青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記

 かなり前に出て、フィンランド関係で読みたいと思っていたが読めずにいた本。ようやく読めました。


青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記
高橋絵里香/講談社/2007


 小学生の時に読んだ「ムーミン」シリーズがきっかけでフィンランドに興味を持った筆者。いつしか「フィンランドに行きたい。フィンランドで暮らしてみたい。フィンランドの学校に通いたい」と思うようになった。高校生になったらフィンランドの学校に留学する、と目標を立てた。しかし、中学生になり、上級生下級生の上下関係が厳しく、先生は絶対であり、体罰や脅しもあることに疑問を持つようになった。親しくなった先生にも裏切られ、いつしか皆と同じ、自分を押し殺し、他者の顔色を伺いビクビクしながら暮らすようになった。フィンランドへ留学することも諦めていたが、中学2年の時に下見とフィンランドへ家族で旅行し、受け入れてくれそうな学校を探す。見つかったのはロヴァニエミのリュセオンプイスト高校。留学といっても、1年間ではなく3年間。入学して、卒業するまで。留学への壁は厚い。フィンランドの滞在許可が下りるか。フィンランド語も満足にできないのに留学できるのか。フィンランドの高校の卒業試験はとても難しく、突破できるのか…。精神的に不安定になりながらも、やっぱりフィンランドの高校に行きたい。ホストファミリーも無事に見つかり、滞在許可が下り、中学を卒業した筆者は、フィンランドへ旅立った…。


 この本が出た頃、フィンランドの教育が注目されていたのだったっけ?よく覚えていない。フィンランドの教育はいい、日本の学校との比較はあまりしないように書きます。日本の学校でも、フィンランドほどではないが自由でおおらかな校則・校風の学校はある。あくまで、高橋さんが体験したフィンランドでの高校生活について書きます。

 きっかけなどは異なるが、フィンランドに興味を持っていて、フィンランドに行ってみたいと思っている…私も同じだ。フィンランドに行くなら、できるだけゆっくり滞在して、フィンランドの人々と触れ合ったり、森と湖の自然を満喫しながら、私がフィンランドに興味をもつきっかけになったシベリウスの作品を聴きたい、と思っている。だが、私がそんなことを思うようになったのは社会人になってから。仕事もある、生活費から旅行資金を繰り出すのはなかなか難しい。体調面でも不安がある。ゆっくりとフィンランドに滞在する…少なくとも2週間…時間も取れない。もしかしたら、行けないままかもしれない。届かないまま、憧れのままで終わるかもしれない。そう思いながら、シベリウスやフィンランドの音楽を聴いたり、「ムーミン」シリーズを読んだり、フィンランドの写真をネットで探してみたり…。

 この本を読んで、若いっていいなとまず思った。エネルギーがある。窮屈な中学校、日本から飛び出したい。1年間の交換留学じゃ短い、とフィンランドの高校に留学というよりは入学することを目指す。精神的に不安定になりながらも、それでもフィンランドに行きたい!!とひとつひとつ厚い壁を乗り越えていく。若さもあるし、両親の理解と支援が何よりも心強い。恵まれている。学校で先生に反対されても、両親は理解して背中を押してくれる。いいなぁと、正直羨ましく思った。

 そして入学。フィンランドの高校は単位制。移民や留学生のための外国人のためのフィンランド語の授業もある。本ではさらっと書いてあるが、実際、筆者がフィンランド語をマスターするのはとても大変だったのだろう。フィンランド語は名詞も動詞も格変化が多くとても難しい。しかも、日本語で書かれたフィンランド語の本は今は少しは増えてきたが、筆者がフィンランドに渡った2000年ごろはほんの少ししかなかったはず。フィンランドで筆者が買ったのは、フィン英・英フィン辞書。ストレートに母国語でマスターできない難しさは相当のものだったろう。だが、間違えてもいいからフィンランド語をマスターして、国語の読書感想文を発表したり、試験も受ける。試験はレポート記述式のような形で、最初はほとんど何も書けなかった。その試験は0点でも、成績は…試験の結果だけじゃない。高校の先生も、友達も、高橋さんの努力する姿、前向きに学ぼうとする姿勢を評価し、ほんの少しのことでも誉めてくれる。間違っていることや足りないことははっきり言うが、いいところもちゃんと見る。子どもも大人もそんな考え方が出来ていて、それで学校が成り立っていていいなと思う。

