたカーナーヴォン卿に、「はい、素晴らしいものが(Yes.Wonderful Things.日記では「Yes.It is wonderful.」)」としか答えられなかったカーター。先に上述した漫画(山岸凉子「ツタンカーメン」)を読んで絵で観ているのですが、文章だけでもその興奮や、ほぼ未盗掘の、史上初の封印つきの墓と収められている品々の光景は想像できます。この部分は、カーターも興奮気味の文章で書いていて、最初に目にした者にしかわからない興奮なんだろうなと伝わってきます。

 王墓に収められた数々の品々。亡き王のために、あの世でも暮らしに不自由しないようにと収められた品々。そこから読み取れる、古代エジプトの王や人々の生活・暮らし、宗教観、美術観。どんな暮らしをして、どんなことを考え、何を美しいと思って生きていたのか。王はどのような存在だったのか。第3部(3巻)のタイトルが「墓は語る」となっているのですが、まさに墓が物語っている。写真は当時メトロポリタン美術館の写真家だったハリー・バートンによる白黒の画像で、今はカラーの画像があるけれども、当時のことをうかがえる。

 ただ、ツタンカーメンは古代エジプトが揺れ動いた真っ只中に王になり、それに巻き込まれてしまった。先代の王・アメンホテプ4世(イクナートン)が大規模な宗教改革・アマルナ改革を行い、多神教だった古代エジプトを一神教に変え、反感を買うことになった。ツタンカーメンの時代に元の多神教に戻すのだが、そのせいか、後の王名表から抹消されてしまう。また、18歳ごろと若くして亡くなったため、他の王に比べて小さな規模の墓になってしまった。そのため、盗掘(小規模なものはあった)を免れることはできた…皮肉なような、結果的にはよかったような。小規模なツタンカーメン王墓でも大量の品々があったのだから、もし、他の王墓も未盗掘だったなら、どれだけの考古学的遺産…人類の遺産が遺されていただろう…と思ってしまう。

 そのアマルナ改革の結果のひとつが、「アマルナ美術」。まだ勉強不足で詳しくは語れないのだが、それまでの芸術様式とは少し異なる写実的な様式。座っているツタンカーメン王に香油を塗ってあげている王妃・アンケセナーメンの姿が描かれている黄金の玉座がその代表。この玉座の絵はとても好きです。玉座も美しい。あと、アラバスター製の蓮型の祈願杯もお気に入り。それら美術に関する記述もある。カーターは元々画家として、遺跡の壁画や発掘された品々のスケッチをするために調査団の一員としてエジプトにやって来た。その後、古代エジプトに魅せられ、公的な教育は受けなかったものの実地で発掘やエジプト考古学を学んだ。そんな画家として、美術方面から発掘された品々について語っているのが面白い。バートンの写真もありましたが、カーターは緻密なスケッチも残し、現在それらはオックスフォード大学グリフィス研究所に保管されている。壊れやすい花輪や工芸品も、器用に工夫して保存した過程も記されています。美術方面の技術も活かした発掘だったからこそ、古代を語る貴重な品々が今も残っているのだなと思う。

 史上初の封印つきの王墓で、気になるのが王の棺。何重にもなっている厨子と棺を開ける作業の困難さには大変だったのだな…と。そして、意外だったのが、王のミイラが3000年も経ってしまったせいで保存状態が悪くなってしまっていたこと。埋葬の際、香油を大量に注いだため、樹脂となって固まってしまい、棺もミイラも固まってしまっていた。逆に、それまで盗掘され、ミイラだけは発見されたものの方が保存状態がよかった。なんという皮肉。あの有名な黄金のマスクも、ミイラから取り外すのにかなり苦労した。そんな苦労話も発掘者の言葉で読める。

 王墓の発掘には、数多くの考古学者が協力していました。漫画で出てきた考古学者たちが次々と出てきて、愛着があったのもすんなりと読めた理由かもしれない。特に、ヒエログリフの解読に協力したアラン・ガーディナーと、アメリカ人のジェームズ・H・ブレステッド。漫画ではブレステッドは息子のチャールズとともにカーターの親友として描かれていますが、実際はとても偉い考古学者。ブレステッドの著書が何度も引用されているのですが、それも読みたいと思ってしまった。だが、当地の図書館にはない…。大学図書館とかじゃないと無いだろうなぁ…。

 ということで(?)バートンによる写真や、カーターの記録や日記も保管しているグリフィス研究所のサイト。
The Griffith Institute:Tutankhamun
 英語ですが、画像も多いので見ていて飽きません。カーターの日記も、直筆のもののスキャン画像もあります。カーターだけでなく、ガーディナーやカーターをエジプトに連れて行ったパーシー・E・ニューベリー、カーターの恩師であるフリンダース・ピートリー他、エジプトロジストたちによる記録もたくさん。全然飽きません。
 しかも、このグリフィス研究所の公式ツイッターが、カーターの日記botになってますw公式です!w
Twitter:Howard Carter (@discoveringTut)
 その日の日記の内容をツイートしてくれます。もし、当時ツイッターがあって、カーターがツイートしていたらこんな感じなのかな?いや、発掘に専念したいのにメディアや野次馬、観光客の対応に狼狽していたカーターにはそんな余裕なしだな…それ以前に気難しく神経質な性格だったというし…。今だから出来ることですね。

 最近、ツタンカーメンに関してショックなニュースが。
産経ニュース:ポキリ! ツタンカーメン王「黄金マスク」のひげが折れる 修復もずさん エジプト
AFPBBNews:ツタンカーメンのあごひげが外れた!黄金のマスクに接着剤の痕
ロイター:ツタンカーメンの仮面からひげ脱落、博物館の粗悪修復が問題に
 なんてこった!問題は、ひげが取れたことではなく、その後接着剤でいい加減な修復をしてしまったこと。接着剤の痕が外から見てわかる状態であること。ひげの部分は元々取れていました。この「発掘記」にある画像、バートン撮影の写真でも、ひげはとれた状態です。カイロ博物館もとれた状態で展示していたのを、見た目がいいから、とつけた状態で展示をはじめ、今に至るのだそう。
 この接着剤の痕は、直せるようです。よかった…。
 ちょうどこの本を読んでいる時にこのニュースが入ってきて、驚きました。
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by halca-kaukana057 | 2015-01-29 22:52 | 本・読書


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