ポホヨラの調べ 指揮者がいざなう北欧音楽の森

 昨年のシベリウス&ニールセン生誕150年メモリアルイヤーには、この2人に関する著書もいくつか出版されました。そのひとつがこの本。


ポホヨラの調べ 指揮者がいざなう北欧音楽の森
新田ユリ/五月書房/2015

 書名の「ポホヨラ(pohjola)」は、フィンランド語で「北、北国、北の方」という意味。シベリウスの管弦楽曲に「ポホヨラ(ポヒョラ)の娘」op.49がありますね。フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」で、老賢者ワイナモイネンが出会った北の方に住む娘に求婚する物語をモチーフにした作品。この本の場合は、北欧、シベリウスのフィンランド、ニルセンのデンマーク、さらに、ノルウェー、スウェーデン、アイスランドも含みます。

 著者の新田ユリさんは、フィンランド人指揮者・オスモ・ヴァンスカ氏に師事、フィンランドでシベリウス、ニルセンをはじめとする北欧音楽に接し、研鑽を積んでこられた方。日本人指揮者の中では北欧音楽のエキスパートのひとり。シベリウス専門アマチュアオーケストラ・アイノラ響でシベリウス作品を指揮するほか、あちこちのオーケストラで北欧作曲家作品を指揮されています。

 そんな新田さんが読み解く、シベリウスとニルセンの作品。各作品の作曲経緯、その頃のシベリウスとニルセンはどんな生活をしていたか、スコアの読解…などは他の本にも書かれています。この本の読みどころは、指揮者視点、フィンランドで学び、北欧作品に深く接してきた新田さんの視点。オーケストラのスコアにほとんど馴染みのない私には難しいところもありますが、指揮者はこうスコアを読み解いて、どう振るかを考え決めているのかと思うと面白い。各パートの演奏家がどう感じるか、についても。この本は、実際にCDなどで演奏を聴きながら読むのがいいと思う。2回ぐらい読みましたが、演奏を聴いたほうが「こういうことか!」とわかりやすい、より作品を楽しめると思う。

 内向的なシベリウス、パワーのあるニルセン。ニルセンに関してはまだまだ入門レベルなので、作曲背景やニルセンに影響を与えた人々についてなども興味深い。ただ、残念なのが、ニルセンは交響曲1,2,4番のみ。3,5,6番や協奏曲、管弦楽曲はない…。

 そのニルセンの前に、ニルス・ゲーゼも出てくる。デンマークの作曲家で、北欧音楽の父とも言われる。シューマン「こどものためのアルバム」op.68の第41曲北欧の歌「ガーデへの挨拶」は、ゲーゼの友人であったシューマンがゲーゼを意識して書いた作品。ゲーゼの名前の綴りGADE:ソ・ラ・レ・ミの音をモチーフにしている。また、グリーグ「抒情小品集」第6集op.57、第2曲に「ガーデ」という曲があり、これはゲーゼがなくなった後、その回想として書かれている。ゲーゼというと、この2曲を思い出した。が、ゲーゼの作品そのものは聴いたことがなかった。デンマークの音楽はドイツの流れを汲んでいること、そこから「北欧らしさ」がどう生まれてくるのか。聴いてみたい。ちなみにニルセンも、ブラームスの流れを汲んでいる。

 さらに、シベリウスとニルセンの後の作曲家も。フィンランドのクラミ、エングルンド、ラウタヴァーラ、ノルドグレン。ノルドグレンは、フィンランドと縁の深いピアニスト・舘野泉さんのために、左手のためのピアノ協奏曲を書いている。
 そして巻末には、北欧5カ国の作曲家200人のリストと楽曲紹介。シベリウスとニルセンの前の時代、同じ頃の作曲家たち、その後の、現在も現役の作曲家まで。少し前から、シベリウス、ニルセン、グリーグ以外の北欧の作曲家とその作品にも興味を持って聴き始めているので、このリストはありがたい。まさに北欧の深い森。現代作品も以前は身構えて馴染めなかったが、今は臆せず聴いてみている。聴こうと思って聴くと、響きやリズムがすっと入ってくることもあって面白い。フィンランドの現代音楽の振興を目的とした作曲家のグループ「korvat auki!(耳を開け!)」のことを思う。耳を開いて、自分から近づいていく姿勢が大事なんだな、と。

 マイナーな北欧音楽にどうやって接するかについても書かれていますが、私がひとつ付け足すとすれば、フィンランド国営放送YLEのクラシック専門ラジオ「YLE Klassinen」.ラジオなので番組表をチェックする必要がありますが、フィンランドのシベリウス以外の作曲家の作品も頻繁に放送されます。フィンランド国営放送なので、そのオーケストラであるフィンランド放送響(&フィンランド指揮者)の演奏が多いですが、CD化されていない音源も続々放送してくれます。こんな演奏あったのか!と思うものも。北欧ものだけでなく、ちょっとクラシック音楽を聴きたいなと思った時にもおすすめします。
YLE Klassinen※サイトに飛ぶと再生が始まるので注意!※
 スマートフォンからは、「YLE Areena」、もしくは「YLE Klassinen」のアプリでどうぞ。「YLE Areena」サイドバーのメニュー「Radio-opas」をタップすると番組表を表示することができ、再生できます。フィンランド語は、翻訳サイトを使って英語に翻訳してください。

 残念ながら、この本の出版社が倒産してしまい、この本も絶版に。北欧音楽に関するいい本が出たと思ったのに…
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by halca-kaukana057 | 2016-03-02 23:04 | 本・読書


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