 フィンランドの人たちに日本のことを紹介することも何度かあった。日本語、食べ物、文化…。普段でも、外国にいく時には特に、日本のことをちゃんと紹介出来るようにしておきたい。
 高橋さんがフィンランドで迎えたクリスマスも印象的。ロヴァニエミはサンタクロースが住んでいる村がある町としても有名。クリスマス前には、世界中にプレゼントを配りに出発するサンタさんのニュースを観たことがある。フィンランド人にとってクリスマスは、家族で過ごす大事な日。日本のようなわいわい賑やかなパーティーは1ヶ月前に済ませておくそうだ。フィンランドにも一応ワイワイ騒ぐクリスマスパーティーもあることは初めて知った。そして、この頃はフィンランドは暗く寒さの厳しい季節。ロヴァニエミは北の方の町なので、日中はほとんど真っ暗。気温もマイナス30度を下回る。厳しい自然の中だからこそ、よりクリスマスの暖かさが際立つのだろう。

 勉強は難しいが、高橋さんはフィンランドで閉ざした心を徐々に開いてゆく。厳しい上下関係も、体罰や脅しをする先生もいない。先生は親しみを込めてファーストネームで呼び(寧ろ呼ばれないと親しみをもたれていない証拠なのだそうだ)、髪を染めたりピアスも開けていい。高橋さんも髪を染め、ピアスも開けた。日本では先生は絶対だし、校則も厳しく、ピアスは禁止されていると言うと、理解できない、と。私がもし何故禁止されているのかと聞かれたら「風紀を乱すから。日本ではピアスは好ましくないもの、学校や大人、社会への反抗とみなされるから」と説明するだろうが、これで理解されるだろうか。
 そして、フィンランドに来た頃はフィンランドの人々から見れば、高橋さんはとても暗い表情をしていたという。シャイな日本人、では説明しきれないほどの。1年も経たないうちに、表情も、服装も明るくなった、と。3年では元々得意なドラムを生かして友達とバンドを組み、学校で演奏もした。「自分の居場所」と言えばいいのだろうか。自分を素直に表現できる環境。人も場も受け入れてくれる。高橋さんにとってフィンランドはそんな場だった。自分を押し殺し、苦しんだ中学とは全く異なる世界。そんな環境に出会えた…というよりも、自分で切り拓いて見つけたことに、いいなぁと思いながら読んでいた。

 フィンランドの高校は、3年と決まっていない。学びたいことの進度・深度や自分のペースによって、3年半や4年の人も少なくない。高橋さんも4年で卒業することを目指す。卒業するための最大の難関…卒業試験。これは学校ごとではなく、フィンランドの国全体で行われるもの。卒業できるかどうかは国が決める。試験も長文の記述式のものがほとんどで、試験時間は1教科最大で6時間。厳しく徹底しているというか、丁寧だなと思った。高校生ひとりひとりの答案を読んで、採点して、相対評価で成績・合否を出す。フィンランドは日本よりも人口が少ないけれど、それでも大変なことだろう。高校で何を学んだか、どれだけ学んだか、国が見守っているという印象を受けた。

 その卒業試験前の最後の登校日の「アビの日」が凄い。ここで鬱憤を晴らして、厳しい試験に臨むのか…。

 フィンランド語が満足にできなかった高橋さんは、フィンランドに来る前に卒業試験に合格するのは無理だと学校では思われていた。しかし、信じて挑戦し努力していれば、道は拓ける。味方してくれる。試験の成績発表の最後あたりは胸が熱くなった。
 最初から最後まで、「いいなぁ」という思いで読んでいた。実際はもっともっと大変だったはず。この本には書ききれないことが沢山あったはず。それでも、フィンランドという環境は高橋さんに合っていたからこそ、苦労も乗り越えて、挑戦し努力し続けて、ここまで来ることができた。そして挑戦することから遠ざかっていた私は、読んだ後、「私はどうしたい?」「何がやりたい?」「難しそう?でもやってみたい?」と自分自身に問いかけている。

 この本、文庫化しないのが不思議である。出版社も講談社だし、様々な選定図書にも選ばれているし、文庫化して、中学生や高校生、若い人にもっと読んでほしいと思うのだが…。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-02 23:10 | 本・読書


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