超巨大ブラックホールに迫る 「はるか」が創った3万kmの瞳

 私のHNの由来でもある、大好きな宇宙機、電波天文衛星「はるか」(MUSES-B)プロジェクトの集大成の本が出ました。

超巨大ブラックホールに迫る 「はるか」が創った3万kmの瞳
平林 久/新日本出版社/2017


 まず、「はるか」はどんな人工衛星か…宇宙科学研究所(ISAS)のプロジェクトのページをどうぞ:宇宙科学研究所:電波天文観測衛星「はるか」

 著者は、「はるか」のプロジェクトマネージャーの平林久先生。文章は、中学生も読みやすいような、丁寧でわかりやすい文章です。

 まずは、「はるか」の観測方法の基礎基本、電波天文学について、歴史をたどりながら、仕組みや技術も解説します。宇宙から電波がやってくるのを発見した、カール・ジャンスキー。ここから始まります。電波天文学について、わかっているようで、わかっていないことも学び直しながら読みました。電波天文学がどのように発展していったのか、これまであまり学んだことがなかったので、電波天文学、電波での天文観測についての基本を学ぶ本としてもいい本です。

 この本は、中学生でも読みやすいような…書きましたが、平林先生が、ご自身の研究人生を振り返りながら書かれているのも、読みやすさの理由だと思います。東大に入学し、天文学を専攻し、どのように電波天文学に関わっていかれたのか。論文を書く話では、時代は違いますが、大学で天文学を学ぼうと思っている高校生に論文のイメージが伝わるんじゃないかな、と思います。平林先生が電波天文学を学んでいった時代は、日本の電波天文学の黎明期。通信衛星用のパラボラアンテナの建設も進みました。そして、野辺山に45mミリ波電波望遠鏡、ミリ波干渉計を建設。日本でも、干渉計(複数の電波望遠鏡を並べ、結んで、より高い分解能で観測することができる方法)での観測が始まった。一方、1967年、遠く離れたアンテナで干渉計を構成する「VLBI」の手法に成功。野辺山の45mアンテナもVLBIに参加。これが、さらに大きなVLBI…スペースVLBI(VSOP)、「はるか」に繋がっていきます。

 その「はるか」で何を観測するか。この本のメインテーマが「ブラックホール」の観測。ブラックホールは可視光では観測できない。ブラックホールらしきものは、銀河の中心にあるらしい。また、ブラックホールらしきものを電波で観測していると、電波の強さが時々変化したり、フレアを起こしたりする。これはどういうことなのか。ブラックホールはどうなっているのか。こうして、「はるか」につながる、VSOP計画は進んでいきます。

 VSOP計画がスタートしたのは1988年。MUSES-B、のちの「はるか」計画がスタートしたのは1989年。打ち上げは1997年…他の人工衛星でもそうだが、宇宙機のプロジェクトは、本当に時間がかかる。しかも、スペースVLBI、宇宙に電波望遠鏡を打ち上げて、地球の電波望遠鏡と干渉計を用いて観測するという、全く新しいプロジェクトを立ち上げて、実行するのは相当大変なことなのだと実感する。平林先生のご家族のお話や、平林先生ご自身のお話も所々に出てくるが、人生を掛けているのだな、と。
 また、「はるか」の特徴である、花びらのようなアンテナ部分をどうするか。衛星は過酷な宇宙環境に耐えられるのか。その設計や試験の箇所も興味深いです。

 1997年、M-Vロケット初号機で打ち上げられた「はるか」。ブラックホールの詳しい姿を次々と観測します。「はるか」によって、それまでわからなかったブラックホールの姿が明らかになっていく。ブラックホールの想像以上の大きさ、ブラックホールから出るジェットの激しさ。これほど面白いものはありません。

 活躍した「はるか」ですが、衛星にも寿命はあります。最期の時、停波のコマンドを送る時…グッとくるものがあります。それ以上に、その後、「はるか」でお世話になった方々を訪ねると、感謝の気持ちが伝わってくる…プロジェクトは終わっても、終わらない何かがあるのだなと感じます。

 そして、「はるか」の後継機、「ASTRO-G」計画を立ち上げますが…目標のアンテナの精度が達成できない、予算の問題などで、計画は中止に。ロシアの電波天文衛星「ラジオアストロン」についても書かれています。「ASTRO-G」がなくなって、VSOP衛星は「ラジオアストロン」だけだったので注目していたのですが、わからないことも多く…取り上げられていてよかったです。

 この本では、ブラックホールの合体を捉えた、アメリカの重力波検出装置LIGOについても触れています。重力波も、干渉計を使います。そして、観測するのはブラックホール。「これからは重力波天文学が花開く」(167ページ)とありますが、世界各地で重力波検出装置が動き出している一方で電波天文学もALMA望遠鏡があります。これから、天文学はますます面白くなるのだろうと思っています。


【過去関連記事】
電波天文観測衛星「はるか」に想う
無念… 電波天文衛星「ASTRO-G」開発中止
2月12日は「はるか」記念日
[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-09-18 23:48 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る



はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ目指して順調に飛行中!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測中!

最新の記事

[フィンランド独立100年記..
at 2017-12-13 22:16
映画「ドリーム(Hidde..
at 2017-12-10 22:30
[フィンランド独立100年記..
at 2017-12-08 22:14
物語 フィンランドの歴史 ..
at 2017-12-06 23:17
Suomi Finland ..
at 2017-12-06 22:26
マッティ、旅に出る。 やっぱ..
at 2017-12-05 22:01
[フィンランド独立100年記..
at 2017-12-04 22:40
[フィンランド独立100年記..
at 2017-12-03 14:59
冬のグリーティング切手&特印..
at 2017-12-01 22:19
Im ~イム~ 8
at 2017-11-28 22:39

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2017年 12月
2017年 11月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
more...

検索