夜と霧 (新訳)

 一昨年ぐらいからずっと読んできた本です。何度も何度も読んでいました。きっかけはNHK・Eテレ「100分de名著」で取り上げられたことでした。

NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧

諸富 祥彦 / NHK出版


 テキストに加筆修正、新たなコラムも付け加えた書籍版も出ています。私は読んでいませんが…テキストは読みました。「夜と霧」以外のフランクルの著書や、フランクルの思想に影響を与えたものなどの解説もあるので、先に本を読んでから、テキストは参考に…という形で読むほうが入りやすいかなと思いました。

夜と霧 [新版]
ヴィクトール・E・フランクル:著/池田香代子:訳/みすず書房/2002
(日本語版旧版:霜山徳爾訳/みすず書房/1985)

 十何年も前、読もうと思って図書館で借りたのだが、描かれている収容所での悲惨な光景に耐えられず、その時は途中でギブアップしてしまった。今回は本を買って、ゆっくりと読んだ。最初に読んだ時の悲痛さはやはり読んでいてつらいが、それ以上にフランクルがそんな過酷な状況でも自分や収容所の人々を客観的に観て、日々の出来事や心の中で起こっていることを冷静に記録していることに驚いた。そして、収容所ほどの酷い状況ではないけれども、私の日常でも同じようなことを思ったことがあり、特殊なものではないのかもしれないと思った。

 例えば、収容所に送られ、過酷な生活を強いられているうちに、正常な感情の動きがなくなってしまっていたこと。最初のうちは同じ被収容者が殴られたりしているのを見るのがつらい、耐えないと感じている。しかし、しばらく経つと目をそらすこともなく、何も感じない。嫌悪も恐怖も同情も憤りも何も感じなくなってしまったという。
 私も覚えがある。仕事で猛烈に忙しくとにかく仕事をこなすのが精一杯の時、ボロ雑巾のように疲れきってしまった時、さらに疲れが度を越してしまった時、喜怒哀楽を感じられなくなってしまっていた。「~するしかない」、他のことが考えられない。無味乾燥な感情…今思うと恐ろしい。

 また、隣で眠っていた仲間が夢の中でうなされていた時。フランクルは彼を起こそうとしたが、やめた。
その時思い知ったのだ、どんな夢も、悪夢の夢さえ、すんでのところで仲間の目を覚まして引きもどそうとした、収容所でわたしたちを取り巻いているこの現実に較べたらまだましだ、と……。
(47ページ)

 つらい日が続いていて、寝る時、「明日が来なければいいのに」と思うことがある。翌朝目が覚めて「朝になってしまった。また一日が始まるのか」と絶望的な気持ちになる。その気持ちに似ているだろうか。どんなに恐ろしい夢でも、「夢」。それ以上に恐ろしく苦痛な現実。「現実」は消すことが出来ない。空腹や痛み、寒さ、病気…ありとあらゆる苦痛が、心身を本当に襲ってくる。それに比べたら悪夢はまだまし…。いたたまれない気持ちになった箇所だ。

 そんな厳しい収容所生活でも、フランクルは人間の精神・内面は自由だと語る。収容所の中でも、その人がどんな人間であろうとするかは強制できない、と。フランクルは、書きかけの論文のことや、別の収容所に入れられた妻のことを思い、希望を持っていた。また、精神科医として被収容者や、元は同じ被収容者だったのに監督する立場になった「カポー」の一部の相談にものった。正常な感情の働きがなくなってしまったと思っていても、ふとした空や森の風景に心を動かされることもあった。気心が知れた仲間に、笑い話を作ろうと提案し、ちょっとしたユーモアで数分だけでも気持ちを軽くしようとした。このユーモアの話は、一歩間違うと死の危険が迫る、宇宙飛行士のミッションにも当てはまる。収容所と宇宙ステーション…全く異なる世界だが、苛酷な環境で死と隣り合わせという点は似ている。これも驚いた点だ。

 そして、フランクルが辿り着いた問いと答え…生きる意味とは何か。過酷な収容所の生活が、いつまで続くかわからない。自殺しようと思えば、鉄条網に走れば感電して遂げられる。収容所には自殺しようとしている人を助けてはならないというルールもあった。こんな状況で生きる意味などあるのか。努力も無駄だ…。そう絶望して、自殺や免疫力ががた落ちして病に倒れてしまった人々を見て、フランクルはこう答えを出す。
わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、ということを学び、絶望している人間に伝えねばならない。
(129ページ)

 苦しみと向き合い、引き受け、とことん苦しむことも、何かを成し遂げるための可能性、とも述べている。フランクルは、書きかけの論文を書き上げること、フランクルに「生きていることにもうなんにも期待が持てない」と相談してきた仲間たちは、深く愛している子どもに会うことや、研究中でその本を完成させることを挙げた。
 「生きることは彼らからなにかを期待している」「生きていれば未来に彼らを待っているなにかがある」私は今、この問いに答えを出すことが出来るような、出来ないような…曖昧な答えはある。フランクルや上述した仲間のようにはっきりとした、毅然とした意思によるものではない…ほんの些細な、取るに足らないものだからだ。それでも、それが今の私の今の「人生が期待していること」「待っているなにか」なのかもしれない。苦しみ尽くして出た今の答えなら…。

 今年は戦後70年。アウシュビッツをはじめ、収容所の記録としてもこの本の存在は大きいと思う。だが、そんな厳しい時代と社会、環境を心理学の方向から見る、その中でどう生きるかという意味でも、読み継がれる本だと思う。

【参考リンク】
NHK:100分de名著:フランクル「夜と霧」
 ↑「100分de名著」番組サイト
朝日新聞:生きる意味に気づく 心療内科医・永田勝太郎さん
「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたへの期待を捨てない。どんな人にも、固有の生きる意味がある」
「人間は誰しも心のなかにアウシュビッツを持っている。でもあなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない」

 この記事で取り上げられた心療内科医・永田勝太郎氏に、フランクルが手紙であてた言葉。「心の中のアウシュビッツ」とは生死を分かつような苦悩のこと。アウシュビッツをはじめとする強制収容所はなくなったが、同じような苦悩は存在し続けているのだな、と…。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2015-04-16 20:48 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る






日々のログ:今、ここ、想うこと
または:Twilog

はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ目指して順調に飛行中!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測準備中!

最新の記事

メロディ・フェア
at 2017-05-17 22:51
日本・デンマーク国交樹立15..
at 2017-05-12 22:18
流れ行く者 守り人短編集 /..
at 2017-05-09 22:51
北国の春 2017
at 2017-05-04 21:21
日本とデンマークの150年切..
at 2017-05-02 21:54
理化学研究所創立100年記念..
at 2017-04-26 22:11
「星の物語」切手 第5集 押..
at 2017-03-11 21:47
星の案内人 4 [完結]
at 2017-03-07 22:30
最後は南天 「星の物語」切手..
at 2017-03-04 22:44
2017:あけましておめでと..
at 2017-01-05 21:45

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
more...

検索